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パタつかせてペン生~異世界ペンギンの軌跡~  作者: あげいんすと
第一章 ペン里の道も一歩から
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パタつかせて打算



 珍しく、といってもメアリーと俺はまだ出会って数時間しか経っていない。それでも、その口調の変化と話題から分かりやすく伝わる物はある。



「すいません。やっぱりそういうのって思い出したくない、ですよね……」



 彼女の変化は何なのか。先の理由から信頼に寄るモノではない事くらい判る。


では、何か? 仮初(かりそ)めの余裕で隠しているであろう彼女の本音が漏れている理由とは? 寂しさ? 悲しみ? この心の色は何に寄る?


 まったく、嫌になる。こびり付いた悪癖とも呼べる性分が。意識せずとも考えは次から次へと根を生やす。



「30になったばかり……かな」


「あ、やっぱり。なんだか物腰が落ち着いてるな、って……」


「言っておくがおっさん扱いはやめてくれよ? 今は産まれたばかりの可愛らしいペンギンだぞ?」


「ふふっ、ほんとですね」



 否が応でも長いつきあいになるのだろう。第一前提としては気まずい関係でいるのは避けるべきだ。小さな羽をパタつかせてみせると、メアリーは控えめに微笑む。


 同時に打算的に頭を働かせて動く自分に覚える罪悪感は、いつになっても拭いきれない。それこそ死んでも治らなかったわけだが。



「そっか。私の倍は生きてたんだ……あんな世界で……」



 その小さな、本当に小さな呟きは、寂しげなひよこの鳴き声と一緒に俺の耳朶(じだ)を打つ。


 正直、他人の苦労話ほど聞き難いモノはない。冷たいようだけど、何でもかんでも背負うのは優しさとは言わない。その事を身を持って知っている。



「そうか、そういえばその点で言うならメアリーは俺の先輩になるのか」



 呟きを聞かなかった事にして、話の方向を脳内でシュミレートしていく。きっと拾えば話は良くない方向に転がるし、その先も良いものにはならない。



「え?あ、でも……ソラさんは――」


「前世なんて関係ないさ。お姉ちゃん、頼りにしてるんだから」



 持論ではあるが、人間は頼りたがる生き物だが、同時に頼られたがる生き物だ。下手なおべっかは見透かされてしまうけれど。その奥に隠した本意は上手く隠せるはずだ。



「お姉、ちゃん……?ふふっ、ジョニーだとなんともないのにソラさんに言われると不思議」


「あぁ、スキルとか俺も判らないしな。転生されりゃ、正直それまでの事だってリセットされたようなもんだ。貯金も、地位もさ」


「そう、かな……」



スキル云々(うんぬん)はメアリーも自分から振る程度には興味が深い、俺とて興味がある。共感は心によく響く、そしてさり気なく前世を否定するでもなく、その痛みを他所へと持っていく。



「あぁ、だってさ――」



 あぁ、嫌だ嫌だ。騙すみたいで。いや、詐欺師地味てるよ、実際。


 ごめんな、メアリー。



「生まれ変わったんだぜ? 俺達が出来なかった事、やってみたい事、ここでは出来るんだぞ?」


「っ!?」



 反応は劇的。といっても、小さな身動ぎだが。その目が何より物語ってる。


少なくとも考えなかったわけじゃないだろう。前世のしがらみからの解放を。


それを恐らくはこれから共に育つであろう者から改めて、言葉として自身の心を震わせて、共感させる。他者からの自己啓発だ。



[ユニークアクションにより、称号をアンロック【ペテンペンギン】を取得しました]



 おっと、また訳の分からないモノが聞こえたな。称号というか罪状だな、これじゃ。



「そうか。そうだったな、ソラ。キミの言うとおりだったよ」


いつの間にか瞳から前世の影はなりを潜めて、自身と希望の光を強く宿していた。



「まぁ、なんにせよだ。これから宜しく、メアリーお姉ちゃん」



 うわ、めありー、ちょろい。


 でもまぁ、元気になったならそれでいいか。お疲れ様、俺。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


うわ、ぺんぎん、くろい。

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