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パタつかせてペン生~異世界ペンギンの軌跡~  作者: あげいんすと
第三章 泣きっ面にペン
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パタつかせて絶対要塞プラヴィ姫

 


 事態は緊急を要する。



「動くなっ!!」



 機先を制すべく、俺は半ば反射的に有らん限りの叫びを響かせる。それが正しい選択かどうかさえ、考える暇も許されなかったと思う。


 ただ、同時に俺の耳にはキュイアッ!! と凛々しくも愛らしい鳴き声も聞こえるからなんとも締まらない。


 目の前には敵勢の大将であろう少女が、端正な顔を驚きに染めたまま俺を見ている。


深紅の薔薇を思わせる鮮やかな紅色の髪は水しぶきに濡れ、どこか幼さの面影を漂わせる少女をどこか(あで)やかにしていた。


 ただし、間近で見ても母性の象徴は皆無、つるぺったんである。



「っ……」



 一瞬だけ鋭くなる視線に俺は思わずして絡む視線を自ら外す。それが気恥ずかしさからなのか、殺気に気圧されたか、なんなのかはさて置く。


直後に戦場で相手から目をそらす愚かさに遅れて気が付き――



「動くなと言ったっ!!」



 偶然、視界の先に捉えたのは一匹の蛇。草色のそれは、よく自分でも気付けたなと思える程に周囲の色に溶け込んでいた。結果論ではあるが、あの少女から目を逸らしていなければ思わぬ奇襲を受けていただろう。



「下手なことをしてみろ。同じくらいの被害が出るぞ?」



 内心の動揺を押し殺しながら、その冷たさで声を出す。勿論、ブラフ(うそ)だ。こんな小さなペンギン一匹に何が出来るだろうか。今更だけど言葉通じては……いそうである。クリムも鳥語理解してたしな。



「で、出来るものですか。お前は既に湖から上がっている……先のような真似――」


「試して、みるか?」



 頑張れ俺。笑え、笑うんだ。どんな劣悪な環境でも営業スマイルくらい出来る俺だったじゃないか。ペテンペンギンの名を持つならばやってのけろ。


 しかしながら相手はあまり腹芸には慣れていないのか、少女の顔には隠しきれない動揺がある。他人の顔色を窺って生きた前世の経験が嘘でなければ、これは好機である。



「ひとつ、良いことを教えてやろうか?」



 敢えて一歩前へ、情動(じょうどう)を消した冷たく嘲笑う声と一緒にゆっくりと余裕を持った一歩だ。


この場を支配するように傲岸(ごうがん)に、不遜(ふそん)に、俺は振る舞う。



「さっきのアレだが……俺がやったわけではない」


「え……?」



 内心では汗がびっしょりで、どこか自棄(やけ)っぱちになっていたのかもしれない。


 困惑の色が強くなる少女の顔は、どことなく嗜虐心(しぎゃくしん)(くすぐ)る。


間違い無く俺よりも強いであろう少女の目に、今の俺はどう映っているだろうか? 一歩踏み外せば蹂躙されるのは俺なのにな。



[心理によるアンロック、称号【サディスティックペンギン】を取得しました]



 ……俺はどちらかと言えばマゾだと思ったんだけどな。



「つまり、つまり貴方はまだ余力を残している……そう言いたいのね?」



 貴方、ねぇ。つい今し方、お前呼ばわりしていた癖にどういう風の吹き回しかねぇ。



「いや、俺は弱いよ?」


「は……え?」


「だから、"策"を練った――」



 間の抜けた少女の声に、俺はゆっくりと翼を天に向けた。別に見ろと言ったつもりはないが、少女は馬鹿正直に上を見上げた。


 そこにあったのは空一面を染め上げる黒。


 同時に、音もなく少女の肩へと停まる一羽の鳥。濡れ羽色をしたその姿は、少女の様相に皮肉な程似合っていた。魔女とその使い魔っぽい。



「今度こそ全員、動くな。お前達の姫様がどうなってもいいのか?」



 しかし、その実。それは使い魔ではなく死神である。よくやったカラスさん。



「貴様っ……誰に断って私の肩を止まり木に……!!」


「貴様ではない、我が名はカラス。(マスター)に立ちふさがる(ことごと)くに死を告げる者なり」



 凛々しくもカァと鳴くカラスを、不覚にも格好いいと思ってしまった。そんな俺の尊敬の眼差しを受け、カラスは、ふふんと不敵に笑って――




「立場を(わきま)えるのは貴様だ。王家の乳無し姫が――」



 カラスさんの言葉は、最後まで告げられることはなかった。



 一瞬。そう、一瞬だ。



 少女の降ろしている腕が"ブレた"と思った次の瞬間。



ぱん……



 カラスは、血飛沫と共にカラスだった肉塊に変わっていた。



「……は?」



 べちゃり、と黒と赤の何かが地べたに落ちるのを見ながら。カチカチとクチバシが勝手に鳴る音を聞いた。



「誰が、なに……なんて?」



 地獄から響く声。そんなものがあるならば、きっとそれはこんな音をしただろう。



 逃げろ。今すぐ、ここから。



「言いたいことはよぉくわかったわ」



 誰が言ったのか。誰も言っていない言葉に従うように俺は後ずさる。視界の隅、そこにいる爬虫族さえもわき目もふらずに森へと逃げ出していった。動かないのは死体だけ。



「全員、ぶっ殺す」



 死の中心で、少女は静かに吼えた。




ぜっぺき しょうじょ プラヴィ が あらわれた !!

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