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パタつかせてペン生~異世界ペンギンの軌跡~  作者: あげいんすと
第三章 泣きっ面にペン
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パタつかせてごめんなさい

 


 クリムが魔王選抜から降りる。いや、この場合は降りていた、か。その事実はプラヴィリアと、そして俺を驚かせた。



「クリム、どういう事だ?」


「え、クリム? 誰?」



 パニクってるプラヴィリアはこの際、置いておこう。戦意はなさそうだし、少なくとも話がつくまでは大人しいだろう。



「ソラ様はご存知だったのでは? あ、申し訳ありません。聞き返しては駄目だと言っていたのに……」


「いや、今はいいんだが」



 涙を拭くクリムに、気持ちを落ち着かせるように制すると同時にカラスさん、いやカラスを無言で呼び寄せる。



「おい、バカラス。話が違うぞ」


 クリムは魔王選抜の支持者を募る為に来たって話じゃなかったのか?


「はて、私は見解を述べただけですが?」


「それは……そ、それでもクリムが降りるって情報くらい事前に手に入れられただろう?」


「フェニス様もよく間違われますが、私は夜戦暗殺部隊……いえ、元夜戦暗殺部隊です。そういった情報は昼間情報処理兼、偵察部隊統括のヒメに聞いてください」


「ならなんであの時に来たの!?」


「ヒメは夜目が効きません故……広い意味での魔王選抜についてのお話くらいならと」


「ぐぬぬ……」


 のらりくらりと言葉を返すカラスに俺は思わず歯噛みする。歯はないけど。


 確かに正論だ。魔王選抜の詳細は知らされないとも言っていた。完全に俺は憶測だけで行動していたという事になる。


挙句に勝手にクリムを悪者、とまではいかずとも避けようとして……



「お待たせして申し訳ありません。それとお願いがあるのですが……よろしいですか?」


「あ、いや。うん、なんだ?」



 ひそひそ話は終了と、背中にかかる声に向き直れば神妙な面持ちのクリム。そして、ばつが悪そうに俯いたままのプラヴィがいた。



「此度の一件で亡くなられた方々の鎮魂を……その、誠に僭越ながら、私にさせていただきたいのですが……」


「鎮魂?」


「はい。このままでは彷徨う魂でこの地が不浄に染まる恐れが……」


どう聞いても良からぬ事になるらしい。詳しくは改めて聞くとしようか。


「可能であれば頼みたい」


「ありがとうございます」


 湖の周りには見渡す限りの爬虫族達やカラスの死体……いや、遺体と呼ぶか。遺体が転がっている。


 侵略者とはいえ、放置するのも決まりが悪いしな。


「無理のない範囲で構わないが……」


「おまかせください」



 少しだけ眉を下げて笑おうとするクリムだが、返ってそんな笑顔は痛々しいだけだった。


「こんなままじゃ、あまりにも可哀想ですから……」


 続く言葉に、クリムの目から再び涙が零れ落ちる。


 あぁ、まったく。もう。



「終わったら呼んでくれ、それまで……見張ってる」


「……はい。ありがとうございます」


「それと、改めてすまなかった」


「え?それは……」


 返事を聞き終えるより先に背を向けて歩き出す俺は、自分でもぶっきらぼうだと思う。と、不意に、でんと身体を押されて見ればキィルがいた。



「キシャッ」


「なんだよ」


「キシッ」



 うぜぇ。なんだよ。


 そういえば、他のみんなはどうしているだろうか。まぁ、最弱戦力が無事だったんだから無事だろう。いや、これはフラグじゃないぞ。



「ソラ様。状況を報告させて頂きに……」



 噂をすればなんとやら、鳩のヒメモリ氏が数羽の鳥を引き連れて空から降りてきた。同時にプラヴィとこの惨状を見て豆鉄砲を食らった顔になる。


「失礼、状況を報告させて頂きます。まずフェニス様ですが地龍と交戦し、御身と領域に多少の被害を受けましたが地龍討伐に成功。続きまして……」


 チラリとプラヴィリアを一瞥し、その意識がこちらへ向いていないことを確認した上で言葉を紡ぐ。


「メアリーお嬢様達もオークの撃退に成功、途中予期せぬ事態が起きましたが委細は後程。こちらは……」


「見ての通りです。ひとまず片は付きました」


 ずきんと思い出したように脇腹が痛みを訴えるが、このくらいなんてことないだろう。高々数本あばらをやられただけだ。


「流石はソラ様。お見事でした。"黒"は役立ちましたか?」


 感慨深げに、ふるっふーと鳴きながら、ヒメモリ氏はどこか嫌悪感を滲ませる視線をカラスさんへと向ける。


 黒、って何? カラスさんの事?



「日が落ちる前に片付いて良かったですねヒメ。あと、私はもう黒ではない。カラスと(マスター)から名を頂戴した」


「ほほっ、その名で呼ぶとは……森の肥やしになりたいか小娘。それにどなたが(マスター)だと? まさかソラ様をそう呼ぶのではあるまいな?」



 なにこのふたり、仲悪いの? 喧嘩する鳩とカラスって……餌の取り合いかよ。



「無論、ソラ様が我が(マスター)であらせられる。そうですよね? (マスター)


「そうなのですかな?」



 カァカァ、ふるっふーと揃ってこちらを見るふたりに、俺は心中で溜め息を吐きこぼす。



「保留で」



 確かにカラスは命の恩人といっても過言じゃないけど、俺は(マスター)って柄じゃないよ。



「つまり、私は下僕(げぼく)見習いです」


「ソラ様。この件は後程、黒のいない所で致しましょう。この後のご予定はどうなってますか?」


「クリム……アマルテア様がこの地の鎮魂をしてくれるそうで――」


言葉に続くように向ける視線の先、所在なさげに立っている奴を見る。腹の奥に再び何かが火を灯すのがわかった。



「この後も引き継いでいいか? 一件の決着(ケリ)がまだついてねぇんだ」


いかん。感情が言葉に乗ってしまった。丁寧な物腰ってメッキがベリッといったわ。落ち着け俺。



「お任せ致します。では、状況が落ち着きましたら極樹の下にて集合という事で――」



 あれ? みんなこっちに来るんじゃなかったの? そんな視線にヒメモリ氏は一瞬だけプラヴィを見るという無言のメッセージで返す。


 プラヴィに知られたくない何かがあるわけか。クリムの一件でとんでもない勘違いをしたせいで自信は持てないが。



「わかった。遅れるが祝勝会の準備でもして待っててくれ」


「御意に」



 短く言葉を返したヒメモリ氏が西へと飛んで行った。多分、西に。つまり、ジョルト師匠達に追加の報告をしに行ったのかな。多分。



「さて、彼女は随分と大人しくしているみたいだが……」



 やんややんやとしている内にも先程まで暴れていたプラヴィリアは、変わらず何もしていない。ただ、クリムの背中を静かに見ているだけのようだった。



 そのクリムだが、こちらからは大きな翼と背中しか見えず。両膝をついて何かをしているようにしか見えない。


 鎮魂、といったか。果たしてそれはなんなのか。カラスに聞いてみようと思いクチバシを開き駆けた、その時。




 青く広がる空から幾つもの光の粒が雪のように辺り一面にゆっくりと降り注いだ。


進化する前のリオーネのような光の粒が、遺体達にゆっくりと降り積もる。溶けることなく、ただ静かに降り積もる。



 幻想的で、不思議とどこか悲しくなるような光景がそこにあった。



「これは、分身達が……?」


「カラスさん?」



 不意に零れた呟きに目を向ければ、カラスさんの身体が淡く輝いていた。



(マスター)を守れて良かった。とお伝えくださいとの事です」


死者からのメッセージという奴らしい。そんな言葉を聞けて俺も心のどこかがスっと軽くなるのを感じた。


彼女達の命に報いる事の出来るように……今だけは(マスター)を否定なんてせずにいよう。



「こんな体験は初めてですが、そうですね……私達らしいと言いますか。今後はもう少し無茶のないようにしたくはなりましたかね」


「……あぁ、そうしてくれ。俺ももう、カラスさんが死ぬ姿を見たくないよ」



 俺を守って死んでいったカラスさん達の亡骸を見て、俺はそっと手を……翼を合わせた。


……(マスター)、か。



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