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パタつかせてペン生~異世界ペンギンの軌跡~  作者: あげいんすと
第三章 泣きっ面にペン
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求めるひよこの心

お待たせしました。

 


「ねぇ、リム。そのてきせーかんてー? ってなに? たのしいの?」


「超楽しいぞ!! はっ……」


 目を輝かせるジョニーの声に、私は我を忘れそうになっていた。少し手遅れかもしれないが咳払いをひとつ、冷静を装う。


「あ、いえ。楽しい事というわけでは……一概には言い切れません。そもそも鑑定系統のスキルは……」


 少しだけその表情に陰を落とすクリムが不意に言葉を(つぐ)み、沈黙する。どうしたというのか。首を傾げる私とジョニーに改めて顔を向ける。どこか、おずおずとした様子で。


「あの……私がこのスキルを使える事はあまり口外しないでいただけませんでしょうか?」


「こうがい? リムのいうことも、よくわからない……」


「言うなと言うのは分かったが……こう言ってはなんだが、そもそも私たちはそこまで話すような間柄のやつなんてあまりいないぞ?」


 クリムのお願いに、ジョニーは更に首の角度を深くした。軽い翻訳を混ぜつつ問い返す私としても正直、なぜそんなことを今更という疑問は湧いてくる。


もしかしてスキルの略奪云々だろうか? 欲しいか欲しくないかと言われれば欲しいが、そこまでして欲しいわけでもないんだけど。



「それでしたら、フェニス様は御存知かも知れませんし……えっと、ソラ様とジョルト様には伝えてもかまいませんし……」



 ふむ、何を迷ってるのか解らないが、秘密というなら秘密にしよう。そもそも秘密にしようとする事を簡単に私たちに言ってしまうとはどういう事なのか。



「とにかく判った。それで、適性鑑定は頼めるか?」


「え? あ、はい……えっと本当にいいんですか? 一応適性鑑定の際、メアリー様の適性を私も知ることになりますが……も、勿論第三者に話すような真似は致しませんし、希望であればジョニー様にも聞かれぬように――」


 最早、勿体ぶってるとしか思えないクリムに、苛立ちすら覚えそうになる。最初に甘い餌をぶら下げてきたのはそちらだろうに今更になっておあずけとは、小悪魔的な天使とはある意味定番だが……っと違う違う。



「構わん。元よりジョニーに知られてもどうということはない。なぁ、ジョニー」


「うん? どうということはない、ってなに?」


「……困らないって事だ。ジョニーもそうだろ?」


「かまわん、もとよりメアにおしえても、どうということはない!!」



 まったく、一々話の腰が折れるけど……ジョニー可愛いよジョニー。決意を新たにふたりでドヤ顔をしてみせると、クリムは目を瞬かせて小さく微笑んだ。うっわ、可愛い……でも、ジョニーには負けるけど……それはそれで可愛いのベクトルが違うか。



「分かりました。それでは、お二人の適性を鑑定させていただきます」


 微笑みは一瞬、凛とした真面目な表情でクリムは頷いた。



 ◇ ◇



 適性鑑定とは、いったいどうやるのか。対面に座るクリムに緊張と好奇心が()い交ぜになる私だったけど――



「判りました」


「え? もう? 早くないか?」


「え? あ、えっと……すいません。それでは鑑定の結果なんですが――」


「あ、えっ、ちょっ、ちょっと待ってくださ……待ってくれ」



 思わず素が出てしまいながらも、なんとかクリムを止める事はできた。セーフ。こういうのは情緒が大事だと言うのに。



 と、いうか時間にしてみれば一分もかかってないんじゃないか。クリムは勿論、私や周囲にも目立った変化もないし……まさか、超展開はないパターン? そ、そんなぁ……


 いや、待て。まだ駄目と決まったわけじゃない。クリムがポーカーフェイスなだけで……


いや、それはなさそうだ。つまり、そういう事なのか……そういう事なのかなぁ……



「あ、あの……メアリー様。結果をお伝えする前に先にジョニー様の鑑定をしてしまってもよろしいでしょうか?」


「あぁ……そう、だな……」


「メア、どうということはない?」


「うむ、どうということはないよ……」


 その使い方はさて置き、確かにまだ聞く覚悟も出来ないし、ジョニーの方も気になる。



 しかし、ジョニーの適性鑑定か。



 そう思った一瞬、ほんの一瞬だけ。脳裏を過ぎったひとつ思いに、私は全身が凍り付いた。





 ――私より良くない結果だったら、いいな。




 目の前が真っ暗になるとはこのことか。誰だ。そんな事を思ったのは。誰だ。誰だ。


 凍り付いた全身が、次の瞬間には激しく燃え上がる。心の内から荒れ狂うそれは間違い無く憤怒の炎だ。



 私は、私は今、ジョニーを蔑む対象として望んだのか?


 あの……あのひと達のように……あれのように……!! ジョニーを扱うというのか!!



「メア? メア!!」


「っ……ごめんなさい。もう、終わったの?」


「は、はい。お待たせして大変申し訳ありません」



 憤怒を悟られまいと心に蓋を被せる、心が酷く疲れた。落ち着こう。私はもう、違うんだ……そう言い聞かせて、ジョニーへと向く。



「もう結果は聞いたのかい?」


「んーん。メアといっしょがいいの!!」



 眩しい笑顔でそう告げるジョニーに、思わずして泣きそうになる。醜い感情を覗かせた自分が恥ずかしくて、惨めで……だけど。今はしっかりと思える。どんな結果でも、ジョニーと私は変わらない。仲良しだと。それが家族なんだと。



あんな風には絶対にならない、と。



「それじゃ、クリム。聞かせてもらおうか」


「はい。それとお知らせする前に予めお伝えしますが、適性鑑定の結果は絶対ではありません。あくまでも今後の指針の一つと捉えて頂ければと思います」



「……メア、わかる?」


「あぁ、あとでな」



 様式美と呼ぶべきか、予防線と呼ぶべきか。どこか荘厳でいながらも無責任な言葉を並べ、クリムは一度深く息を吸う。



「メアリー様」


「……はい」


「あ、いえ。私なんかにそんな畏まらなくてもよろしいので……」



 ……調子狂うなぁ。



「んんっ、まずはメアリー様ですが、燃え上がる炎、猛火と呼ぶべきですかね。そして吹き荒れる風、こちらは暴風。つまるところ炎と風、こちらのふたつに適性があると思われます」


猛火と暴風、炎と風、か……


「そう、か。ちなみにその二つの属性は……なんというか、珍しいのかい?」


「……正直に言わせていただけるならば、個々の適性としての珍しくはないと思われます」


 一縷の望みは意図もたやすく崩れ落ちてしまった。いや、炎と風、自分でもあまりにもオーソドックスな響きだと判るけど――


「ただ、判った範囲で珍しいといえばメアリー様と相性の悪い属性が極端に少ないかと、それに炎に関していえば鳥族の方で適性があるのは比較的珍しいと思われます」


「……ほほう」



 そう来たか。まったく、クリムもひとが悪いなぁ。そうか、珍しいか。いやいや愉快愉快。


「それと、なんですが……」


「まだ何かあるのか? いいぞ、一向に構わん。何でも言ってくれ」


 なんといっても相性の悪い適性というデメリットは既に話した。ならば後は良いことしか……あれ? クリム? なんで目をそらすの? そういう前振りはあまり――



「ジョニー様の適性になるのですが……メアリー様にもお話ししても良いんですよね?」


「どうということはない!!」



 視線はそのままジョニーへと移り、一度だけ深呼吸するクリムの姿に、私の心臓がドクドクと脈打つ音が嫌に響く。先程も心に決めた、決めていただろと喝を入れる。



「ジョニー様の適性は、果てなく広がる大地、豊穣を(もたら)す大樹、そして――」



 まず二つ、そして私より多い三つめクリムの唇がゆっくりと言葉を紡いでいく。



「清天より差す陽光、です」



「…………」



 ジョニーは間違い無く解っていないだろう。瞬く目でクリムと私を交互に見ていた。


 適性の枕詞の内容は測りかねるが、土と木は転生者のソラさんと一緒に直ぐさま土木作業を出来ていたから納得できる。


 しかし陽光。光とは、これはまた――


「リム。それ、すごいの?」


「凄いに決まっているだろう!? そうなんだろクリム!!」


「ひぁっ!? あ、はいっ、それは勿論。大地と大樹もなかなか適正に出るほどの方はいませんし、光の適性に関しては魔王軍でも持っていられる方はほぼいません。恐らく、他の種族でも稀だと思われます。それこそ――」


「そうか!! やったなジョニー!!」


「おぉー、ジョニー、じゃなくておれすごいの!!」


「そうだ!!すごいぞ!!私なんかよりもずっとだ」


「その、メアリー様も凄いんですよ? 適性がここまではっきりと判るんですから恐らく猛火も暴風も更に上の適性になるはずです」


「メアもすごいの!!」


「うむ、ふたりとも凄いんだな」


「メアリー様もジョニー様もという事は、ソラ様の適性も恐らくは――」




「ソラァァァァッ!!」



 クリムの言葉を遮って響いた音は、雷鳴にも似たジョルトおじいちゃんの大声。ソラさんが何かやらかしたのだろうか。


「ソラ、どうしたの?」


「さ、さぁ……」



 何にせよ。適性の話はここまでか。


 どこからか聞こえるカタカタと鳴る小さな音を聞きながら見れば、ジョルトおじいちゃんがソラさんに向かって走り出していた。


 私達も行かねば。そう思ってはいるが身体が動かない。カタカタと鳴る音も止まない。それはどうやら私のクチバシから鳴っているようで――



 え……?



「どうしたんでしょうかね。メアリー様……メアリー様?」


「メア? だいじょうぶ?」



 ふたりともソラさん達の下へ行こうとしているのだろう。私へと振り返り、首を傾げている。


 いったい、どうしたんだろう。まったく、何でこんなに身体が震えて……


「メア? はやくいこ?」


「あ、あぁ、ごめんなさい――」



 今、行く。そう続く言葉の筈が、不意に止まる。

 



 ――ごめんなさい。



 それはまるで、――のようで、だから判ったが、解りたくはなかった。



わかりたくなんて、なかった。



 まだまだ、私は強くなれて(変われて)ない事に。



「御気分が優れないのでしたら――」



「すまない、もう……大丈夫だ」


「メア……?」


「ほら、行こうか……というより、あのふたりは何をしているんだ?」



 心を閉ざすように冷静に、仮面を着けるように、そうしてようやく身体も動く。



 しかし、視線の先にいたソラさん達はいつの間にか、なぜか抱き合っていた。



 いや、本当になんで?


 

2023/3/21

加筆修正


感想大変励みになります。


ここまでお読みいただき誠に感謝!!

現実に打ちのめされたり、知人の訃報を知ったりとばたついてますが、今後とも宜しくお願いします!!


メアリーサイドはシリアス地雷多いでござる。

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