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パタつかせてペン生~異世界ペンギンの軌跡~  作者: あげいんすと
第三章 泣きっ面にペン
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パタつかせて幻のいつか見た姿

 


 ひとまずは、一件落着か。



 貸しこそ作れど、可能ならばもう会いたくない暴力姫を十分に見送り、俺は深いため息を吐きこぼす。そして、思い出したようにずきんと痛む脇腹に顔をしかめた。


なんなんだよあの回復の(くだり)は……完全に無駄じゃねぇか。


 突発的な出来事だったけど、一応ながら我が領域南部の損害は少ないと見るべきか。損害といえばだが……


「カラスさん。改めて確認させて欲しいんだけど、あの分身っていうのは……なんていうか、生き物なのか?」


 微かな風に羽を揺らす黒き亡骸達を見るのは、やはり忍びない気持ちになるが、今後の事を考えるならば確認は必要だろう。


 その問いかけにカラスさんは、首を横に振って否定する。


だが、生き物では無いという答えを示すには、その姿はなんだか感傷的に見えたような気がする。


「あれは……いえ、彼女達は私のマナを媒介にした器と意識を繋げた存在。と、いったところでしょうか。僭越ながら委細は伏させて頂きますが、我が分身達の亡骸に関していえば、生き物の亡骸とは違い、半日と経たずして影も形も残りません。それまでお見苦しいとは存じますが、御容赦を――」


「仮に生き物とは違ったとして、俺を守って死んだのに、それを見苦しいとそんな風に俺が思うとでも?」


 つい口をついて出た言葉。それは怒りにも似た感情の発露かと、心の冷静な部分が思う。


同時に、傷付いたカラス本人に対して向けるべき感情ではないと――



「……ごめん、言い過ぎた」


「いえ、仮初めとはいえど私達の死を悼んでいただけたんです。ならば、私達としてはこれ以上なき幸いです。そこには生きた理由があったのですから」



 カラスさんの瞳が俺を真っ直ぐに捉える。どこまでも真っ直ぐな視線は、そこにどんな意味を持っているのか。


少なくとも前世で感じた事のない類の視線に俺はそれ以上の言葉を失い、先に視線を逸らしてしまった。



「と、辛気臭い話はここまでにしましょう。さぁ、(マスター)凱旋(がいせん)です。帰還のご指示を」


(マスター)の件は保留として……そう、だな」



 いつまでここにいても仕方がない。ママ鳥達に報告すべき事も沢山ある。



「それじゃ、帰ろうか」


「はい」

 

「キシャッ」


「…………」



 みんなもよく頑張ってくれた。キィルは何もしてなかったような気がするし、リオーネは睡眠中だからいないけれど、一応みんなを見回して俺はようやく極樹へと足を向けて――




「ソラ様。私はここで去ります」


「キィッ……!?」



 背中にかけられた言葉で、帰路への一歩が、いきなり止められた。


 無言のまま振り向けば、俯いたまま動かない声の主、クリムがいた。


 ただ、彼女が告げた言葉に、俺はといえばあまり驚かなかった。襲撃の直前、ここを出て行くと告げた彼女の言葉もあったからだろうか。



「此度の襲撃。元を辿れば私がこの領域にいた為に起きてしまいました」



 いつもの頼りない口調ではなく、滑らかに紡がれる言葉は、彼女の確たる意志を思わせる。


 事実、襲撃の主犯であるプラヴィ本人がそう言葉にしたのだ。クリムを魔王選抜から蹴落とすために来た、と。



「キィ……」


「私がいたから、ここが襲われてしまった。私がいたから、カラス様の分身達も、爬虫族の皆さんも死んでしまった。やはり、私は――」



 自責の念をそのままに、懺悔のように膝を付いて言葉を並べるクリムへと俺は歩み寄る。


 小さな体だ。幼少とはいえ俺より背丈も大きな翼もある筈なのに、酷く小さな体だ。



「クリム……」


「わた、しは……」



 俺の呼ぶ声にようやくクリムは顔を上げる。同じ高さにある、どこまでも暗く揺れる青い瞳で見つめる彼女を、俺は……




 すぺん、と。




 その脳天にチョッブを食らわせた。



「いたっ……!?」


「づぁっ!?!?」


「キシャッ!?」


「よしっ!!って(マスター)?」



 割と強めに叩けど、ひ弱なペンギンの俺だ。むしろチョップの衝撃で脇腹から電撃を食らったかのような痛みを受けるあたり、自爆でもある。いよいよヤバいこれ、絶対にヤバい。



「ソ、ソラ様。いったい何、を――」


「何をじゃねぇし、痛くもねぇ」



 のた打つレベルの激痛を必死に堪えながら、チョップくらいの痛い程度で狼狽えるクリムを睨みつけた。いや、痛みを我慢する過程で睨むような形になっただけだ。



「そもそも出てくって言ったところで行く宛はあんのか」


「いえ、ですが、もうこれ以上――」


「迷惑をかけたくない。それって逃げてるよな」


「…………」



 痛む脇腹に心がささくれ立つのを自覚しつつ、しかしいい加減にコイツにしっかり言うべきだ。



「悪いのは全部自分。クリム、お前の言葉はそれで終わってるんだよ」


「え……終わ、って……?」



 初めて聞いた言葉のように眼を瞬かせるクリムに、俺はそうだと頷いてみせる。



「仮にお前が悪いとして、それでお前はどうするんだよ」


「……ま、まずは謝罪をして」


「で?」


「…………」


「終わりか。私が悪いんです。ごめんなさい。それで終わりか」


「許されなくても、そうするしか……」



 追い詰める言葉を吐きながら、なんで自分がこんな役回りをするんだと嫌な気持ちが浮かんでくるけど、今は蓋をする。


 だが気が付けば、クリムは俺を睨んでいた。


 下手をすればメアリーより酷いコミュ障で、怒りとは無縁と思っていたクリムが、俺を睨んでいた。


「私には……それしか、出来ませんから」


 その言葉がふてくされて出たのか、そんな事は割とどうでもよかった。ただ、クリムがそれで終わると思っているらしいのが腹立たしい。



「いや、どうしてお前がお前の出来る限界をそこで決めるんだよ」


「っ、ソラ様に私の何が判るんですか!!」

 

「何も判らねぇよ。お前の身の上話も、お前がどんな風に生きてきたってのも」


「それじゃ――」


「だからって諦めるのか。自分を悪者にして、逃げるのか」


「私だって、好きでこんな……」


「俺だって、好きでこんな弱小ペンギンになりたくなかったよ」



 それははっきりと言える。選べるならイケメンエルフハーレム展開が良かったといえば嘘では無い。


クリムはそんな俺の言葉に虚を突かれたように目を丸くした。そこで俺も熱が少しだけ引いた。不覚にもきょとん顔が可愛いとか思ったわけではない。決して違う。



「でも、俺は俺なりにこんな自分をどうにかしたいと思っている。実際、今回は殆ど活躍してないしな」


「いえ、(マスター)がいなければ……あっ、はい。黙っています」


よろしい。話を遮るなバカラス。


「ごほん。俺だって基本的にしょっちゅう色んな事に打ちのめされてんだ。ミルキーワームにさえ勝てなかったしな」


「流石にそれは私でも嘘だとわかります。ふざけないでください」


「…………」


「え? あ、本当に? も、申し訳ありません!!」



 嘘じゃないんだけど? 素で傷付くんでそういうのやめてもらえます?



「お、俺の話はいいんだよ!! つまり、なんだ。俺も頑張るからさ……お前ももっと頑張れよ!!」



 ぐだぐだになってしまったが、果たしてクリムに通じただろうか。



「頑張れ、ですか……これまで、なにをしても駄目だったんですよ?」



 少しの沈黙を置いて、ぽつりと呟くような声が響いた。



「みんなに好かれようと、本で調べて、何回も失敗してお菓子を作っても、みんな私を気味悪がって近寄ってこなかったんですよ?」



 そこにある表情は何度か見た、あの暗い表情ではなかった。



「みんなが、御兄様が、御姉様が、私の事をいなくなればいいと。遠ざけるんです……」



 優しさすら感じる微笑みに、頬を伝うであろう枯れ果てた涙の幻を見た。



「私は、ただ……みんなと仲良くなりたいだけなのに……!!」



 そこにいるはずのない、似ても似付かない誰かの幻を見た。



「ソラ様。私は……これから、何を、どう頑張ればいいですか?」



 俺が見た誰かの幻が出した答えは、




 全てを諦めて、何もかも諦めたように生きる事。




 今のクリムの姿は、前世で全てに疲れ果てた時代の俺に酷く似ていた。


重い話は続きを書くのが辛いですが、早めに上げたいと思います。


あと少しで今章のソラパートが終わります。メアリーパートはさくさく書ければいいな……無理か。


ここまでお読み頂きありがとうございます。


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