あぁ無情
あれから、チャラ騎士がどう動いてくれたのか、わたしにつきまとっていた貴族の青年は姿を見せなくなった。
「・・・また会ったね。どう?あれから。困った事はない?」
不思議なことにわたしが一人図書室でいると、チャラ騎士、フリードに話かけられる事が多くなった。
「その節は・・・ありがとうございます」
「大した事はしてないから気にしなくていいよ」
そんな時は彼も大抵一人で、彼のキラキラしい笑顔に赤くなって、まごつくわたしは・・・きっととてもちょろかっただろう。
「でも、そんなに気に病むようだったら、僕の言うこと・・・お願いを聞いてくれないかな」
彼はにっこりと笑って言った。
「気がむいたら、ふたりっきりでここで会ってくれないかな?」
さりげなく肩に手を置かれ、顔を覗き込まれた。
「こうして時々、二人でおしゃべりをしよう?」
彼の言う「気がむいたら」は彼の「気がむいたら」なのだということを、この時のわたしは全く気がついていなかった。
そうして二人で会うようになって、だんだんと彼は気安くわたしに触れるようになっていき、慣らされたわたしは知らない内に彼の深みへとはまっていったのだ。
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「待って。フリード様、お願い」
抵抗するわたしの手を彼の腕が絡めとった。
「フローラは、僕の事きらい?」
甘い声がわたしの耳元で囁く。
「嫌いなんかじゃないわ!・・・でも・・・こんなこと。良くないわ」
「好きだよ、フローラ。君をもっと見たい」
「だめ。あ、や・・・フリード様・・・やっ」
「こっちを見て・・・フローラ。・・・かわいいよ」
この時もっと抵抗していれば、・・・・後悔先に立たずとはこのこと。
けっきょくこの日、わたし達は一線を越え、初めてをフリードに奪われてしまった。
フリードは、わけありの年上の女性や未亡人ばかりを相手していて処女を相手にするのは、わたしが初めてだったと思う。
だから勝手が違ったのかもしれない、避妊を失敗していたのだ。
間の悪い事にわたしは排卵期に入っており、初めての経験でまさかの妊娠。
処女の相手はつまらなかったのか、それとも落とした相手に飽きたのか、フリードはわたしと距離をとるようになり、わたしは彼に捨てられた。
妊娠に気がついて、彼に相談したくても、避けられているのか姿さえ見つけられず、出した手紙や言伝はすべて無視され、誰にも言えず、純潔を失ったばかりでなく子ができたなどと養父母にもレイチェルにも言えず、食事もロクに喉を通らない日がはじまった。
わたしは14になったばかりで、まだまだ子どもだった。