サムの苦悩
「牙と盾」のメンバーと幼馴染達の最後の場所を確認し、弔いの儀式をした。
ギルドも魔物の仕業という判断を下した。
かつての仲間であったサムは彼らの遺産を故郷にいる家族に送るために手配もしなければならなかった。
いろいろと考えたが、故郷に戻って仲間の遺族と顔を合わせるのが気づまりだったからだ。
それらの作業をしている間、サムはやるせない気持ちに支配された。
何がいけなかったのか。
何のせいなのか。
サムには見当がつかなかった。
ただわかっているのは自分も、ヒックス達も必死で生きたと言う事だけだ。
生き残るため、上を目指すため、お互いが必死だった。
何かが間違っていただけなのだ。
でもその何かが、どんなに考えてもサムには分からなかった。
ただ、それから
「赤の牙団」に守られるかのように活動をはじめた仮面の人物に目がいくようになった。
嫉妬なのだろうか羨望なのだろうか。
気がつけば目で追ってしまっている。
サムよりも冒険者デビューが遅かったはずのその人物がどんどんと有名になっていくのにつれて、サムも負けじと実力をつけようとあがいた。
時々自分でも何に意地を張っているのか分からなくなるほど身体を苛め尽くして鍛えた。
サムの中でほの暗い感情がふと目覚める。
あの赤の鬣の女が天塩にかけて育てているというあの仮面の冒険者、あの冒険者が育って一人前になった時、サムの方が強かったならば。
「仲間に裏切られた」という冒険者としての負い目を、自分は乗り越える事ができるのはないかと、そう根拠もなく感じてしまっていた。
実力ある冒険者グループに庇われ、教え諭され、まっすぐに伸びていった者と裏切られ踏みつけられても伸びてやると気負う自分。
どちらが先に冒険者として頂点に近い方へ辿りつくか。
そう勝手にライバル認定して目で追っているうちに。
ふとした仕草に。
すれ違った香りに。
サム以外の人間と言葉をかわす会話を盗み聞くうちに。
気がつけば気を引かれ、目を奪われている。
「まるで恋でもしているようじゃないか」
そう、心の底から信じられるようになった新たな仲間達にからかわれ、そんなはずはないと笑うのだが。
目で追ってしまう。
いつの間にか死んでしまった姉に褒められる事より、何よりも足掻いて強くなろうとしている自分を見て欲しいと、いやあの仮面の人物…フロルに気がついて欲しいと、そう願ってしまっている自分に気がついて。
サムの苦悩は深くなる一方だった。




