パタつかせて打算
珍しく、といってもメアリーと俺はまだ出会って数時間しか経っていない。それでも、その口調の変化と話題から分かりやすく伝わる物はある。
「すいません。やっぱりそういうのって思い出したくない、ですよね……」
彼女の変化は何なのか。先の理由から信頼に寄るモノではない事くらい判る。
では、何か? 仮初めの余裕で隠しているであろう彼女の本音が漏れている理由とは? 寂しさ? 悲しみ? この心の色は何に寄る?
まったく、嫌になる。こびり付いた悪癖とも呼べる性分が。意識せずとも考えは次から次へと根を生やす。
「30になったばかり……かな」
「あ、やっぱり。なんだか物腰が落ち着いてるな、って……」
「言っておくがおっさん扱いはやめてくれよ? 今は産まれたばかりの可愛らしいペンギンだぞ?」
「ふふっ、ほんとですね」
否が応でも長いつきあいになるのだろう。第一前提としては気まずい関係でいるのは避けるべきだ。小さな羽をパタつかせてみせると、メアリーは控えめに微笑む。
同時に打算的に頭を働かせて動く自分に覚える罪悪感は、いつになっても拭いきれない。それこそ死んでも治らなかったわけだが。
「そっか。私の倍は生きてたんだ……あんな世界で……」
その小さな、本当に小さな呟きは、寂しげなひよこの鳴き声と一緒に俺の耳朶を打つ。
正直、他人の苦労話ほど聞き難いモノはない。冷たいようだけど、何でもかんでも背負うのは優しさとは言わない。その事を身を持って知っている。
「そうか、そういえばその点で言うならメアリーは俺の先輩になるのか」
呟きを聞かなかった事にして、話の方向を脳内でシュミレートしていく。きっと拾えば話は良くない方向に転がるし、その先も良いものにはならない。
「え?あ、でも……ソラさんは――」
「前世なんて関係ないさ。お姉ちゃん、頼りにしてるんだから」
持論ではあるが、人間は頼りたがる生き物だが、同時に頼られたがる生き物だ。下手なおべっかは見透かされてしまうけれど。その奥に隠した本意は上手く隠せるはずだ。
「お姉、ちゃん……?ふふっ、ジョニーだとなんともないのにソラさんに言われると不思議」
「あぁ、スキルとか俺も判らないしな。転生されりゃ、正直それまでの事だってリセットされたようなもんだ。貯金も、地位もさ」
「そう、かな……」
スキル云々(うんぬん)はメアリーも自分から振る程度には興味が深い、俺とて興味がある。共感は心によく響く、そしてさり気なく前世を否定するでもなく、その痛みを他所へと持っていく。
「あぁ、だってさ――」
あぁ、嫌だ嫌だ。騙すみたいで。いや、詐欺師地味てるよ、実際。
ごめんな、メアリー。
「生まれ変わったんだぜ? 俺達が出来なかった事、やってみたい事、ここでは出来るんだぞ?」
「っ!?」
反応は劇的。といっても、小さな身動ぎだが。その目が何より物語ってる。
少なくとも考えなかったわけじゃないだろう。前世のしがらみからの解放を。
それを恐らくはこれから共に育つであろう者から改めて、言葉として自身の心を震わせて、共感させる。他者からの自己啓発だ。
[ユニークアクションにより、称号をアンロック【ペテンペンギン】を取得しました]
おっと、また訳の分からないモノが聞こえたな。称号というか罪状だな、これじゃ。
「そうか。そうだったな、ソラ。キミの言うとおりだったよ」
いつの間にか瞳から前世の影はなりを潜めて、自身と希望の光を強く宿していた。
「まぁ、なんにせよだ。これから宜しく、メアリーお姉ちゃん」
うわ、めありー、ちょろい。
でもまぁ、元気になったならそれでいいか。お疲れ様、俺。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
うわ、ぺんぎん、くろい。




