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モブの恋  作者: 相川イナホ
望まぬ邂逅
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痛い経験

 王都に流れるある噂、ダンはその情報を王都滞在時に拾っていた。


 かつて王都を覆っていた「負の魔力」を浄化した魔石の存在の話を。

 その石の浄化の力は有るだけで影響下にある魔物を大人しくさせるらしいと。


 負の魔力の浄化は、今ではさほど難しくない。

 負を反転させ正の魔力に変換させて、散らす魔法陣が、国仕えの魔法使い達の研究により開発されたからだ。

 これにより王都は完全に平和を取り戻し現在に至る。


 今では文献に「負の魔力」に蹂躙された過去の王都の記録が残るだけである。

 実際に「負の魔力」による被害がどんな物だったかも記述は曖昧だ。

 ただ、「人々は無気力になり、国の機能も止まり滅ぶ寸前にまで陥った」とだけある。


 そんな伝説上のアイテムである魔石が実際に神殿で保管されていたというのにも驚きだが、未だ、その力を失っていないとは。


 持ち出して王都は大丈夫なのだろうか?


 その石が王都の守り石であった場合、再び王都は混乱を迎える事になりはしないだろうか。


 「赤の牙団」はダンからその話を聞いてから、それとなく王子の様子を伺っている。


 変化というものは、想定している物だけという訳ではない。

 思いもかけない、それこそ想定外の良くない方の事態が起こったら?それを憂慮したからだ。


 石を持ち出したのが、第二王子のライオネルというのも不安要素である事は否めない。

 彼は、本人がどう思っているのか分からないが立派なトラブルメーカーだ。


 そう考えていたのは「赤の牙団」だけではないようで、さる筋からの依頼という形でギルドも調査に入っていると知れたのは、ニコルの不審な行動を見咎めたダンが本人に問いただしたからだ。


 それ以来、ニコルとは協力関係を結んでいる。


 実際問題、何か問題があったとしても、「赤の牙団」が王家の決定に影響を与える事や王子の判断を覆す事は出来ないであろう。

 もちろん「アマゾン領主」である兄、レーフェンからなら、何かしら対策が取れる事もあるかもしれないが、リスクも高い。

 何かあった時に、行使できる力をもった存在にツテがあれば、と考えたのだ。




 そうして一介の冒険者パーティや冒険者ギルドが、分不相応な心配をしていると言うのに、ララリィ嬢が絡むと肝心のライオネル王子はポンコツだ。

 いや、ライオネル王子だけでなく騎士団を支える有力貴族の子息達もだが。


 ただ、最近は騎士団で一番の剣士のジェイ・パットンと何故だか侯爵子息であるフリードが、一歩その輪から距離を取っているらしいのだが…。



 今もライオネル王子とララリィ嬢、とその取り巻き達が、お気楽にも冒険者達を出発前に激励するという名目でこの場に訪れている。


 いやいや、いりませんから。「カエレ」と言いたくなる口を引き結んで、仏調面で「高貴な方々」を迎える。

 だいたい出発も遅れちゃうじゃないか。


 「…いい香り。スープを作っていたの?」


 その香りの元は全て「赤の牙団」の腹の中にすでに納まっている。


 一歩遅かったですね。ララリィ嬢。


 「誰か料理を作れる物がいるのか? 」


と、ライオネル王子。


 いや、そりゃ、冒険者ですもの。我々「赤の牙団」じゃなくても皆、アウトドア料理ぐらいできますって。


 ラフポーチャのマリアが目を瞠った。

 ララリィ嬢の衣装の事を突っ込んだ娘だ。


 だが、何か言葉にする前に、さっと彼女のパーティの「リーダーっぽい人」が彼女の口を手で塞いだ。

 なかなかいいコンビネーションをしている。


 「たまには、冒険者料理というのも食べてみるのもいいかもしれない」


 ライオネル王子が続けてそんな事を言う。


 ララリィ嬢の目がガスパにロックオンされている。何故、スープがガスパの作だとわかった?


 「うちの料理責任者はアレンですからねぇ。昨日も鍋を焦がしていましたし」


 ワンコ魔術師のクリストフがぶっちゃけた。


 騎士達よ、それでいいのか。


 「機会があればご馳走いたしますよ」


 「まぁ嬉しい! 」


 リーダーっぽい人が場を取りなすように愛想笑いをして言ったのを、ララリィ嬢は両手を握って飛び跳ねて喜んだ。


 無邪気だと表現すれば良い表現だろうが、「淑女たるもの」ってうちの爺でも顔を顰めてそう言いそうな振る舞いた。


  「楽しみだわ! ところでこれは? ブラックユニコーン?」


 もう次の事に興味を覚えたのか、ジンの連れている騎獣を触ろうと手を出す。


 「こいつは気難しいんだ。俺意外の者だと乙女しか触れられない」


 あれ?私、子どもが居るけど触らせてくれたんだけど?

 私は訝しんでジンの方を見ていたが、ララリィ嬢が手を引っ込めてしまったため微妙な空気が流れる。


 「…マジか。」


 ジンが小さく口の中で何かを言ったのが聞こえたが、同行していた例の美男の侍従が誤魔化した。


 「騎獣はプライドが高く、乗り手意外に触られるのを嫌がりますから。お嬢様」


 「そ、そうよね」


 そう言って引っ込めた手をもう片方の手で擦っている、心なしか顔色が悪い。


 「そろそろ出発しましょうか。次はようやく旧ソルドレイン領主館ですから。」


 最後まで微妙な空気をその場に残したまま、王子一行は去っていった。




 「こ、婚約していますからね。王子と」


 ニコルが場の空気を読まずに発言したが、これはフォローとは言えないであろう。

 突っ込みキャラであるマリアが小声で突っ込んだ。


 「貴族の令嬢として、どうなのかな」


 これにはリーダーっぽい人が半笑いでマリアの肩をつかむと引き摺って行った。 

 目の端には涙が光っていた。


 「お願いだから黙ってて」


 なかなか気苦労が多そうなことで。


 でも、この点では私はララリィ嬢の事を責めたりとかできない。


 好きな人に求められて、それを拒みきる事って本当に難しい。

 何しろ痛い経験者がここに居る。


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