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モブの恋  作者: 相川イナホ
望まぬ邂逅
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とりとめのない思考


隊列から充分に離れ、ドラゴンの背に乗って空へ舞う。

暫くは鬱陶しいサムや、姿を見たくないフリードと離れて空の旅だ。

その事にほっとする。


眼下を見下ろせば領民総出で出発を見送ってくれているようだ。

特別に触れを出していないはずだが、それだけ兄の人気が高いと言う事だろうか。


歓声があがって見れば、馬上で兄が領民に対して腕をあげて答えているようだ。

アマゾン領での兄の人気は不動である。


対して王子一行は不人気であった。

彼らが起こした愚かな行動の代償は王室の不人気という現象にしっかりと反映されているようだ。

商人達の一部がおざなりに王子達が通る時に花を撒いたり、歓声をあげたり王国旗を振ったりしている。

まぁこれ「アマゾン領、王族に叛意あり!」などと痛くない腹を探られたくないのでペンネとパスタがお願いして回った事だけれど。

義務感でやってるのがバレバレかもしれない。


兄も男爵位を賜って、少なからず、妬みや嫉妬を買っているらしい。

感情は理屈じゃないからやっかいだ。

兄の陞爵はアマゾン領と隣のソルドレインの復興に遂力した事に対する王国からの正当な評価なのに、努力をしないでいて他人の成功を妬む輩ってのはどこにでもいるものだ。


足を引っ張られたくないから対策は立てるけど、そういう事を考えて備える事自 体が地味にストレスに感じる。


そんなストレスのかかる日々を送っているのに領主として努めを腐ったり投げ出したりしない兄は凄いなと思う。


同時にもし自分が男だったしても、領主になんかになるものじゃないなと思う。


今の「半冒険者で半貴族」みたいな立場は気楽だ。

いつまでこうやっていれるか分からないけれど、もう王都の社交界になど関わりたくない。


学園でさえ人間関係が面倒くさかったのだ。社交界などどんな魑魅魍魎達が跋扈しているか知れたものではない。

具体的に言えば、今眼下に見える馬車に乗ってる人とその取り巻きの人とか!


罪のない自分の元婚約者を放逐とか頭がオカシイとしか思えない。

自分の恋人によく思われたいというそんな理由であるだろうと推測できるけど、

バカじゃないだろうか。


今、アマンダ・フレンチェ嬢はどうしているだろうか。

ライオネル王子の婚約者であった彼女がどうなったのか噂は届いてこない。

傷心は癒えた頃だろうか? 

それとも傷痕もまだ生々しいままだろうか?


何か力になれる事があればいいのだけど。


 あの事件からは時間が立ちすぎてしまった。私のこの想いは今更な感傷だろうか?

―- いろんな人の手助けや親切が合って私は今ここに居ることが出来ている。

飛び込んだ運命にただ流され、揉まれる私が溺れてしまわなかったのは、いろんな人が助けてくれたからだ。


 願わくは、アマンダ様にもそういった善意の手が差しだされていますように。


いつか、私はこの世界に優しい思いを返せるだろうか。



ふぅ

風が気持ちいい。


軍馬に合わせてゆっくり飛行しているのため、良い風が髪を弄る。

私はとりとめのない思考を放棄して気持ちのいい風を感じていいた。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



その頃ララリィ嬢とリオネル王子は、空を悠然と飛ぶドラゴンの姿を見上げていた.



「………」


「ドラゴンが気になるの?」


「あ、あの人ね。パーティでは見なかったなって思ったの。アマゾン領主のレーフェン様と同じ、きれいな銀髪」


「そうだな。アマゾン家の縁の人なのかもしれないな。」


王子は馬車の窓から少しだけ顔を出して空を見上げているララリィを見て苦笑を浮かべた。


「ライオネル様、私ドラゴンに乗ってみたいわ」


「いいよ。この旅が終わったら、宮殿のドラゴンに乗せてあげる」


ライオネルは己の愛しい人の可愛らしいお願いに微笑んだ。


「まぁ嬉しい! 約束よ」


ララリィは素直に喜んでお礼の言葉を口にする。それがどれだけライオネルの気持ちを解して軽くしてくれる事か。


――「いけません」「御身分に相応しい態度を御取りください」「危ないのでそれは認められません」「癇癪はみっともありませんよ」


 物心ついた頃から、ライオネルの周囲は否定の言葉ばかりだった。

 泣いたり、笑ったり、人として当然の感情も時には見せてはならないと…そう教育されてきた。


 窮屈だった、息苦しかった、それを簡単に出来る存在が近くに居たことも災いして、どんどん自分に自信を失くしていった。

 そしてそれを誤魔化す為に、わざと尊大で傲慢な態度を演じた。

 仮面をつけて生活しているうちに本当の自分が何だか分からなくなってきた。


 悲しいのに笑い、苦しいのに平気なフリをする。


 窒息しそうで、息苦しかった。


 そんな時に出会ったのがララリィだった。


 彼女は屈託なく笑い、泣き、怒り、自分に本当の気持ちを思い出させてくれた。


「ララリィ、そんなに身を乗り出していたら危ないよ? 」


 注意すれば彼女は素直に頷き、席に戻る。


 「君に何かあったら生きていけない」


 隣に座った彼女を抱きしめ、その肩口に額を寄せて言えば、彼女は照れたように笑いつつもライオネルの背中を宥めるように撫でる。


「オーバーなんだから」


 ララリィはくすくすと笑って言う。


 馬車内には侍従のセオドアも同乗しているが、視線を伏せていないかのように静かにしていた。



馬車はゴトゴトと揺れ、街道を進んで行く。


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