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モブの恋  作者: 相川イナホ
ヘルドラ遺跡にむけて
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竜の逆爪


 王子の次に身分が上の家の者とくれば、彼が出てくるかもしれない。


 まさかと思うが、もしそうなったらどうしよう。


 私の懸念は悪い方に当たってしまった。



 もう関係のない人。

 一時はそう思おうとしていた。


 何故か、彼の歩む道と私の歩む道は微妙なタイミングで噛み合うらしい。



 「ニコル。私の竜の背に」


 時々強引なまでに迫ってくるニコルとは距離を置きたい所で、彼とダンデム だなんてあり得ない。

 不本意な選択だが仕方ない。

 私は苦渋の決断を迫られた。


 彼を同じ竜の背に乗せたのなら、まさか背から突き落としはしないだろうが、ムカっ腹の立つままに往復ビンタをしてしまいそうな気がする。


 私はもう学園に通っていた頃の非力な少女ではない。

 身体強化の魔法を使えば、いかに鍛えた騎士であるフリードだろうが一発ぐらい入れられるかもしれない。


 いや本音で言うと是非一発位はひっぱたかせて頂きたい。

 鼻めがけて殴ったりしないから、せめて頬くらい、バチーンと。



 彼、ラズリィ侯爵子息の〝チャラ騎士″こと、フリードが同行することになり私は何かに救いを求めるように天を仰いだ。



 アマゾン城での晩餐会での惨めな再会以来の近い距離に、私の心臓はズキズキと痛む。


 ソルドレインでの市場の時はもっと距離があった。


 だが、今や彼のロイヤルブルーの瞳の色や長い睫が頬に落とす影まで見てとれる程、私と彼の距離は近づいている。



 相変わらず見目のいい男だ。


 甘い顔立ち。すらりと伸びた手足に均整のとれた体躯。


 ユリウスの身体つきはやはりこの人譲りなのだなと思うと胸の痛みは更に強まる。




 「冒険者が使う竜か。思ったよりは小柄だな。これで二人も乗せて飛べるのか?」


 久しぶりに対峙することになったかつての恋人のフリードは、仮面をつけて偽っている私ではなくジルベールが御する竜が気になっているようだ。


 相変わらず、私には気がつかないようだ。


 たしかに年下の令嬢であったフローラと冒険者のフロルが同一人物だとは思えるはずもないが、例えば髪の色や声など雰囲気で少しは記憶を刺激される物ではないだろうか。


 他の多くの浮名を流したご令嬢達と同じで、フリードの記憶の隅ににも私は存在していないのか。


 自分の事は覚えているはず、と言った根拠のない思い込みも見当違いであるのだろう。

 初めてを彼に捧げたのも、私だけではなかったのかも。


 何回目かもわからない自嘲がこみ上げ、泪がでそうだ。




 物珍しげに私達の竜に触るフリード。

 王国専属の騎竜はもっと大きな種だと言う。

 自国の防衛などで活躍する軍の竜は他国や敵へ威圧感を与える役割もあって身体の大きな種が選ばれがちなのであろう。


 それに引き替え、冒険者の竜は森の中を進んだりする事もある。

バカでかい図体の竜は小回りが効かずに邪魔になる。


 それもあって、今回私達は騎竜の中でも小柄な個体の竜を伴っている。

 とはいえ、畳んでいるその翼を拡げれば、今の姿より軽く5倍以上になる。


 「問題ナイ。竜は魔力を使ッテ飛ブ」


  私とフリードの間に起こった出来事を理解している彼はフリードの事を嫌っている。

 どうやら親切にしようとする気はないらしい。

 私の為に、と言うよりはユリウスの為に腹を立てているようだ。


 無理もない。


 弟分のように、竜の背に乗せたりして可愛がっていたのだから。




「開けた所マデ歩いて移動スル。ノレ」


 見た目よりずっと若いジルベールは、まだ自分の態度を取り繕ったりといった事は苦手なようだ。

 何時ものカタコトが更にぶっきら棒な物言いになっている。


 愛想も何もないジルベールの返事に、肩をすくめながらも大人しく竜に乗るフリード。

 ジルベールの言葉使いを不敬だのと言って騒いだりして余計な手間はかけない所はさすがかもしれない。

 そもそも彼自身が軽薄な物言いを好んでするから、という理由からかもしれないが。





 鳥の先祖が恐竜であったと、前世の何かの映画で見たような気がする。

 歩く時に、つい頭が前後に揺れてしまうこの種の竜を見ていると、こちらの世界の竜も1億と何万年かの後に、いつかは鳥に進化するのだろうかなどと現実逃避気味に考えてしまう。


 前を歩くジルベールとフリードの乗った竜の後ろ足の逆爪をじっと見る。


 が、気がまぎれない。


 ここはやはり強く言うところだろうか。


 「ニコル、くっ付き過ぎ…」


 竜に同乗したのを幸いとばかりに私のお腹に腕を回し、抱き抱えようとしているようにしか思えないニコルに釘をさす。


 「貴女にこんな近くまで寄り添い、あまつさえ触れる事を赦されるだなんて、今のこの僕の気持ちがわかりますか?」


 耳元でしゃべんなよ…。


 前門のフリードに後門のニコルかよ…。


 私の目はきっと死んだ魚のようになっているに違いない。


 「調子に乗ると、振り落とされても知らないよ?」


 そんな警告をすれば、尚更抱きついてくるに違いない。


 私は、諦めて、現実逃避するために竜の後ろ足にある逆爪を、再びじっと見つめる作業に没頭した。


 「飛ぶゾ」


 ジルベールの合図で私の竜も短い助走の後、空へと翔けあがった。

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