襲撃2
私達は顔や鼻、口をマントや腕などで覆いつつ、煙の直撃を受けないように退避した。
「ふん、害虫はやはり燻煙で駆除に限るな!」
アレなセリフが耳に飛び込んできて、思わず声のした方を見れば、そんなセリフを吐きそうな人Best1なあの人が、颯爽と煙の中から姿を現した、
「煌駆のジン!参上!」
何でこの人がここに居るんだろう?
何かの登場シーンのように恰好いいが…煙はドライアイスなんかじゃなく燻煙剤だ。
あ、マスクとゴーグルをしてますね。自衛ばっちりのようです。
声がくぐもって聞こえたのはマスクのせいのようだ。
「薬を投げたの俺なんだけど」
ダンがちょっと諦めたかのような感じで軽く言い、それから、声を張り上げた。
「さぁ、ちゃっちゃとやっちゃって下さいよ。皆さん!」
見れば、まだ潜んでいた曲者達が穴の中から咳き込みながら這い出してきている。
そして彼らの後からは、アマゾン領軍の兵士達がマスクとゴーグル姿で這い出してくる。
どうやら兄は襲撃が行われる事を予想していたらしい。
兵がゴーグルやマスクをしているのは、ネリーやダンと事前に打ち合わせでもしていたのかな。
私は知らなかったので疑問も沸くが、ジェイと私はお互いに頷くと、まだ立っている奴らに向かって走り出す。
ジンも煙が収まったのを確認してゴーグルとマスクを投げ捨てると剣を抜いて走り出したようだ。
目線の先ではデッキブラシや商品で賊を滅多打ちにしている商店の猫耳や犬耳のおばちゃん達が。
…誰特?
「こんにゃろっこんにゃろっ!レーフェン様の足を引っ張ろうとするなんて許せないよ!」
咳の発作でフラフラになった賊は、防御もろくに出来ないで叩かれるままだ。
どうやら襲撃者でプロなのは一部で、あとは訓練など受けたことのない普通の人らしい。
次々と市の店主の獣人達にたいした抵抗もせずに捕縛されていく。
「赤の牙団」と騎士達は、身のこなしからプロであろうと予想される人物をターゲットにして剣を振り下ろす。
彼らは襲ってくるのでソレとわかる。
そうでない排水路の中に潜んでいた連中は攪乱のために用意されたのだと予想される。
おそらく襲撃者を逃がすために、市を混乱させるための役割なのだろう。
「最後に大掃除をしておくか。味方は排水路から皆出たか?」
ダンは、アマゾン領の兵士に確認を取ったあと、最後の襲撃者を電気ショックで気絶させ、剣を鞘に納めた私に目配せをした。
「手伝おう」
何をしようとしているのか気がついたジンが私の肩に手を置いた。
蓋をはずされた排水路の穴に向かって手をかざす。
「魔力よわが手に寄りて生み出せ!水の流よ!」
大気中に漂っていた魔力がジンの手の平に集まっていき水の玉になっていく。
そしてそこから大量の水が流れでて、穴の中に落ちて行く。
「あとは、まかせた。」
手を握りこんで水流を消すとジンはいい笑顔で私を見た。
私は普段無詠唱なのだが何となく付き合いで「スタン」とだけ呟いた。
地下排水にまだ襲撃者の仲間がいたとして、今ので気絶して逃亡の足を止める事ができたであろう。
「最後にもう一度、さらっておけ」
アマゾン軍の隊長と思われる人が部下に命じた。
合流したアマゾン軍の半数ほどが、ララリィ嬢ととりまきに敬礼をして挨拶したあと地下へ潜っていった。残りの兵士達は、曲者達を捕縛したり見張りのために侯爵令嬢の周辺に歩哨に立ったりしている。
「…誰も怪我はなかったかい?」
もちろん、「赤の牙団」に負傷者はいない。
その言葉に、ニコルが、令嬢と騎士達に様子を尋ね、侍従のセオドアと
何人かが擦り傷程度を負っている事がわかる。
ララリィ嬢も擦り傷を、また彼女を庇った時にフリードもどこか打ち身を負ったようだ。
「どうぞ、うちの店先でよかったら、休んでください」
市の店主達が屋台を隅によせ、店先を空けた。
市の責任者も出向いてきて対策本部みたいなものが立ち上げられる。
市は封鎖され、出入り口に検問所が設けられ、すみやかに買い物客は、身分や目的をチェックされ問題のないものから帰されていく。
普段から有事の際の訓練が民間レベルで徹底されているらしい。
「守ってくれてありがとう、フリード」
ララリィ嬢がフリードの打ち身に治癒魔法をかけながら囁く。
「いや、気がつくのが遅くて、不安にさせてしまった。」
甘々な空気を漂わせ二人の世界に浸る二人。
「君も手に…」
フリードの手がララリィ嬢の擦り傷を負った手に伸びた。
「大丈夫。自分で治せるから」
ララリィ嬢が治癒魔法が得意なのは、その生い立ちに寄るところが大きいらしい。
引き取られたセオドアの家では酷い苛めを受けたそうだから、彼女は自分の傷を自分で治して耐えていたのであろう。
セオドアが痛ましげな表情をするのが見えた。
そんな、目に毒な三角関係風な図柄に、私としては咳払いをしたい、無性に!
何なら舌打ちまでできそうな気分である。




