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モブの恋  作者: 相川イナホ
旧ソルドレイン領にて
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旧領事館にて


 旧ソルドレイン領事館


 かつては王国直轄領だった事もあり、ハード面ではいろいろと物が揃っていたが、どんなに優れた設備を整えようと、それを動かすのは人間だ。


 魔物氾濫時に代官の任を負っていた者は、さっさと領を見捨てて配下の者と先頭に立って逃げ出してしまい。頭を欠いた組織は簡単に瓦解し、領は結果として想定されていた以上の被害を被る事になってしまった。


 その後始末を押し付けられるかのように、アマゾン領と併合する形で兄が王家よりこの地を賜った訳だが、やはり自領と違い勝手が違って統治は難しかった。


 一番の問題は、獣人の集落が多い事である。

 彼らの人権は保障されているはずなのだが、どうやら旧統治者達は彼らを差別して軽んじていたらしい。

 それを示すかのように、新統治者としての兄の招集に答える者は少数だった。

 所詮は人族側なのだ、と冷めた目で兄達を見ていたのだ。


 そこで兄は「新アマゾン領法度」なるものを公布し、獣人の人権と権利を人族と同等に保障する姿勢を示した。


 そこから、旧アマゾン領に暮らす獣人達の「故郷会」のバックアップもあって復興に加速がつき、今ではかつての不幸な出来事の爪跡は見当たらない。





 「ライオネル王子様、レーフェン様、お待ちしておりました。」


 旧ソルドレイン領事館の管理を任されているキャメル・ドヌールは30代半ばの筋骨逞しい男だ。元々は逃げ出した代官付きの武官だったのだが、逃げ出す際の囮にされ多くの部下を失くしたと聞く。

 新領主である兄に引き継ぎを終えた夜、部下の後を追うところだった所をペンネとパスタに止められ、家臣達に説得され、兄の元に仕官する事になったらしい。


 元は兄と同じで肉体派であったと聞くが、起用してみれば、文官の仕事でも頭角を現し、現在の立場に落ち着いた。


 どうやら前の上司は適性など考慮しない人だったらしい。

 彼も、「仕事をしていても何かしっくりしなかった」と言っていたから、元々は文官寄りな能力の持ち主のようだ。


 たまたま代々武官を多く輩出する家に生まれ、周囲も騎士になる者が多かったので自分の隠れた能力について気が付かなかったようだ。


 文官なのに強い、強いのに文官を地で行くようになった。

 マルチな人間の誕生だ。


 期せずして、この土地を納めるのに必要な能力をもった人間が兄の手許に来たといえる。

 本人は亡くなった部下達の墓を守ってこの土地に骨を埋めるつもりであるようだ。


 「早速ですがレーフェン様より要請のあった補給用の物資なのですが…」

 王都より運び込まれた兵糧や武器などの遠征に必要な物資が積まれた倉庫へと二人を説明しながら案内する。


 「王子。ご確認を」


 「うむ、よく整えてくれた」


 種類別、頻度別に綺麗に仕分けされていて無駄がない。


 王子は、部下の一人を呼びつけると目録との突きあわせを命じた。

 が、その時、空気を読んだとは思えない声が王子に向かってかけられた。


 「ライオネル様!私、町を見て回りたいわ!」


 「ララリィ…」


 王子は顔を綻ばせかけたが、表情を取り繕うとさも残念そうに答えた。


 「すまない。まだわたしの用事は時間が掛かる。誰か人を付けよう…セオドア!」


 王子はセオドアを呼びつけると何か命じる。


 セオドアは心得たように頷くと王子の前から下がり、騎士の一人を呼びつけ、ニコルを呼ぶように伝えた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 「…で?」


 「この面子で侯爵令嬢の護衛をしろと?」


 騎士数人に呼びつけられてニコルの元へ来てみれば、『赤の牙団』へギルドから強制依頼が出たとのこと。


 私ことフローラ(フロル)は天を仰ぎたくなった。


 たしかにこの人選は理解できるものだ。

 私達『赤の牙団』は言うなればアマゾン領お抱えの冒険者パーティなのだから。


 でも、希少な休息日なのだ。それにここを出発する前に町で買い物をして補給したい物もある。

 理解できるが納得いかない。


 それに、騎士達の中にフリードの姿も見える、アマゾン城からの行軍中姿を見ることもなかったのに、こんな事で接近遭遇になるとは、ほとほと運がない。


 「君達もいろいろと用意があるのだろう?安心したまえ、君達の行く所についていく形で見学させてもらうだけだから」


 いや、それ逆に迷惑…と言えない辛さよ。


 「うふふ。町に行くのね。楽しみ!」


 ララリィ嬢は新人冒険者みたいな革鎧をつけた格好をしている。

 が、下はズボンではなくスカートだ。

 そしてニーソ。

 それ何てコスプレ?


 それにしても、せっかくの変装も騎士達が一緒とか意味がないと思われる。



 「仕方ないね。市に行って、それから大衆食堂で食事にして、あと最近できたギルドの素材買い取り所でも寄りますか」


 ニコルの発案に力なく頷く。


 「それでいいね」


 ニコルは手の平を上に向ける、すると光が現れ、それは小さな鳥の姿になった。


 「伝えて」


 ニコルが囁くと小鳥は掌で羽ばたくと宙に舞い、一瞬止まったと思うと青白い閃光となって空を一直線に飛んでいく。


 「いきなり貴族が来たりしたら皆びっくりするだろうからね」


 あれは連絡用の魔法的な何かなんだろう。

 ニコルは便利な魔法をいろいろ知っている。


 こうして私達は、割り振られた宿屋で休息を取るべく迎えの者について行く他の冒険者を恨めしく横目で見送るのだった。


 「君達の荷物も騎獣も、迎えに来ている宿の者が責任持って運ぶよう頼んだから」


 ニコニコして言うその騎士に軽く殺意を覚えるのだった。


 「僕はアレン。宜しくね」


 どうやら騎士さん達の食事を焦がしまくった人と同じ名前のようだが本人なのだろうか?

 見た目で名づけるとしたらチビショタ騎士という感じか。

 ドジっ子属性もありそうだが。


 「『赤の牙団』をやってるネリーよ。ま、今回は、その、光栄なことですわ?」


  語尾がクレッションマークなのはネリーの精一杯な抵抗の表れのようだ。


 「あーむかつく」


 とっても小さな声だったけど、心の声が漏れてるよネリー。


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