裏切り
結果としてサムは助かった。
ただ、目覚めたのは、洞窟のダンジョンに潜ってから5日もたってからだった。
サムを助けてくれたのはヒックス達とは違う高位のパーティのグループであった。
サムの取りこまれていたレアモンスターである巨大スライムの討伐依頼を受けてやってきた違う冒険者達だったのだ。
聞けば、あの洞窟のダンジョンは、あの巨大スライムのせいで、低ランクの冒険者達には立ち入りが推奨されないと警告が出ていたのだという。
サムを見捨てたヒックス達だが、さっさとギルドに戻るとサムの死亡届を出し、サムが預けていた財産を引き出すと「故郷にサムの遺品を届けるために戻る」と、この街を去ったそうだ。
ただサムの財産の全額は引き出せなかったようだ。
亡くなった冒険者の装備品は拾った者の物になる。
だが、一度ギルドへ届け出をする手続きが必要だ。
遺族が引き取りを希望する事があるからだ。
その家の家宝だったりその冒険者の家で代々受け継がれてきた物だったりする事もあるのだから。
ギルドでもサムの死についての調査をしないと、申告だけでは引き渡せないとごねたようで、預託金としてギルドの運営に預けていた分は残った。
預託金としてギルドに預けておくと、定めた月日は引き出す事が出来ないが、利子がつく。
引き出すには手続きが面倒でヒックス達は諦めたようだ。
宿においておいた財産もガラクタを残し、全てヒックス達によって持ち去られていた。
状況から言って、サムは騙され、嵌められたのだ。
だが、ヒックス達は本当にサムが死んだと思っていたのかもしれない。
騙された…とは思いたくなかった。
自身の死を願われていた程、彼らに嫌われていたのかと思うとサムの胸は痛んだ。
サムはあの日装備していて持ち去られて無くなった剣の盗難届をギルドに提出した。
父から贈られた黒の飾り紐、蔦の絡まる図柄の飾り金、柄の部分に碧に彩色された楢の葉とその艶やかな茶色の実、そして一頭の金色の狼がまるで遠吠えをしているような姿で彫り込まれていたあの剣だ。
ヒックス達は、それをギルドへは届けていなかった。
正当な手続きを踏まず、黙って自分の懐にいれたのだ。
単純にサムの持っている装備品では一番の値打ちな物だったというだけでなく、父から譲り受けた大切な剣だ。
あれだけ特徴のある剣ならば、換金しようとしたり研ぎに出したりしたならば足がつく。
かすかな希望をこめてサムは「盗難届」をギルドへ提出した。




