パタつかせて激戦の始まり
ずぼむっ!! と無事に水面へ着水する俺にすかさず頭へと響く声。
[アクションによるアンロック、【ビークスキルツリー】派生、【開幕を告げる俺のメテオダイヴ】を取得しました]
[スキルツリー派生種数により、称号をアンロック、【ロケット野郎】を取得しました]
涼風を切りながら熱くなる身体と思考が水で冷やされる。ロケット野郎って……なかなか良い響きだな。称号の効果は恐らくまた無効化されるのだろうけど。
さぁ、準備をしようと水面へと浮上する俺だが、その隣を滑るように寄り添う光が現れた。
「ソラ? ビックリ シタ」
「あぁ……リオーネ、悪かった。ちょっと大変な事になってな……」
「タイヘン ナ コト?」
敵勢はあとどれくらいで着くだろうか。滑空しながら見た限りでは判らなかったけど。
何にせよリオーネには事情を話して手伝って貰わねば、しかし果たしてどれだけ戦えるのか。あまり期待は出来ないかも知れない。
そういう訳で、領域全域が襲撃を受けている事を告げるとリオーネは強い明滅を繰り返し始めた。え、なにこれ?
「オッケー。ナニ シタライイ?」
「あ、あぁ……」
どうやら興奮してるようだ。初めて見るリアクションに軽くびっくりしたわ。結構ノリノリだな、さすがうちの領域の子。
何をするより、まず何が出来るかだな。そんな話をしながらも浮上して周囲を確認。
不気味なまでにひっそりと静まり返っている……いや、だいたいいつも静かなんだけどさ。本当に来るの? そう疑わざるを得ない程に静かで――
「主。第一陣が間もなくこちらに到着します。折を見ながらこちらへ誘導しますね」
「わかった。ふたりは……流石にまだ来ないか」
「少々お待ちを……」
頭上をすいっと飛ぶカラスさんの報告に、否が応でも気が引き締まる。これで集団ピクニックに来たとか穏やかな理由なら歓迎するのにね。
「確認が取れました。到着はまだまだ先になりそうです。ヒメモリから伝達、フェニス様が戦闘を開始。メアリー様達も偵察隊と思しきゴブリンを発見、戦闘を開始したようです」
カラスの分身からリアルタイムに情報が入るらしい。性格はアレだが非常に有能な存在だ。
「了解。こっちも確認した」
カラスさんの分身とヒメモリ氏達の伝令による報告が入ると同時、森からうようよと蛇と蜥蜴の一団が姿を現した。
本当に来たよ。努めて冷静でいようとしながらも、焦りにも似た感情が滲む。
「言葉は通じるか!? いったい貴様達は何のようでここに来た!!」
警告と自身への鼓舞を半分ずつに俺は一団に誰何をかける。
……が、言葉が返される代わりに蜥蜴達がせせら笑うのを見た。
怒りより先に怖気が立つ。悪意が、敵意がはこんなにも分かり易く伝わるものなのか、これは言葉が通じようと通じまいと関係ない。
「畜生ども……今、我が主を嘲笑ったな?」
その中でも一際強く響いたのは静かな声だった。だが、俺の警告よりも一団は劇的な反応を見せることになる。
直後、俺の背で森がさざめいた。振り返った俺もまた、彼らと同じ顔をしていただろう。
「言葉の通じぬ畜生どもよ。恐れよ。告死鳥の怒りに触れた事を」
青い空を染めんばかりに広がる黒い影。前世で見たならば、不吉を確信させる程の数のカラスが姿を見せた。
「恐れよ」
「「罪と死を!!」」
「受け入れよ」
「「罰と死を!!」」
一羽一羽の声は小さくとも、周囲全体に響き渡る鳴き声は味方の俺ですら戦慄を覚える。
「我は黒死鳥カラス」
もはや空は暗く染められようとしていた。
「我は罰を与える者なり」
「「「「我は、死を告げる者なり」」」」
黒い風が蹂躙を開始した。
飛び交う悲鳴と爬虫族の物と思われる体液と肉片。カラスさん達が通り過ぎた跡に生き物と呼べる存在はひとつもなかった。
うん……俺、いらなかったんじゃないかな?
「ソラ、ナニ シタライイ?」
「あ、うん。見てようか?」
「どうした!! 貴様らは鳴くしか能がないのか!?」
「ソラー、ヒマー」
「そうだね。暇だね」
「畜生よ!! 逃げ惑え!! 叶わぬ許しを請え!!」
こらリオーネ、揺らすなよう。ははっ、やめろってー。水かけてやるんだからなー。待て待てー。潜っても無駄だぞう。
結局、第一陣とやらを壊滅させるまで俺とリオーネは水かけ遊び……もとい、水中戦闘における機動訓練を実施していた。
まさかのカラス無双回。
ソラ『解せぬ』
アクセス数、ブクマも順調に伸び、皆様のおかげで無事に100話目に到達出来ました。今後ともペン生をよろしくお願いいたします。ペペーン!!
追記、活動報告に100話記念おまけを作りました。




