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モブの恋  作者: 相川イナホ
ヘルドラ遺跡にむけて
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揃いのリング


 それにしても。

 フリードは私にまったく気がつかない。

 思い出しもしていないようだ。

 アマゾン城でもホスト側として働く私に気がつかずナンパしてきた程だし。


 薄情って言うのかな、いや、そうじゃない。

 私に関心が少しもないのだろう。


 この胸に浮かぶ感情は自嘲なのか自己憐憫なのか。

 そんなに彼の物語の中で私は振り返りもされない脇役モブだったのかと。


 「あんな男、もう忘れた」


 胸の痛みに蓋をしてうそぶけば、キリキリとその痛みは傷を抉ってくる。


 嘘つき。


 まだ抉られた傷は生々しく血を流しているというのに、それでも私は平気な顔を作って彼のことを忘れたふりをする。


 忘れた方がいい。

 忘れなくてはいけない。


 痛みを痛みとして感じられなくなる程に風化させるにはどの位の時間があればいいのだろう。


 フリードとララリィ嬢の姿を私は視界から追い出した。



 「飛べ!」


 赤の牙団のドラゴンは次々と空へと飛んでいく。


 大地が見る見る遠くなる。


 私の未練も大地に置き去りに出来たらいいのに。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 少し前を行く騎士団のむこうに鬱蒼とした「魔の森」が見える。


 ヘルドラ遺跡はその先地平線のむこうだ、


 「報告いたします。王子、先頭が『魔の森』との境界域に到達しました。」

 「ご苦労。全軍を止めろ。ただし空にいる者には交代で物見をさせろ」


 なれた命令口調でライオネル王子は部下に指示を出す。


 「ララリィ」


 馬車から降りてきたピンクの髪の少女には180度違う表情と声色で声をかける。


 「大事ないか。疲れてはいないか?」


 自らの専任侍従に手ととらせ、このような場所には不釣り合いな出で立ちの少女が馬車から降りてきた。


 「大丈夫です。ライオネル様。私こう見えて結構丈夫なんですよ」


 ニコニコと笑い健気に言うらララリィ嬢だが

 この場にリーダーっぽい人のパーティ「ラフポーチャ」のマリアが居たら、

「あれだけ『襲撃のショック』とやらで出発を遅らせておいて?」と間違いなく突っ込んだ事だろうが生憎とこの場には彼女はいなかった。


 「君にはいつも我慢をさせてしまっている。すまないね。きつかったらすぐに言うんだよ」


 と、甘々な声と笑顔で近づくとそっと肩を抱くライオネル王子。


 慣れた光景なのか周囲の人間も別にどうこうないと見えて誰も何の反応もない。

 ライオネル王子の腹心とも言えるメンバーも通常のようで普通にそんな二人の周囲に集まってくる。


 「魔力が信じられない程濃いな。魔力酔いを起こしそうだ」


 体内の魔力より外の魔力の濃度が濃い場合、その落差で体調を崩す事がある。

 それは魔力の内包量が高い者ほど顕著で魔法を使う者にとっては深刻な問題だ。


 「慣れているお前でもそうか。クリス、魔法を使う部隊の者達の様子はどうだ?」

 「若干気分の悪い者はいるが大丈夫。すぐ治まる」


 「クリス、クリストフ。大丈夫?あなたはすぐ無理をするから」


 ピンク色の髪の少女は心配顔でその魔術師の背中を擦る。


 「ララリィ…様。大丈夫です」


 本当言うと彼の部下の方が青い顔をして気分が悪そうなのだが、ララリィの瞳も心配げな色を浮かべクリストフだけを見る。

 これまたマリアが突っ込んでいられなくなりそうな事案だが、生憎とここに彼女はいない。


 「ララリィ様は何てお優しいのでしょう…」


 ララリィを囲んでライオネル王子とそのとりまきが何時ものと思われるやり取りをしていると、騎士隊の方から歩み寄ってきた騎士の少年がうっとりとそう言った。


 「…アレン。リングの配布はすんだのか?」

 「あっ!」


 取り巻き達とは少し距離の離れたところにいた彼の上司である隊長が声をかけると慌ててアレンとよばれた少年は駆けだしていく。


 どうやら彼はうっかりと言いつけられた用事を忘れてしまっていたらしい。


 「まぁアレンたら」


 くすくすとララリィは笑ったが、クリストフの部下はアレンを睨み、そしてため息をついた。


 ミスリルで作られた装身具を魔法使い達は身に着ける。

 身体の外と中の魔力を馴染ませる際の媒体とするためだ。

 そのため、魔力の多い者ほど多くの装飾具を身につける傾向がある。


 今回「魔の森の濃い魔力」対策にライオネル王子は王都の魔道士ギルドより貸しだされた高品質のミスリル製のリングを用意していたのだ。


 「すみません!遅くなりました。このリングは魔道ギルドより貸与された物ですから失くさないでくださいね!」


 せめて気分が悪くなる程魔力が濃くなる前に渡してほしかったとクリストフの部下、エリアスは思う。


 「それぞれ個々の魔力の性質にあった仕上げがしてある。やる時はやるな魔道ギルドも」


 似たような銀のリングだが、クリストフのものとエリオスの物とでは刻まれた魔法陣がそれぞれ違う。


 それにしても希少なミスリルを惜しげもなくよく貸与したものだ。


 「当然データーを取っている。我々はいわばモルモットともいえるな」


 クリストフの言にエリオスはうんざりとした表情を浮かべた。



 その頃、ちょこまかと騎士の間を走り回っていた冒険者パーティの「ケモミズ」の犬の獣人のターメリックだが、仲間の狐の獣人のジンジャーにある事を告げていた。


 「騎士さんの中でお揃いのリングをつけている人がいるよ!あれ何だろうなぁ」


 狐の獣人のジンジャーはめんどくさそうに一言だけ言い放った。


 「お揃いか!気持ち悪いな!」


 高価なミスリル制の魔道具も知らない冒険者にかかればそんな扱いであった。



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