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パタつかせてペン生~異世界ペンギンの軌跡~  作者: あげいんすと
第三章 泣きっ面にペン
102/139

パタつかせて本領発揮


 

 この湖で生まれた水の妖精リオーネ。



 彼女に何が出来て、何が出来ないか。


そんなあまりにも漠然とした質問に答えた彼女の言葉の意味を、俺は水中で理解させられた。



 ――水 ナラ ナンデモ? タイテイ ノ コトハ?



 身体を撫でる程の心地良い水の流れのなかで、俺は一匹の蜥蜴(トカゲ)に目をつけた。


黄土色に体表を染める蜥蜴の彼、彼女? まぁ、彼は今どんな気持ちなのか。


 短い手足で水を掻けども、果たしてその身体は流れに逆らう事など出来ない。


今もその大きな身体を丸ごと縦回転させているのだ。可哀想と思うと同時にどこか滑稽とも思える。


 ままならない挙動、想定外から来る混乱は口から空気という名の命の源をごぽりと吐き出す。コイツだけではない、視界に映る爬虫族達は揃いも揃ってこの世界を苦しそうに生きていた。



 リオーネ、もっと行ってみよう。



 俺の思考を読んだのかはさておき、水流はその勢いを増し、まるで巨大な洗濯機に洗われる衣類のように爬虫族が水中を踊る。



 流石は水の妖精、水の操作はお手の物か。そして、ペンギンの俺、この程度の流れは余裕である。息継ぎも難なく行ける。


 とと、調子に乗らずに獲物を物色物色。やはりあの大きな蜥蜴がいいか。


 翼を羽ばたかせれば、ぐん、ぐんと勢いは加速する。彼らにしたら行動不能に陥る激流であっても、さしたる支障はない。なんなら流れに乗る俺を捉えられる者はいない。



 【水中機動】のスキルを十全に活かした俺は錐揉み状に回転を始める。


これぞ【水中機動スキルツリー】のひとつ【アクセルロール】だ。



 クチバシをきつく閉じ、文字通りにロケットとなった俺は目算通りに蜥蜴の横腹へと突撃する。


まぁ、どうせダメージらしいダメージを与える事が出来ないだろうけど――




[経験値を取得しました。レベルが上がります]




 ……え?


 何やら軟らかいクッションを突き抜けたような感触と共に、頭に響く声。今、なんて言った? レベルが、上がります?



「ごっぼぁぁぁっ!!」



 やったぁぁぁっ!! と叫びたかったのだが、口からは声と一緒に空気が吐き出された。あっ、やべぇ。


 あまりにも迂闊な行為に一度水面へと上昇、しかしながらレベルが上がったって……うぇへへ……なんたる僥倖(ぎょうこう)!! ペンギン最高!!



 ついつい調子に乗って勢い良く水面から飛び上がり、これ見よがしに【スプラッシュジャンプ】、空中にて二回転半捻りである。湖うめぇ。飛び込むついでに水面の蛇に翼をすぺんと一撃。



[経験を取得しました]



何がどうなってやがる。完全な餌場じゃねえか。地形補正ってやつなのか? だが疑問より先に今はやることがある。経験値だ。


無防備な奴らの土手っ腹目掛けて俺のクチバシは突き刺さる。一撃でやれなくても焦ることは無い。止まらずに次々につまみ食いするように攻撃していく。


[経験を取得しました]


[経験を取得しました。レベルが上がります]


[経験を取得しました]


鳴り響く声に興奮は留まるところを知らない。同時にこの現象の仕組みを考える。


俺の攻撃で傷を負い、血を流していく蜥蜴達はパニック状態、血を止めるより空気を求めるがそれも叶わない。窒息か失血、どうやらこの環境下ではどちらも俺の経験値になるらしい。ミルキーワームやマゼンダワームの場合、自死に分類されるから?


つまり死因が他者によるところが分け目か。



 息継ぎついでに飛び上がり、湖とその近辺の様子を確認。湖は荒々しいまでの大きな渦を作り、所々で爬虫族と思しき生き物が見えていた。


 そして、最初の勢いはどこへやら、湖の周囲では呆然と立ち尽くす爬虫族の皆さん。仕掛けるのを遅らせるべきだったかと欲を出す心を自制して再び湖へ――



「ソラ、湖 ヨゴサナイデヨ」



 着水と同時、リオーネが"両手を腰に当てて"ぷんすかと怒っていた。あぁ、かなり血を出させたな……と申し訳ない気持ちを……




 ……え?




 水よりも濃い青をした髪を揺らめかせて、怒っているこの少女は果たして誰だ?


「ソラ、キイテル?」


「…………ごぼ」



 じっとりとした眼差しを向ける青い少女の声に空気漏れで答える俺。



 まさか、リオーネ……なのか?



 つい今し方まで光の粒だった彼女がなぜ……と疑問を抱くより先、俺達の間をぐったりとした蛇が横切る。



 窒息死。



 確かに俺よりも遥かに多くの死を与えたであろう。あまりにもえげつないその言葉が答えだった。レベルが上がってこうなった?



「アト チョット ツカレタカラ ネムルネ?」


「ごば……」



 可愛らしく欠伸をひとつ。恐らくは俺達のように過剰なスキル取得、この場合は進化? による休眠なのか。水に溶け消える少女に俺はこくこくと頷く。


 大活躍のリオーネに対して、俺はまだ数匹。しかも、次やったとしたら確実にリオーネが怒るので自然とボーナスタイム終了だ。


まじかよ。せめてあと一匹――



「アァ、ソノマエニ……」



 完全に消える直前、リオーネの呟きに身体をビクつかせる俺だったが……不意に身体に衝撃が走り、水面がどんどん近くなる。



「ゴミ……ソウジ シナキャ……スヤァ」



 俺はゴミじゃねぇぇ!? 視界の隅で同じように水面へと登る爬虫族を見ながら、俺達は湖から文字通り吐き出された。解せぬ。



 先程とは一転して、ずべしゃっと湖から吐き出されて地べたに転がされた俺の上に蛇の亡骸が乗っかる。まったく、こんな扱いは酷いと思います。



「……ったく、重たいなぁ」


「そこに誰かいますの!? 衛生班!!」



 ……あ。


「あ……」



 蛇を退かせて起き上がる俺の目の前。



 黒いドレスを着た女性がそこにいた。




 リオーネよ……よりによってここに捨てるなって。


2023/3/18

加筆修正

レベルアップ、推測追加


ボーナスタイム終了のお知らせからのソラさん終了のお知らせ

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