ワイバーン襲来
ビクッ
突然身体が落下でもしたかのような衝撃に、私は眠りから突然醒めた。
どうやら夢を見ていたようだ。
内容は覚えていなかったが、胸の動悸が激しい事からいってあまりいい夢見ではなかったらしい。
もう辺りはうっすらと明るい。
近くで寝ていた『赤の牙』の仲間達も目が覚めたようで起きだしかけている。
早朝。
露が降りたようで、草葉には水玉が乗っていて、どこもかしこも湿っぽい。
「…もう朝か、よく眠れなかったな」
そんな声が聞こえるのを見ると、露に晒された事で、冒険者達の眠りは皆、浅かったようだ。
あちらこちらでもぞもぞと起き出す気配がする。
「ん?んんんむぅぅぅ」
何故かジルベールの尻尾を枕に寝ていた犬の獣人のターメリックが、突然むくりと起き上がる。
「なんだションベンか?」
不寝番の明け方担当だった『ケモミズ』の狐の獣人のジンジャーが声をかける。
「なんか臭う」
ターメリックの寝ぼけ声に、怪訝な表情を浮かべジンジャーは鼻に皺をよせひくひくさせる。
「…」
同じく不審番だった『ケモミズ』のターメリック以外のメンバーも立ち上がって風の臭いを嗅いでいる。
「「!!!」」
ネリーが飛び起きた。その手には剣が握られていた。
「ジルベール!」
ネリーはドラゴニュートの少年に声をかける…見かけからは少年とは分かりにくいが…。
「コノ臭イは…」
ジルベールの鼻に皺が寄る。
その時、立ち上がって空気の臭いを嗅いでいたターメリックが声をあげた。
「なんか来るよ!」
「「起きろ起きろ!襲撃だ!」」
『ケモミズ』のメンバーが走り回ってまだ寝ていた冒険者達を起こしてまわる。
「騎士さん達を起こしてくる!」
ターメリックが騎士団の夜営地に走っていく。
その騒動に、騎士団側の不寝番の見張りが気がついて騒ぎ始めた。
「「なんだ?なんだ?」」
寝ぼけまなこでテントから這い出してきた騎士がふと空を見上げ息をのんだ。
「ワイバーンだ!起きろ!!!」
野営地にどなり声や叫び声があがる。
「「起きろ!武器をとって木の間に逃げ込め!」」
夕べのカルロの話がフラグになったのか、ワイバーンの群れがここを狩り地と定め襲ってきたのだ。
「弓を持って森へ逃げ込め!」
「森の中まではワイバーンはやってこない!木の間にいそげ!」
その身体の大きさと翼のせいでワイバーンは開けた場所で狩りをする。
ひとまず森へ逃げ込めば、上空からは狙えないだろう。
「うわぁぁぁ」
逃げ遅れた騎士の一人がワイバーンの鉤爪にひっかけられて転ぶ。
冒険者達は人数の関係でやむを得ずに森の中で一夜を過ごす事となったのが幸いになったが、開けた土地で夜営をしていた騎士団は格好の獲物としてワイバーン認定されたようだ。
上空から鋭い鉤爪を開き狙った獲物目がけて滑空してくるワイバーン。
その翼からの風圧でテントや天幕などが吹っ飛んでいく。
「「ぎゃぁぁぁ」」
どうやら誰かやられたようだ。
悲鳴があたりから聞こえてくる。
「打て!打て!」
体勢を整えた騎士団の隊のひとつが弓を構える。
矢はワイバーン目がけて飛んでいくが、避けられたり風圧で落ちたりしている。
私達も弓や投げ槍などでワイバーンに向かって攻撃をするが、何しろワイバーンの数が多い。
「ヒュイイッ!」
ジルベールの呼びかけにドラゴン達も寝ていた場所から飛んできて応戦をする。
「くそっ!なんだよ!この近くにはワイバーンの営巣地はなかったはずだぞ!」
「今そんな事を言ってる場合か!とにかく応戦しろっ!『我が願いに答えて炎よ、いでよ空からの敵を焼き尽くせ!ファイヤーボールッ!!』
魔法をつかえる騎士達が魔法でワイバーンに攻撃をする。
だが攻撃はあたるどころか追い払うための役にも立っていない。
「くぅぅ!しつこい!ワイバーンは普通は火を嫌うのだがっ!」
その時、悲鳴があがった。
「きゃぁぁぁ!ターメリック!」
『ケモミズ』の猫の獣人のパルメが叫んでいる。
見れば、倒れた騎士の背中側をその嘴で攻撃しようとしているワイバーンにターメリックが果敢に飛びかかっていた。




