6話 サイガ、イグナと出会う②
遅れたー!これからは週一更新目標でがんばんべ!応援よろ!!!!
遅れたら、不定期だと思う。すまぬ。
俺は今、猛烈に怒っている。それは、この男たちに対してもだが、何より、自分に対して腹を立てている。
王都でよくある事だから助けなくてもいい?自分とは無関係だから?
ふざけるな。
目の前で困ってる人がいて、助ける力があるなら、助けるべきなんだよ!!!!
・・・・・たとえすべての人を助ける事が出来なくても。そんなものは偽善だと謗られようとも。
事態を把握した俺は、ありったけの金をウインドウに放り込み、資本主義の魔法の内の一つ、『身体解放』を使った。
そして全力で走りだし、その勢いのまま赤ん坊を抱きとめた。着地し、一言。
「・・・覚悟は、できてんだろうな?お前ら。」
「あぁん?誰だテメェ。見たところ貴族のボンボンかぁ?余計な事に首・・・ってオイ聞けよ。」
ガン無視だ。赤ん坊の保護者らしき女性に駆け寄…ろうとしたのだが、男共が殴り掛かってきた。一人目は顔を狙ってきたので頭を振って避け、二人目の右フックは左手で受け流す。
面倒くさいし、この魔法にかかるコストは時間制なので、早めに決着を着けなければならない。
大きくジャンプ。女性の傍に降り立って、サッと赤ん坊を手渡す。
「ちょっと離れてたところで見ててくれ。」
「・・・はっ、はい。」
「黙って逃がすかコルァ!」
真正面から打ち倒す必要はない。殴り掛かってきたその腕を掴み、相手の勢いを利用しながら背負い投げで地面に叩きつける。
「全く、置いて行かないでください、よっと。」
シャサが追い付いてきた。地面でもがいている男の顎を蹴りぬいて失神させる。ナイス。残りは6人。
今度はこちらから仕掛けていく。つま先に体重をかけて軽く前傾姿勢をとり、ふくらはぎを爆発させ、一瞬で間合いを詰める。男の衣服のえりを右手で、右袖を左手で掴み、そのまま柔道の要領で地面に叩きつける。
これで2匹。次はどい・・つ・・・だ?あれ、男たちが見当たらない。
「ふう。」
すでに気絶した男たちがその辺にバタバタと倒れていた。死屍累々である。その中心地に立っているシャサといえば、「掃除終わったぁ。」とでも言いそうな余裕の表情。
「・・・シャサお前、なんか武術とかやってんの?」
「いえ?オオカミ族に伝わるただの護身術ですよ?」
「成人男性を一瞬で屠る護身術・・・?」
「そんなことより、さっさとこの人たち縛って下さい。顔を見ると顔面変形するまで踏みつけたくなるので、麻袋でも被せておきましょう。」
「お、おう。」
さっきからシャサに気圧されっぱなしである。
俺が男たちを全員縛り上げる頃には騎士団が到着したので、事情を説明して身柄を引き渡す。その間、シャサは先ほどの女性と話をしていたようだ。
「申し訳ありませんサイガ様。メイドの分際で指示などしてしまって。」
「いや、別にいいよ。あんな胸糞悪い連中に憤るのは人として至極当然のことだろ。」
「あ、あの!」
「ん?」
先ほどの女性だ。俺やシャサより少し年上で、落ち着いた印象の人だ。
「先ほどは本当に、ほんとうにありがとうございました・・・!」
「・・・赤ちゃん、大丈夫でしたか?」
「はい、おかげ様で目立った外傷はありません。今は泣き疲れて寝ています・・・。」
「それは良かった。」
起こしてしまわないよう、あまり大声を出さないように気を付ける。
「彼女の名前はメトラさん。赤ちゃんのお名前はサラちゃんというそうです。さっきまでの話を聞く限り、どうにもこみいった事情があるらしいですよ?」
「事情?」
************
「妹の命を救っていただき、本当にありがとうございます!!!!!」
メトラさんから軽く事情を伺ってからお家まで連れて行ってもらい、件のイグナ君とやらに挨拶しようと思った矢先、向こうに先手を打たれてしまった。しかもイグナ君、土下座である。芸術的ともいえる、綺麗なジャパニーズ・DOGEZA。いやここは異世界だったか。
「うちのメイドがご迷惑をおかけしたそうで、本当にすみませんでした。」
「いやいやいや、頭をあげてくれ。迷惑なんかじゃないさ。」
正直、自分の家族や従者のためなら土下座も厭わないイグナに、俺は物凄く好印象を抱いていた。
「このような大恩、どうやってお返ししたらよいのか・・・!」
「んじゃあとりあえずお茶でも出してくれよ。」
「そんなことでいいんですか?」
「それが一個目。お邪魔しまーす。」
勝手にバラックに入り込む。
「ああ、すみません汚くて・・・。整理整頓はしているのですが、どうにもシミやらキズやら相当な手強さでして。貴族のマントが汚れてしまいますね。」
「んぁ?いいよこんなもん。ただの布きれだ。洗えばいいだけだしな。」
「それでですね?イグナ様ったらこうおっしゃるんですよ。」
おおう、あっちはもう話が弾んでいるようだ。流石女子。早いな。笑い声が聞こえる。うん、古い家でも女の子が居ると華やぐなぁ。ちょっとうるさいが。
「粗茶ですが、どうぞ。」
「ありがとう。いただきます。」
ずずっ。出されたお茶をすする。やはり緑茶は美味い。茶の国、と呼ばれるほど、この国はお茶の生産が盛んだ。安物であれば、スラムに住む人の収入でも手に入れることが出来る。
「それで、二個目はなんですか?ウォルフガンhグ伯爵。」
「・・・会ったばかりの俺になんて、嫌かもしれないが、イグナの話が聞きたい。今まで、どんな事があって、貴族から貧民になったのか。その時、お前がなにを思っていたのか。」
「なんだ、そんなことですか?言っておきますが、長いですよ?それでもよろしいなら、お話ししますが・・・。」
「かまわない。」
「では、どこから話したらいいですかね・・・。」
************
「イグナー!どこにいるのー?出てらっしゃーい!」
かあさまの声が聞こえる。ぼくの名前はイグナシウス・ヴィルヘルム。とうさまは男爵様だから、僕は跡取り息子ってことになる。えらいのだ。
「ここだよー!かあさまー!」
ぼくは木から降りて、かあさまに抱き着く。
「あらまぁ、こんなに汚れて、何をしていたの?メトラが心配していましたよ?」
「ごめんなさい、薬草を探していたの。またかあさまの具合が悪くなった時に使えると思って・・・。」
ぼくのかあさまは体が弱い。よく体調を崩してお布団で寝ている。その度にぼくは、かあさまが遠くに行ってしまいそうで、とても怖いんだ。
「まあ、ありがとう。でももう遅いから帰りましょう。みんな待ってるわよ。」
「はい、かあさま。」
でも、優しいかあさまのぬくもりに触れれば、そんな不安もきえていく。
10年後。
「ほんゃあああああほんゃああああああああ」
「ううっ・・・・・・。かわいい、顔、しているのね、サラ・・・。お兄ちゃんの言う事を・・・よく・・聞いて・・ね・・。」
「おい、しっかりしろ!おい!リベカ!リベカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!」
母は、妹を産んで死んだ。それを覚悟した上で、「産む」と決めたのだ。
だから、オレは妹を恨まない。恨まない、恨まない・・・。うらま・・・ッツツ!!!!!!!!!
オレは走りだし、外に出た。
「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
翌日。
「あの餓鬼のせいでリベカが!!!そこをどけ、貴様も殺すぞイグナ!!!」
「それはだめです父上!母上がそんなこと望むとお思いですか!?」
「うるさああああああああああいいいいい!!!!」
「旦那様、落ち着いてください!」
「父上!」
1年後。
「家を出る。皆、今までどうもありがとう。」
『イグナ様・・・』
「元気でな!」
俺はあふれる涙を抑え、家を出た。
「イグナ様!!!」
しばらく歩くと、メイドのメトラがやってきた。今まで、俺の姉のように教育係をしていた女性だ。我がヴィルヘルム家が捨て子であった彼女を拾い、メイドにしたのだ。俺より5歳年上である。
「どうした?忘れ物でも届け「おそばに置いて下さい!!」・・・は?」
「ですから、地獄でもなんでも付いて参ります!おそばに置いて下さい・・・!」
「・・・駄目だ。帰れ。」
「そんな!それじゃあイグナ様があまりに「言うな!!!!!!!!」ひっ・・。」
「・・・すまない。オレは、自分の運命を恨みたくないんだ。そんなことをしたら、オレはサラを殺してしまう。そしてそのまま動けなくなってしまうかもしれないからッ・・・!!!」
初めて吐いた、弱音だった。
「イグナ様・・・。」
急に、メトラが泣き出した。
「ううううっ・・・・・。」
「どっどうした?」
「こんなの・・・イグナ様があまりに・・・。」
泣き止まない。大粒の涙を流し続けるメトラ。
「と、とりあえず泣き止め。連れていくから!だから泣かないでくれ・・・お前の涙は見たくない・・。」
「ほんとですか!」
「もう根負けしたよ。頼んだよ、メトラ。」
「はい・・・!」
涙に濡れながら見せた、雨あがりの朝顔のようなメトラのその笑顔を、オレは一生、忘れないだろう。
現実のアラブ圏などのメイドさんは、妙齢の方が多いようです。美しさより、家事能力が必要だからなんだとか。現実は非情ですネ。でも確かに、家のメイドさんが美人だったら、息子が惚れちゃうかもしれないから、普通の母親なら若い女性を雇ったりしないですよね。
・・・ん?なに?バトル俺TUEEEEEしてるじゃないかって?
HAHAHAHA、強いのはシャサだぜ?しかもサイガは金が無ければまともに戦えもしないというね。金は生命線だね(ゲス顔)