脇役は脇役らしく
わたしが精神的ショックと悪阻で自分の殻に閉じこもっている間に、事件は起っていた。
わたし、レイチェル、マリアンが所属する派閥のサロンのおねぇさま達は顔を合わせるたびに下級生の相手もそこそこにある女生徒の話に夢中になっていた。
「本当、節操がないわね」
「手当たり次第?二股どころじゃないわよね、何股なのかしら」
「かわいそう。アマンダ様」
サロンの中心的人物の一人であるアマンダ・フィレンチェ嬢は幼いころより、この国の第二王子こと、俺様王子のライオネル様と婚約中だった。
だか、王子は一人の女生徒を気に入ってアマンダ様をないがしろにしているという。
その女生徒の名前はララリィ・スノウバード男爵令嬢。スノウバード男爵が市井の娘に産ませた子どもだという。
平民の母親が亡くなって、男爵家に引き取られ、学期の途中で学園へ途中入学するやいなや、殿下をはじめとして学園のアイドルたる男子生徒を次々ととりこにしているのだそうだ。
マリアンの兄のアドニス様も、あの腹黒モノクルのフィリペ様すらも、彼女に囚われ、振り回されているという。
「何とかしなければ、このままでは彼女を取り合って彼らは争いをはじめてしまう」
不実な婚約者を責める事より王子の婚約者であるアマンダ様やフィリペ様の婚約者のダイアン様もこの国を将来背負っていく彼らが仲たがいしていることを気に病んでいた。
でもいくら彼女達が気持ちを押し殺して、彼らを咎めても言い聞かせても彼らは聞く耳ももたず、返って意固地になるばかりだった。
では、と、ララリィ男爵令嬢をいさめようとすれば、彼らからは意地悪をしていると取られますます頑な態度をとられるばかりである。
「どうしてみんなと仲よくしてはいけないの?」
ピンクのふわふわの髪をしたララリィ男爵令嬢は砂糖菓子のような微笑みを浮かべて言うが、彼女のいう「みんな」は見目のよろしい男子生徒ばかりである。
日に日にララリィ男爵令嬢に対する風当たりは強くなり、彼女はファンクラブに呼び出されて、脅されり、泣かされたりした。
ある日、とうとうララリィ男爵令嬢のお茶に毒が混入される事態になって、どういう運命のいたずらなのか、わたし達が所属するサロンのおねぇ様方、つまりアマンダ様やダイアン様が黒幕としてつるし上げられた。
きっと彼らの婚約者であったことが疑われる原因になったのであろう。
おねぇ様方が黒幕という証拠は何も出なかったけれど、「疑わしきは罰せよ」なのかそれともよほどララリィ嬢のために婚約を白紙にしたかったのか、
あろうことか、かつてはお互いを労りあい関係を築きあっていた相手を彼らは平然と放逐した。
失意の彼女達は学園を去って行った。
彼女達をさげずむように苦々しい顔つきで見るララリィ男爵令嬢の取り巻きの中にフリードの姿を見つけ、わたしははっきりと悟った。
彼の人生においてわたしはただの脇役にすぎないのだと。
フリードの視界の中にいるその他大勢の女生徒と自分は変わりはないのだと気が付いた時、絶望がわたしを襲った。
だから、わたしも学園を去ろうと決めた。
フリードや彼らとララリィ男爵令嬢が主人公の物語から、わたしは脇役らしくひっそりとフェードアウトしようと。
学園は上へ下への大騒ぎとなっていて、わたしの妊娠も誰も気がつく者もいない。
「実家へ帰ろうと思います」
置手紙をレイチェルの部屋へ残し、わたしは学園をあとにした。