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モブの恋  作者: 相川イナホ
旧ソルドレイン領にて
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トゲシ―討伐

 襲撃の次の日


 兄は兄で襲撃者への対応で忙しく、私達は消耗品などの補給に駆け回っていた。


「やはり出遅れたのが痛いな。物がすくない」


 昨日、荷ほどきもする暇もなくララリィ嬢の護衛に借り出されたのだ。

 その代償が今の状態。


 何か理不尽。


 「まぁ、あるものでヤルしかないね」


 ネリーが言うと「殺る」って聞こえるのが何とも。


 宿屋へ戻ると各々が用意出来た品物を並べてチェックを入れる。


 武器や薬類は、ここにくる道中でも使用する機会がなかったのでたいして減ってない。


 問題は食糧だ。


 パンなどの支給はあるけど、乾燥フルーツや野菜、干肉、スパイスなんかが足りない。


 「ないものねだりしても仕方ないね。現場できるものは現場で調達。

…駆け出しの頃は、お金がなくて用意が出来なくて、もっと酷い状態でも討伐に出たもんだ。その事を思えば贅沢にも慣れたもんだよ」

 

 ネリーは冒険者になりたての頃を思い出しているようだ。


 「出発は明後日だったか」


 「薬草類とハーブ類が、もう少し欲しいな。採集に出るか」


 「よければ案内しますよ。地元ですから」


 ピールが案内を買って出てくれた。


 「それは助かるなぁ」


 「「………」」


 ニコルがいつの間にか付いて来る事になっているのはいつもの事か。


 ニコルも昨日はお疲れ様だったわけで、そのせいで補給が追いつかなかったのは同じ訳で。


 「ギルド関連の物はともかく、私物が少しばかり心許なくて」


 と言われれば、同じ旅の仲間として行動を共にするのは少しもやぶさかではない。

 やぶさかではないが、何かすっきりとしない。


 「とりアエズ。オマエはいつもト一緒デ、俺トダナ」


 ジルベールに担がれるようにして竜に乗せられるニコル。

 慣れたのか、もう逆らわないようだ。


 「…ヨロシクお願いシマス」


 不承不承という感じでジルベールに頼むニコル。

 その顔は仏頂面だ。


「 マカセトケ」


 獰猛な表情にしか見えない笑顔で請け負うと、荷物でも乗せるように、騎竜の背にニコルを乗せ、ジルベールも飛び乗る。

 今日も彼は平常運転のようだ。


 旧ソルドレイン領の町から飛び立てば、竜は翼をのびのびと広げ、風を切って飛ぶ。眼下を林や草原が過ぎていく。


 遠くに見える魔の森から何筋かに別れて土地が開けているのは、そこを魔物の群れが通ったからだ。


 木々をなぎ倒し、草原を炎や酸で焼きながら、そこに集落があれば、あらゆる命を、人の営みをも全て、飲みこんで消していった爪跡なのだ。


 圧倒的な数の暴力を押し留めたのは、集落の戦士達か、それともソルドレイン領の兵士達か。

 彼らが必死で抵抗したあとも、今は草に埋もれつつある。


 本当に、この理不尽な暴力の繰り返しを止める事が出来るのだろうか。

 ライオネル王子と騎士団が目指すヘルドラ遺跡には何が眠っているというのだろう。


 先頭を行くピールが合図をした。

 指さす方向を見れば、草原を柵で囲っであるのが見えた…農場のようだ。


 竜はその農場に向かって降りていく。


 「市場に物がなければ、大元に買いつけに行けばいい…って事ね」


 作業していた人が私達に気がついて手を振っている。


 「知り合いの農場です。ここでわけてもらいましょう」


 農場の主人はピールとさほど歳の違わない人物に見えた。

 ピールが歩み寄ると近づいてきて手を広げ、お互いにハグをし合う。


 「ピールおじさんだ」

 「すっげー。竜だ」

 「一緒にいる人って冒険者? 」

 「恰好いい…」


 農場の主人の子どもなのだろう。主人の後ろからユリウスより少し歳上の少年達が物珍しげに私達を見ているのが見えた。

 ここまでは、まだニコルの「冒険者カード」は広まっていないらしい。

 私達の事は知らないようだ。


 ここで干し肉や燻製肉、チーズ、干した果物や野菜類、ハーブなどを購入することが出来た。




 「トゲシーの討伐?」


 代わりにという訳ではないらしいが、私達はここで農場の作物を荒らす害獣の討伐を頼まれた。


 トゲシーはヤマアラシに似た獣で、比較的、気性はおとなしいとは言え、その背に生えた棘状の毛を飛ばして攻撃してくる。

 鋭い牙や爪もあり、それらに弱毒とはいえ毒が含まれているため非常に戦いにくい相手だ。


 数頭のグループが集まった群れで行動し、その性格は「しつこい」の一言につきる。

 一度狙いを定めると、その場所にある物を食べつくすまで繰り返し襲撃してきて、狙われた方は諦めて逃げ出すより他ない。


 「この先の森にトゲシーの中程度の群れが移動してきたようで、ここも狙われるのも時間の問題かと」


 「って言ってるそばから!」


 例の背負子に、購入してきたものを収納していたニコルの足元をチョロチョロと歩く中型犬ほどの動物。


 ニコルの驚いた声に反応してぶわっと背中の棘の毛を逆立てる。


 「やばっ!」


 両腕で身体をとっさに庇うニコルを素早い動きでジルベールが引っ掴んで竜の方へ放り投げる。


 「オマエ、隠れとけ」


 それを竜が口でキャッチする。

 ついでに舐められてベトベトになったようだ。


 「ヒュイッ」


 ジルベールの合図で他の竜が農場の主と子ども達の間に割り込んでガードする。




 ドドドドドド!


 ガスパがトゲシ―の前に盾を構えて飛び出す。

 棘の毛がトゲシ―の背中から飛び出し、狙いどおりにガスパの構えた盾に向かって飛んでいく。


 「タイミングがいいっていうか悪いっていうか。…この依頼は受けざるを得ないね」


 やや苦笑しながら、トゲシーの死角側からネリーが剣で斬りかかる。


 「戦闘、はじまっちたもんな」


 すでにダンは、話しながらこちらに向かって来るトゲシーの群れに向かって矢を射っていた。


 「団体デクルゾ」


 「退治するとしますか」


 ジルベールの固い皮膚は棘をはじくと見えて、飛んでくる棘をものともしないで群れに飛び込んでいく。

 彼が通ったあとは綺麗に左右に別れる。


 「援護します」


 私はピールに向かってくる棘を炎の魔法と風の魔法をミックスした魔法で撃ち落とす。


 「助かる」 


 彼は鞭を使うようだ。

 腰に下げたホルダーから鞭を取りだし構えた。





「む。この気配は」


 ガスパの唸るような声に、その視線の先を伺うと、すごいでかい物体が。


 「上位種です。みなさん気をつけて」


 ニコルの声にパーティの気は一気に引き締まる。


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