裏切り2
そういえば、ダンジョンで壁の向こうに行ってしまったラスティは無事だっただろうか。
サムはヒックスの勤めていた商会を訪ね、彼にも裏切られていた事を知る。
『故郷に帰る』
サムがダンジョンに置き去りにされた翌日、彼は商会を辞めていた。
親しい人に『親が土地を用意してくれたので故郷に戻る』と話をしていたようだ。
だが、サムの記憶から言って、ラスティの実家では子供達に土地を分け与えるような余裕はなかったはずだ。
ラスティは3男だったし、家を継いだ長男のところには子どもが2人居たはずだ。
村の多くの農家と同じように、領主に税を納めたら食べるにカツカツな状態だった。
サムは今度こそ認めなければならなかった。
自分は同郷の友人だと思っていた人間に裏切られたのだ。
彼らは罠を張り、彼を嵌めた。
その事実に、サムは打ちのめされた。
故郷の家族に詳しい経緯は伏せ、ヒックス達が姿をみせたら連絡を寄越すように手紙を送り、サムは再び冒険者活動を再開した。
砂を噛むような思いで日々が流れ、サムはそれでも冒険者活動を続けた。
それまでと同じように、安全について充分なマージンを取りながらストイックな態度を貫いた。
酒も飲まず、博打も打たず、ただ身体を鍛え、技を磨いた。
サムが仲間にダンジョンに置き去りにされた事件から2年の月日がたった。
娼家に買われていった姉が病気になったとサムに知らせがあった。
皮肉な事に、それが原因で姉の価値が下がりサムでも手の届く金で身請けすることができた。
故郷を出て3年目。ようやくサムは姉と共に家族の元へ帰る事ができた。
サムを裏切ったヒックス達の行方は依然として不明だったが、もうサムは彼らの事を考えない様にしていた。
姉の病気は、そういう商売をしているものが罹る特有の病気で完治は望めなかった。
故郷に戻ったところでどうしようもなかったのかも知れなかったが、死ぬまでの半年を家族と共に穏やかに過ごす事ができた。
病床の姉はサムの手をとって何度も「ありがとう、ありがとう」と微笑んだ。
そして決まって「立派になったねぇ。自慢の弟だよ」と目を細めた。
そのたびにサムは叫び出したくなった。
長男として家族を守りきらなければならなかったのは自分だ。
自分に力がなかったから、姉に自分を犠牲にさせてしまった。
もし、あの時、ヒックス達に金を盗まれていなかったなら、もう少し早く姉を救い出せていて、病気にもかかっていなかったかもしれない。
もしも、なんていうことを考えても愚かしい事だが、サムはIFを考える。
そうすると哀しみと後悔が押し寄せてきてせつなくなり、サムは無力感に苛まれるのだ。




