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モブの恋  作者: 相川イナホ
幕間 ハイグリーンギルドで
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冒険者になって5


 腕のいいサムは草原や森で弓による狩りをするだけで、一人にしては充分な稼ぎを得る事が出来ていた。

 止めを刺す為に剣を抜く事はあるが、矢で仕留めるほうが安全で手っ取り早い。


 未熟な腕で剣を振り回せば刃こぼれもするだろうし、その修理のためのお金ももったいなかった。

 そういう意味ではサムは冒険者ではなく、狩人のままだったのかもしれない。



 「次の分かれ道から強くなる。気をつけろよ」


 ヒックスの声が前方から聞こえてきた。


 入口から遠くなるにつれてダンジョン内部は暗くなる。

 パメラの背後を守りながらサムも辺りに気を配る。


 しかし一人緊張感のない奴がいた。



 「やばい。さっきの所に忘れ物しちまった」

 「おいおい、何を忘れたんだよ…」


 久しぶりの冒険者活動でうっかりしたのだろうか、ラスティが慌てて自分の革ベルトのあたりを叩いて探し物をしている。


 「剥ぎ取り用の切れる方のナイフだ。あれは親方から借りたものだから失くすと怒られる」


 暗闇でサムはヒックスの目と目があった気がした。


 「こっちは3人での行動に慣れている。ラスティに着いて行ってやってくれ」


 ボビーが言い、サムは「わかった」と返事をして来た道を慌てて戻りつつあったラスティを追いかけた。



 「あった。あった。良かった~これを失くしたら大赤字になる所だったよ。親方にも怒られずにすむ」


 ラスティは無事落し物を見つけ、腰のベルトにきちんと納めていたが、空中を舞う小さな虫を見て大きな声をあげた。


 「うわ!見ろよサム。あれは光虫じゃないか?」


 光虫は文字どおり、洞窟内に住む発光する虫だ。

 これも何匹か捕まえてまとめてギルドに持っていくと小遣いが稼げる。

 ラスティは嬉々として洞窟内を飛び回る光虫達を捕まえてゆく。


 「おい、あまり遅くなると…」


 サムが注意をしようと口を開きかけた時だった。

 何か不自然な足つきでよろめいたラスティが壁に手をついた。


 ガコン!


 やけに乾いた音が響くと壁の一部がぐるっと回った。

 それと共にラスティは吸い込まれるように壁の向こうへ消えてしまった。


 「ラス!ラスティ!」


 慌ててラスティが消えた辺りの壁に駆け寄り叩くが、壁はびくともしない。


 「どうなっているんだ…」


 サムは途方に暮れて立ち尽くすしかなかった。




 結局その場で辺りを探っても仕掛けはわからず、ラスティの安否も分からずじまいだった。


 サムは他の3人の仲間と合流して助けを呼ぼうと踵を返した。



 3人は随分と先に進んでしまったようで、分かれた場所より更に奥へ進んでもその姿は見えない。


 サムは、周囲に気を配りつつ3人の後を追った。

 ラスティは無事だろうか。


 壁の内側に消えた幼馴染の安否が気になり、焦っていたのもある。

 だからサムは直前まで気がつかなかった。


 先に行ったと思われる3人の気配がして、サムは思わずほっとして油断してしまった。


 「ヒックス!ラスティとはぐれた。!なんかの仕掛けにはまって…ってどっちだ?」


 目の前には二手にわかれた別れ道。


 「右だよ。」


 その声に思わず踏み出してしまった足。



 ―次の分かれ道から強くなる。気をつけろよ―



 その時、サムの頭にヒックスがしていた忠告が甦った。


 「しまった!」


 気が付くのが遅かった。




 頭上から落ちてきたのは、巨大なゼリー状の塊。


 スライムだった。



 一瞬のうちに半透明のゼリー状の身体に取りこまれた。

 こうなったら弓は役に立たない。

 サムは腰の剣を苦労して抜き、スライムの核をつぶそうとふりまわした。


 核はゼリーの中を逃げ回り、闘っている内にサムの身体には麻痺の毒が染み込んできて感覚がなくなってくる。

 身体が動かなくなってきた。



 「う、ぁ」


 辛うじて顔をゼリー状の物体から出し、必死で声を絞り出す。


 サムは信じていた。

 先にいったヒックス達がサムが戻らないのに気が付いて引き返してくることを。


 信じてゆっくりゆっくり身体を溶かしにかかってくるスライムに、サムは耐えた。







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