あちらとこちらの…イベント?
アマゾン城を出て、早10日。
夜営のために天幕で囲った場所でララリィ嬢が入浴していると、そこに蜂が飛び込んで来たらしい。
ララリィ嬢が悲鳴をあげたのを聞きつけて、駆けつけた一部の騎士とニコルがララリィ嬢の半ヌードを見てしまい、王子に睨まれたとか。
さらに襲ってきた植物系の魔物に「みんなにばかりに闘わせていられない! 私も魔物を討伐する!」と周囲が止めるのも聞かずにララリィ嬢が飛び出していって、あえなく魔物の伸ばした蔓に、ララリィ嬢がぐるぐる巻きになるなどというアクシデントがあったらしい。
が、基本ドラゴンという大きな騎獣と一緒にいるため、本体から離れたところに居る私達にはララリィ嬢とその周辺の、ゴタゴタは降りかかってこなくて良かった。
それにしても、何かのイベントデスカ?
そんな訳はないのだけれど、思わず眉間に皺がよる。
シャアマスクのせいで、周囲にはばれていないけど。
ララリィ嬢は、今までに魔物討伐の経験は?と冒険者の一人が騎士に聞けば、得に訓練も心得もないとのこと。
「「無茶すぎますよ!お嬢様!」」
同行した冒険者の誰もが突っ込んだと言う。
ネリーは呆れていたけど。
ワンコ魔術師のクリストフが、すぐにララリィ嬢の受けた毒の解毒をしたので大事にならなかったけど、事態を知った兄は、これ以上の同行は無理だと進言したそうだ。
すると王子は何処からか、魔法賦与された防具だの服だのを取りだしてララリィ嬢にあてがい、
「これで大丈夫だろ? 彼女は俺が守るから」
と言ったとか言わなかったとか。
それなら、無茶をしっかり止めてくれたらよかったのにと誰もが思ったと思う。
というより、最初から装備させましょうよ。王子…。
たしかにララリィ嬢の持つ「癒しの力」は強力らしいが、今のところ冒険者達はお世話になる事もなく、自前の回復薬や仲間のサポートで難なく乗り切れている。
でも騎士さん達はお世話になっているみたいだし、仕方ないのかな?
でも守られているべき人が守られる気がないって中途半端に迷惑。
「戦えもしないのに、しゃしゃり出て来るなよ」
安定の辛口な「煌駆のジン」がそう言って口をゆがめ、
「ラッキースケベじゃなくアンラッキーだよ」
ニコルもぶつぶつ言っていたので憐れんでおいた。
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「え? 歩哨に立てだって?」
聞けば女性騎士がいないのだとか。
ララリィ嬢を連れまわすつもりなら連れてこいよ…。
「赤の牙団」からはネリー。「ラフポーチャ」からはマリア、「ケモミズ」からは猫の獣人のパルメ、「カルロスミスと愉快な仲間達」からはレダが、ララリィ嬢の入浴時間帯に歩哨に立つよう、王子から伝達が来た。
そこまで、騎士達に半裸を見られたのがトラウマなのだろうか?
単純に王子の嫉妬心からかもしれないが。
女性騎士がいないのだから女性冒険者に頼むしかないのはわかる。
納得はしないが。
騎士達が何かするわけではないと信じたいが男性ばかりである。
冒険者グループの中でも、歩哨に立つ女冒険者に配慮して、警護をつけようという話になり、付き添いを出す話になった。
見ず知らずの騎士よりも長年一緒に行動してきた仲間の方が信じられるよね。
騎士とは言ってもいろいろな奴がいる訳だし。
「赤の牙団」からはダンが付いていったが、ネリーには必要ないと思われる。
何故ならば、強い事で有名な「赤の牙団」でもネリー、最強だし。
歩哨の特典で、ララリィ嬢の入浴あとは順番でお湯を使えるらしいので、女冒険者からの文句はなくなったが、他の冒険者チームでは、誰が警護に付き添うかでひともめあったらしい。
どうやら付き添いの者もお湯をつかえるというおこぼれがあるらしい。
水やお湯で身体は拭けるが、髪を洗いたいと皆思うらしい。
私は、ガスパやジルベールに見張っていてもらって、魔法を使ってシャワーで身体を洗って身綺麗に出来ているので身体が痒いとかはないが、たしかに行軍では汗をかくし、鎧甲冑や防具を着込んでいるのだ。
一日を終えた後などその下は汗と汚れで、とても気持ち悪い。
いつも浴びられる訳ではないが、兄が手配した安全地帯で夜営が出来る時は、隙間時間でさっと汗と汚れを流すようにしている。
でも、この事があんな事件を引き起こしてしまうだなんて思わなかった。
「こそこそといつも何処に消えてんだ?」
サムがニヤニヤしながら私の前に立った。
ガスパは騎士団からの配給のパンを受け取りに行っており、ネリーとダンは歩哨とその付き添いへ、ジルベールは自然の呼び声に従って、その場を離れていた。
「教えてくれよ」
ガシっと肩を無理やり組んできた。筋肉が暑苦しい…。
というか、気にいらない相手の事を何故そんなに気にして見ているんだ?
こっちは静かに目立たないようにしているのに。
それが逆に注意を惹いたとでも言うのだろうか?
それとも私達がシャワーを浴びているのに気がついているのだろうか?
たしかに、「赤の牙団」のメンバーは、魔法で浴びるシャワーのおかげでいつも小綺麗だ。
そして「筋肉の饗宴」のメンバーは男ばかりだから、身体は拭けてもララリィ嬢のお風呂にもありついていないのだった。
見たところ、水関係の魔法を使えるものもパーティには居なさそうだ。というか記憶を手繰って見れば確かに居なかった。
これは私達のように、シャワーをしたいと言う事なのか?
「浴びたいのか?」
聞けば、一瞬怪訝な表情をされた。
あれ? 違った?
「夜営中の陣の中で魔法を使うのは禁じられているよな?」
サムはさらにニヤニヤして組んだ肩に力を籠めてくる。
痛い。肩がミシっていったぞ。
「暴力も禁止されてますよ」
言い返してやる。これ立派な暴力だよね?
こいつ、チクるつもりか?
でも魔法で水が出せる奴は慣例でそうしてるし、全員に水浴びさせるなどと魔力の無駄使いをしている訳ではないので、それぐらいは皆わかっていて騒がないのが普通だ。
「やめろよ」
「ラフポーチャ」の赤髪のリーダーが割って入ってくれる。
彼はどういう訳かいつもそんな役をしている。
根っからのリーダー気質なんだろう。
「気にいらないんだよ。その仮面」
サムは仮面に手をかけようとした。ちょ・・・やめて。
「おい……サム! 何やってんだ!」
「筋肉の饗宴」のメンバーもサムの暴走に気がついて取りなそうと手をのばす。
さすが人気冒険者上位パーティ!メンバーはまともな人達でよかった!
が、危機感から私の身体が勝手に動いてしまうのが先だった。
肩を組まれていた手を掴んで抱え込み、身体を沈めた。
ふいな動きでサムの足が浮いたのを感覚でとらえ、足でサムの足を払い、身体強化をかけつつテコの原理で肩に乗ったサムの上半身を前方に投げだす。
面白いくらいにサムの身体が宙に舞った。
やってしまった!




