名前位憶えてくれよ
やってしまった!
と思った時は地響きをたてサムが背面から地面に落下していた。
背中を強く打って、一瞬呼吸が出来なくなってサムが口をパクパクしているのを見て青くなる。
「ふん、浮き足立ちやがって」
辛口セリフを吐きながらも、サムの顔に布で風を扇いでやる「煌駆のジン」。
サムを止めようとしてくれていたらしい。
意外と面倒見がよさそうだ。
たしかに浮き足だった所を足払いかけましたね…。
追い打ちで投げ飛ばしましたりもしました。
「……大丈夫か? サム」
こういう時に「仲間に何をしやがるんだ!」とばかりに攻撃してくるのは三下パーティなのだが、「筋肉の饗宴」のメンバーはバツの悪そうな表情をしている。
「その…俺達も悪かったんだ。そんなにフロルの仮面が気になるんだったら取っちまえって煽っちまった」
私の方を見て頭を下げてきた。
腐っても人気パーティだって事かな。
気がつけばわらわらと冒険者達が集まってきていて取り囲まれていた。
離れている所からもこっちの方を興味深げに見ている者もいる。
やばい。目立ちすぎた。
「気になっているのは仮面じゃないよね」
「ケモミズ」のメンバーの犬の獣人の少年、ターメリックがパーティリーダーの熊の獣人に言っているのが聞こえた。
「あのオニイサン発情していたもんね」
「しっ! 子どもが大人の事情に口を出すんじゃねぇ」
仲間の狐の獣人に口を塞がれ、あわあわするターメリック。
とたんに顔を見合わせて押し黙る「筋肉の饗宴」のパーティメンバー。
だが、周囲からの視線に慌てだす。
「「ま、ま、まってくれ! 俺達はそんなんじゃねぇ!」」
誰も何も言っていないが必死で言い訳をし出す。
まぁ、周囲の視線はたしかにそういう視線だったと思うんだけど。
自分の生理的現象を少年に公開処刑のようにバラされ、サムの顔は真っ赤だった。
「だっだれがこんな女男なんかに!」
いやいや、こんな非常時に「あーーーーーっ」的な展開はこっちも受け入れられない。
その対象が私とかもっと受け入れられない。
全力で拒否します!
「馬鹿者が、見ていてわからないのか」
「煌駆のジン」が吐き捨てるようにサムに言った。
扇いでいた布を、サムに投げつける。
「これで、顔でも拭いてすっきりしてよく考えやがれ!」
どうやら魔法を使って湿らせてあげたらしい。本当に意外に面倒見の良い男みたいだ。
「それは返してくれるなよ。俺もそっちの人じゃないからな」
サムが起き上がれるようになったのを見て言い捨てて去っていく。
あ、カッコいいかもと思った。
意外に面倒見も良い奴みたいだし。
でも、あのセリフだと、ジンは私のことを最初から気がついていたって事か。
獣人の人達にはバレてるだろうな~とは思っていたが。
やはり、わかってしまう物らしい。
仕方ないか、寝食を共にしているわけだし。
こんなに近くにいれば、いろいろボロも出ているだろうから。
「そっちの人って何?」
口を塞いでいた手がどけられたのか、ターメリックが無邪気に質問しているのが聞こえる。
彼の声はとても通るようだ。
「バカ犬!ちょっとは黙っておけ!」
狐の獣人のオニイサンに怒られて引き摺られるように連れられていく。
それをきっかけに生ぬるい空気になっていた冒険者達もそれぞれ陣取った場所へ戻っていく。
「あー面白かった!」
とか言ってるのは冒険者パーティの「カルロスミスと愉快な仲間達」のメンバーだ。
見せ物じゃないんですけど。
「まぁ、アレだ。今は行軍中だし、色恋してる場合じゃないよな。君たちも面白がって煽らないことだ。そういうのが命取りになる事もあるってのが俺たちの商売だろ?」
「ラフポーチャ」のリーダーが「筋肉の饗宴」のメンバーに説教をしている。
「君も、普通にしてたらいいのに。」
向きを変えて私にも説教モードだ。
「仮面が気になるって事ですか?」
仕方ない。そういうタイミングなのかも。
一緒に過ごしてみてわかった事だけれど、一部を除いて(特にサム!)ここに集まった冒険者達は一廉の者ばかりであり、下手に足を引っ張ったりする連中ではない。
「中途半端な奴らは兎も角、ここに集まっているような上位パーティ位になると仲間の女性に対してちゃんと敬意を払える。ここのメンバーはそういう点では皆信用できるって俺は思っているよ。協力し合えない奴は生き残れないって、皆知って…」
言葉の途中で仮面を取った私の顔を見て赤髪のリーダーっぽい奴がぽかんとした表情をしている。
そんなに変かな?
インナー(細マッチョの男性に見せるための殻)と、この顔はそんなにミスマッチなんだろうか。
「…って知っているけど、騎士さん達も一緒だし、一括りに「騎士さん」て言っても模範的な人ばかりじゃないし、自己防衛のためにも仮面はいいと思う」
あれ?さっきと言ってる事が違くない?リーダっぽい人。
「リーダーっぽい人って…名前位憶えてくれよ…」
心の声が漏れていたらしい。




