やるせない思い
「『赤の牙』のネリーだ」
「復帰したっていう噂は本当なんだ」
「過去の英雄様がなんで今頃」
「なんでも新入りが入ったようだぜ、ほらあれだ」
皆が見ている方向を釣られてみれば、赤い鬣の獅子の獣人の女とごつめの男、それに見覚えのある仮面の冒険者がギルドの扉を開けて入ってくるところだった。
「一度は引退した癖にな」
パーティ名に同じ「牙」が入っているからか、「盾と牙」の面々は、ライバル意識でもあるのか、緊張とやや挑戦的な雰囲気を纏う。
「新入りのお守りとか、『赤の牙』も温い事してやがるぜ」
「まぁまぁ。あっちが気になるのはわかりますが。今は打ち合わせ中でしょう?」
その場をギルド職員のニコルがとりなし、サムにはこっそりと囁いて言った。
「『赤の牙団』は貴方の剣を見つけてくれた方の冒険者グループですよ」
ふたつのパーティの仲が悪い事をニコルは承知しているようだった。
そのまま突っかかっていきそうな「牙と盾」のメンバーの気を削いだようだ。
「じゃ、打ち合わせ通りに、昼の食事がすんだら、東門へ各自荷物を持って集合ということで」
ニコルの締めの言葉にサムと共々、「牙と盾」のメンバーは解散した。
「牙と盾」のメンバーがいなくなったのを確認してサムはギルドカウンターにいた赤い鬣の獅子の獣人に近づいた。
剣を見つけてくれた礼を言おうと思ったからだ。
「サムと言います。あの、ネリーさんですね?」
ふりむいた女はなんというか普通の人だった。
「ああ、その剣。どうやら無事に持ち主のところに戻ったんだね。よかったね。思い入れのある剣だろう?」
町着に着替えて前かけでもすれば、サムが朝食を取った飯屋のおかみさんとそう違わない
サムが礼を言うと、女は陽気に笑った。
「いいんだよ。気にしなくて。冒険者なら当然の事をしたまでさ。もっとも最近の奴はその当然の事もできない奴もいるがね」
冒険者なら当然の事…それが出来なかったのはサムの幼馴染達だった。
同じ冒険者であり幼馴染であるサムを嵌めて殺そうとしたのだから。
サムの中でついに何かが折れた。




