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パタつかせてペン生~異世界ペンギンの軌跡~  作者: あげいんすと
第三章 泣きっ面にペン
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パタつかせて安息

大変お待たせしました

 


 自分の要望が通らなかった割には、どこかスッキリとしたような顔でクリムは小さく息を吐く。


俺としては、これ以上うだうだ抜かすようなら見捨てていくという選択肢も考えるだけ考えるが……ここまで来てそれもな。



「まぁ、あれだ。俺がいうのもなんだけどさ。こういう時は、あまり考え過ぎるなよ。だからといって、考え無しってのも駄目だが――」


 要領を得ない言葉にクリムは、きょとんと目を瞬かせながら聞き入る。どちらかと言えば聞き流すくらいでいいんだけど。



「飯でも食って、たくさん寝て、笑いでもしたら考え方なんか幾らでも見えて来るさ」


「なんだか……のんびりしてますね」



 悠長とか脳天気とかをオブラートに包んだような言い回しで苦笑するクリムへ、俺も確かにと鼻で笑って返す。



「そういうのは、嫌いか?」


「……私がそんな生き方をしても、あっ」



 ほら、質問を質問で返すな。と視線での訴えは判ったらしい。困ったように微笑むと、小さく首を横に振った。



「よし、決まり。もう、でももだっても聞きませーん。帰って飯だ。異議は認めん」


「……ふふ、判りました。その前にソラ様、少し宜しいでしょうか?」


「んあ?」



 踵を返した直後に呼び止められたせいか。変な声で返事をする俺へ、クリムが手を伸ばし……え?



「失礼します」


「あがっ!?」



 外見は良いクリムから、ゆっくりと抱き締められれば嬉しくなくはない訳だが、やはり痛みの方が多くの喝采を上げる。コイツ、いったい何を――



「光よ、癒せ。【イルミネイト】」



 囁き声に応えるのは、クリムの翼から漏れ出す淡い光。それが俺ごとクリムを包み込んで……


 あぁ、これはいい。縁側で日向ぼっこでもしているような心地良い温もりに、脇腹から走る痛みも次第に消えていく。



「御姉様から治療を受けても、ソラ様の御様子が優れないようでしたので……確かソラ様は火に纏わる属性と相性が悪かったと……」


「あぁ、やっぱり相性が悪かっ、たか……」


 穏やかな光に身を任せ、耳元で囁かれる説明を聞きながら納得する。同時に心地良い微睡みに目蓋が重くなる。


 ママ鳥のが涼風なら、こちらは日溜まりか。今度両方やって貰っても……


「――様?」


「よかったら、このままはこんで……なにか、あったら……おこして……くれればいいから、めーれーです」



 あぁ、それがいい。恥も外聞もこの安らぎを前には無意味。それにクリムもこれで確実にみんなの所に帰るだろう。我ながら名案だぁ……


 大義名分を得たり、と微睡みに身を任せて目を閉じた。意識を手放す寸前に、クリムがくすりと笑う声が聞こえた……ような気がした。



 ◇ ◇



 規則正しい寝息を立てるソラ様を抱き締めながら、私はいつの間にか自分が笑っている事に気が付いた。同時に、先程まで感じていた暗い気持ちが薄れていた事にも。


 

「不思議な、方……」 



 白くてふわふわな温もりを抱き、思わずしてそんな言葉が零れ落ちていた。


 このまま私がどこかへ去る事を疑わないのだろうか。少なくとも、愛らしくも無防備に寝入る姿を見ていると……信じてくれているのでしょうか?


 こんな私なんて放っておけばいいのに。ここに来る前は皆そうして来たのに。


 言葉にすると乱暴ですけど、あんな我が儘なまでの物言いは……御姉様以来――



「っ……」



 思わずして周囲を見回し、その姿を探してしまうけど……流石にいないようで、少しばかり安堵の息を盛らしてしまう。



 本当に、私はここに居てもいいのでしょうか。



 失礼ながらもソラ様の頭をゆっくりと撫で梳きながら、言葉にならない問い掛けを思う。答えはやっぱり……居てもいい、と言うのでしょうか? くどいと睨まれてしまうかもしれません。ふふっ。



 考え過ぎるな、か。そう言われても私は考えてしまうのでしょう。



 でも、少しだけ、もう少しだけ。



 前向きに事を考えても、いいのでしょうか? なんて。



「まずは、帰る……でしたね」



 私にとって帰るというには、烏滸がましいかもしれないけど。ソラ様を連れて行かなければ。そう頼まれたのだから。命令されちゃいましたしね?


 膝枕をした時から解っていましたが、柔らかくてふわふわで、ソラ様の御身体は非常に触り心地が良い。


なんだか触れていると心の奥がほんわか暖かくなって……いけない。早くお運びしないと。


 えっと、流石にこのままではお運びできないですから、脇に腕を通して、膝をすくい上げるように――


「っ……」




 も、持ち上がらない……!!



 結局、カラス様とキィルさんが心配して戻ってくるまで、私は一歩たりともソラ様をお運びすることが出来なかった。



 強く、なりたい。


ひとまずはソラ様を運べるくらいには。



 私自身が知らぬ間に、そんな気持ちが芽生えようとしていた。


これにて一件落着……?


次回からはメアリー視点での今章振り返り回となります。あの時、メアリーは? そんな物語となります。


ここまでお読み頂きありがとうございます!! 感想、ブクマ、評価、非常に励みになります!!


メアリー視点の後、閑話(今度こそ無駄話)を挟んでの次章予定としてはそろそろ外界に出てもらおうかなと思ったり思わなかったり。



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