トゲシー討伐Ⅱ
「トゲッシーだ…」
農場の主がごくりと唾を飲んだ。
中型犬ほどの大きさのトゲシ―の群れの中に、ひときわでかい個体がいる。
大きさは馬くらい? いやもっと大きそうだ。
でも象よりは小さそう?
前世で見たバッファロー位の大きさではないだろうか。
すでに臨戦態勢とみえて身体中の棘が逆立っている。
「フロル! 障壁!」
ネリーの声がした。
その声は落ち着いている。
「トゲシ―の棘は騎竜の鱗を通す。避難させろ」
「了解!」
私は続いて飛ばされたガスパの指示に従って騎竜を非難させるべく周囲に障壁の魔法をかけた。
「ヒュィィ!」
見ればジルべールは竜に合図を送りつつ、すでにとって返しつつある。
「奴の射程距離に入ったぞ」
ガスパの警告と同時に鉛筆程の太さの棘が飛んでくる。
あきらかに、トゲシーの物より太く、でかい。
ドカッドカッドカッドカッ!
ガスパの構える盾に重い音をたてて勢いよく棘が突き刺さる。
トゲシーの時より深く刺ささり、一部は盾を貫いて、その先端部分が、盾の内側部分に顔を出しているようだ。
とは言え、突き抜けてはいない。
ガスパは少しだけ渋い顔をしてみせた。
「ネリー、この盾ではもうだめだ」
「仕方ないね!」
ネリーは気合で皮一枚の所で棘を避けている。
凄い反射神経といえる。
ピールは鞭での攻撃をやめ、飛んでくる棘を落とす方に重点を置き始めたようだ。
「こうなるとやっかいですね」
「ま、見てな」
ネリーが威圧をかける。
トゲシ―達は威圧を受けて、身体が動かなくなったようで一瞬攻撃がやんだ。
「ジルベール!今だよ!」
ネリーの合図で竜の傍まで戻っていたジルベールは、竜達に指示を出しニコルや農場の主人達をその背に乗せ上空へと避難させた。
私は障壁を展開したままで、空へ昇って行く竜達を見送る。
もちろん、竜に気をとられていたのは私だけじゃなかった。
「どこを見てるんだい」
威圧に続いてタゲを取り、トゲシー達の注意をひきつけて、ネリーがニヤっと笑う。
トゲシ―達より威圧が効きにくかったと思われるトゲッシーは狂ったように上空の竜に向かって棘を打ち出していたが、すべて私の魔法の障壁によって攻撃を防がれ、悔しさからか咆哮した。
「こっちを見な」
更に膨らんだネリーの存在に、トゲッシーの注意が逸らされる。
その瞬間、トゲッシーに向かって刃物が投げられた。
刃物は先の鋭いナイフのようで、トゲッシーの左目に刺さった。
油断して傷つけられた格好になったトゲッシーは、怒り狂い背中にある棘を刃物が飛んできた方向へむけた。
だが、そこには投げた者はもういない。
ネリーが注意を惹きつけている間にダンがナイフを投げ、ヒット・アンド・アウェイでその場を離れていたのだ。
ドスッドスッドスッドスッ!
打ち出された棘が、むなしく地面に穴をあけていく。
「よそ見をしすぎだな」
盾を捨て、短い槍を構えたガスパが、勢いをつけて投てきする。
槍は一直線に飛んでいきトゲッシーの背の棘山へ消えていった。
グォォォォォォォ!!
トゲッシーはたまらず悲鳴のような咆哮をあげた。




