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モブの恋  作者: 相川イナホ
ヘルドラ遺跡にむけて
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焚火の炎に誘われて



 森の中の夜営も冒険者にとっては慣れていない訳ではない。.

 でも出来れば、平らな場所で横になって休みたいのが人情だ。


 木に背中をもたれかけさせたり、木と木の間にハンモックのような物を設置したりして思い思いの恰好で休む冒険者達。

 テントを張りたくてもそのような場所もなく、仕方なく出来るだけ安全にくつろげる環境を求め、結果木々の間にばらけているがひとかたまりとなった。



 そうなると眠りに落ちる前のひとときを、焚火の炎に誘われて問わず語りに誰からともなく語りだしたのも自然の流れか。


 「時期的には、ホワイトランドとの戦争の後だったかなぁ。」


 『カルロスミスと愉快な仲間達』のカルロは自分が冒険者になった経緯を『筋肉の饗宴』のザックに問われ、語っていた。


 「兵士として戦争に出たのか。カルロの」


 「おうよ。これでもハイグリーン領の禄を食む弱小家の四男でよ。兄貴達の代わりに戦争に出ていたんだ。で、ある時、待機していた前線にワイバーンが出よってよ」


 その時、仲間と共にワイバーンを倒し、このまま人を相手に戦うより…家に残っていたならば、有事のたびにかりだされるのは目に見えている…魔物を相手に闘いたいと思い家を出たとの話しだった。


 聞いてみると、当然なのだろうが、冒険者一人ひとりに、過去というか物語があるのだなぁと感慨深い。


 「『赤の牙』さんは?そっちの例えば寝てる人はどういう経緯で仲間になったの?」


 『ケモミズ』の熊の獣人が眠るジルベールの方に顎をしゃくって聞いてくる。


 ジルベールの種族的に年齢が分かりにくいが、まだお子ちゃまなのですぐ眠くなってしまうのだ。


 人は人同士、獣人は獣人同士でパーティを組む事が多いのが常識な世界で『赤の牙団』のように獣人がリーダーを務める、人との混成パーティは珍しい。


 それがジルベールのようなドラゴニュートがいるとなると特に、興味をそそるのだろう。


 「あー、あの子が入った時はね。ひと悶着あったのさ」


 ネリーはダンと顔を見合わせて苦笑する。


 「あたし達はハイグリーンを拠点にしていたんだけど、まぁいろいろあってアマゾン領まで移動してきたんだけどね。そのメイン街道の峠で悪さしてたのがこの子でさ」


 ジルベールはドラゴニュート達が暮らす村で育った。


 彼らは丈夫なうえ強い種族なので、魔物の氾濫時も村は対して被害をうけず平和な暮らしをしていた。

 もっとも彼ら、ドラゴニュート達の『平和なくらし』とは戦いに満ちた物だったらしいが。

 常に彼ら種族は強さを競い合い、強さが正義だった。


 周囲の獣人達の村や人族の村は、魔物に蹂躙された所も多く、飢えたり傷ついたりしている村人も多かった。


 けれど、ジルベールの住むドラゴニュート達は相も変わらず、己の強さを追及する事のみに関心を払い、日々、己の強さのために精進を重ねる修行僧のような…というかかなり偏屈な種族だった。


 ジルベールは生まれた時からそんな自分達の種族特有の特徴を変だと思っていたらしい。


 丈夫な身体は病気もめったにしない。

 毎日外で寝たって平気な種族である。

 辛うじて雨にあたるのが嫌で屋根のある建物に住んでいるが、日々求めるのは己の強さに対する探究のみ。

 あまり文化的とは言えない生活をしていた。


 彼はそんな同族達との生活に物足りなさを感じていたらしい。

 とはいえ、生まれた時からの環境から、何が足りないのか分からずに、己の渇望の正体を探るべく、生まれた村から旅だったのである。

 12歳すぎればドラゴニュート達は立派に独り立ちが出来る。


 人族があまりたくさんいるところは避け、まずは自分の生まれ育ったソルドレインの領内を見てまわった。

 どこもかしこも、食べていくだけで精いっぱいの生活をしていて、ジルベールの求める物があるようには見えなかった。


 あとは人族の領域に出るしかない、でも確実にそこに彼の求める物があるかわからない、そうなった時に彼はドラゴニュートらしい願かけを己にかけたのだった。


 「アマゾン領へ通じる主要街道の峠に陣取り、道ゆく強い人間に闘いを挑んでいたのさ。

 勝った方の剣をかけてね。で、その剣を100本集めたら人族の領域に足を踏み入れるつもりだったらしいよ。」


 ドラゴニュートが単独で人族の暮らしている町に姿を現す事はまずない。

 居ても奴隷の戦士としてだったりする。

 見かけはともかく、まだ子どものジルベールにとって、人族の領域に単独で踏み込むには、何らかの思い切りのきっかけが必要だったのだろう。


 戦えば自分の方が圧倒的に強いのはわかっているが、戦いに人族の町に行くのではない。

 どうやって交流をもったらいいのか彼はわからなかったのだ。


 「まぁ、うちのネリーが、100本剣を集める前に勝っちまったんで、弟子入りって形でうちに入ったんだよ。入ったら、ドラゴンの扱いは上手いし他のドラゴニュートとは違ってつきあいやすいし、もううちにはかかせないメンバーだね」


 「だから引き抜きお断りだよ」と笑顔でダンは言った。

 「うちのネリー」って所でデレっとなったけれど、誰もそこに反応はしなかった。


 「どうやって、ドラゴニュートをパーティに引き摺りこんだのか知りたかったけど、マネはできそうもないな」


 ジルベールの特殊な事情を知り、他のパーティの人達はちょっと残念そうに言った。


 ちなみに、ジルベールが求めていたものは、どうやら「文化的な暮らし」だったらしい。

 ドラゴニュート達は食事も塩を振って焼けばいい方だったらしいが、彼はワッフルやホットケーキなどを好んで食べるし、ふかふかのベットで寝るのが好きなようだ。


 特に気に入っているのが、冬の「こたつでみかん」や夏の「川床でかき氷」らしい。

 という事はきっかけはネリーだったかもしれないが、ガスパに餌付けされてこのパーティにいるというのが正しいのかもしれない。



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