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モブの恋  作者: 相川イナホ
望まぬ邂逅
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ニコルの講義

ずいぶんと久しぶりの更新です。

待ってた方、すみませんでした。

「ハイ。注目!これがワイルドボア、で、こっちがサーベルボア、同じ系統の魔物だけど対処の仕方が違うよ。それは何だと思う?」


 ニコルを講師としたアマゾン領の魔物についての講義がはじまった。


「魔物の地域ごとの能力の差を舐めてはいけないよ。このアグリーベアだけど、あ、これ『赤の牙団』が今朝狩ってきてくれたんだけどね。いやーデカイっしょ?

 こいつの仲間は他の領にもいるけど、凶暴さでいったらここの領に生息している奴の右に並ぶものはないね。

 この牙を見てくれ、こいつにがぶりとやられたら即死だろうね。

 で、この爪! 何回か攻撃すると、この爪を飛ばしてくる。そう魔力を使ってね。魔物らしい攻撃だね。

 この爪は何層にもなっていて、見ればわかるけど、ほら表面の爪の下に次の爪が控えている。こういう作りは、海の魚でいるんだけど見た事あるかな?

 そう、鮫だよ。鮫の歯もそうなんだ。

 で、話をもどすけど、こいつの貫通力なんだが、この一般的に冒険者が使う木製の盾を見てくれ。突き抜けているのがわかるだろう?」


 立て板に水といった感のする講義内容についていこうと必死に騎士達はそれぞれメモを取ったり、瞬きすらすまいと緊張しているようだ。


「ま、今までの講義内容はすべてこれに書いてあるけどね」


 そこでニコルが出してきたのは例の冒険者カード、と対になっている魔物カードだ。


「これは、僕が監修した『魔物カード、アマゾン領デッキ』だよ。欲しい人はギルドに置いてあるから言ってね」




「ワンセットくれ」

「あ、俺にも」


 商売上手なニコルのセールスを交えたトークで座学は異様な盛り上がりを見せて終わった。



「いやぁ、しゃべった、しゃべった。デッキも売れたし騎士団様さまだね」


 ほくほくなニコルとは別に、私は仏頂面だ。

 仮面のせいでそうは見えないだろうけど。

 フロルとしての私は、大変不本意にも、「赤の牙団」とともに呼び出された。

 本当に不本意だ。


「さ、では、魔法の使える者は、こちらへ。席についたら、自分の得意魔法について、目の前にある紙に書いて申告して」



 場を仕切っているのは、ワンコ魔術師のクリストフ・ダンテ、言わずとも知れたララリィ嬢の取り巻きの一人である。


「この講堂の作りは面白いね。光魔法で手元の物をこのスクリーンに大きく投影できるわけか」


 そう、この講堂はすり鉢状になっており、演壇から扇形に段差をもうけ、席は離れるほど高くなっているデザインを採用した。

 もちろん私の前世の知識を引っ張ってきて職人のみなさんとああでもないこうでもないと、簡単な作りながらスクリーンとオブジェクターを備えた自慢の施設だ。


 例え、ララリィ嬢の取り巻きからでも、アマゾン領の事を褒められるとつい顔がほころんでしまう。

 まぁ、仮面のせいで表情は見えないだろうけど。



「え?複数属性、使用できるの?」


 回収した申告書を見てクリストフは驚いたように言う。


「俺はソロだからな」


 煌駆のジンはソロ冒険者だ。あらゆる場面を想定して死角のないように鍛えてきたのであろう。

 複数属性持ちは、巷では器用貧乏と称されるように、威力の面で劣るとされる。

 にも関わらず、ジンがその名を世轟かせているのは、「器用貧乏」に留まらない実力を有しているからだと思われる。


「俺は俺のやり方でやらせてもらう。騎士団となれ合うつもりはない。」


 たしかに、そうだろう。

 騎士団はいわば軍隊であり、戦いは集団戦、一人で、もしくはパーティ単位で戦う冒険者と戦闘スタイルが違う。

 ジンとしては当然の言い分であろうし釘を刺しておきたかったのだろう。



「フロルは広範囲、ピンポイント、どっちもいけるけど、フロルだけ引き抜かれるのは御免だね。騎士団はあたしたちと連携を取るつもりはあるのかい?」


 ネリィも騎士団に組み込まれるのが嫌なようだ。


「冒険者パーティっていうのはコンパクトにまとまっているものだね。まぁ。そう警戒しないで?騎士団にも魔法部隊はあるし、戦術も何通りか用意してある。

 これはただの情報収集だから。もちろん冒険者の方々に『突撃隊』をしろとか『我々の盾になれ』なんて非道な事を言うつもりもないよ?」


 クリストフはまとめられた申告用紙から目を離さず宥めるように言った。


「ギルド推奨の『アマゾン領魔物デッキ』によると、魔法でしか倒せない魔物もいるようだからね。みんなの使える魔法を知りたかったんだよ。ありがとう」


 冒険者というと見下してくるような騎士もいるなか、礼まで述べる事のできるクリストフは出来た人間の内に入るのだろう。それがあの頃に活かされなかったのが残念でならない。

 年齢を重ねて、彼も人として練れてきたという事だろうか。


「フロルさんも複数属性か」


 他の冒険者パーティでは、回復、補助系、攻撃魔法使いが弓を兼任している場合が多いようだ。やはり実力あるパーティだけあって、死角がないような構成になっている。

 その点、『赤の牙団』と『筋肉の饗宴』は物理重視な構成だ。

 私に『筋肉の饗宴』のサムが突っかかってくるのにもその辺あたりの事情が関与していそうだ。


 彼らの目には、ネリーやガスパに守られて、前線に出ないフロルは腰抜けに見えるのかもしれない。


 しかし、それには無理を言うなと言いたい。


 いくら身体強化をしたとしても、もともとの筋力のアドバンテージが少ない私は

無理して前衛に出るより、身体強化に振り分けられる魔力を後衛からの攻撃や回復に使用した方が効率がいい。

 とはいえ、そんな実情を説明してまわるわけにもいかないのだから難しい。


「では次は精度と距離と範囲についてだけど」


 私のように広範囲に魔法効果を付与できるものはいないようだ。

 クリストフの視線が私に注がれる。

 ちょっと素直に申告しすぎただろうか?


「随分と規格外ですね。フロルさん。わが魔術部隊でも、そこまでの範囲攻撃は難しいですよ」


 魔法はイメージや想像力が大事というのは、いろいろな転生小説でも説かれているとおり。

 火山の噴火やホワイトアウトする猛吹雪、落雷の瞬間など、自然の猛威を映像で見て知っているからイメージもしやすい。


 さらに、物が燃えたり凍ったりする仕組み、風のおきる仕組み、雷のおきる仕組み、それを前世の知識とて知っている私は、この世界の「魔法使い」とは異質な魔法を使用できる。


「騎士団の魔術部隊に興味はありませんか?」


「いいえ」


 きっぱり断った。

 キラキラ(ララリィ嬢のとりまき)の近くになんて寄りたくもないから。



 そうしてクリストフに目を付けられて冷や汗をかいている間に、兄が思い切った行動をしていたとは私は知らなかった。


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