かつての友に捧ぐ
「王子、少し肩慣らしをしますか?」
ジェイ・パットンに誘われ、ライオネルも若干嬉しそうに木剣を持って訓練場に降りてくる。
「シッッ」
「ハッ!」
掛け声の合間にカン!コン!と木と木が打ち合う音が響く。
右へ左へ、左へ右へ。立ち位置が目まぐるしく入れ替わり、お互いの剣の流れを 読みあい隙を突きあう。
「ジェイ。こうしていると学園にいた頃のようだな」
「ああ、そうだね」
王子の息があがってくる。ジェイはまだ余裕のようだ。
ジェイはぴたりと、動きを止め真剣な面持ちで王子の顔を見た。
「ライ、かつて、同じ学び舎で学んだ友として聞く。」
「なんだ?」
対して王子は、ジェイの隙を突こうと、動きまわっている。
「何故ララリィ嬢を連れてきた?」
「彼女は治癒魔法が使える、皆の役にたってくれるさ」
「自分達が、国の人達からどう思われているか、本当は知っているよね?」
ライオネル王子の顔から表情が消える。
「アレクと君がああいう事になって、国同士が戦争になって・・・
・・・当時は僕も周りが見えていなかったから、勢いだけで進んじゃったけど。
あれは避けられた戦争だったよね?」
ライオネル王子の突きを下方より身体の外側にむかって剣を振り上げることによって、ジェイは簡単にあしらった。
「ねぇ、ライ。僕たち、償いをしたかな?巻き込んでしまった人達に。」
王子の手から剣が弾き飛ばされ、その場に転がった。
「興が冷めた」
王子は剣を拾いもせずに、ジェイに背をむけた。
「夜は魔物の生態についてのギルド職員による座学だよ。出るよね?・・・・王族だからって手加減してやろうとか魔物は思わないだろうから,知っておいて損はないよ・・・。
これはかつての友人からの、多分最後の忠告だと思って」
背中に怒りを漂わせ、去って行く王子の背中にジェイは呟いた。
「本当は、もっと前に『こんなのはおかしい』って僕が言えばよかった。今更君を咎めたところで、君ももう戻れないところまで来ているのにね」
ララリィ嬢の事は、もう自分にとっては過去の事だ。
かつて剣の道で生きていくことに対して思い悩んでいるとき、彼女は励まし、力づけ、応援をしてくれた。
彼女に対して淡い恋心を抱いた事も事実だった。
でも、彼女が自分だけを見ていてくれているわけではないことは割と早い時期にわかってしまっていた。
彼女が応援にきてくれなかった試合の日、ライオネルとデートをしていたと知って、ああそうなんだと思った。
自分を応援してくれたように、彼女を応援して見守っていこうと固く決意した日、自分がその決意ゆえに誤った判断をしたと気がついたのは、誇り高い伯爵令嬢が言われのない罪で断罪されて学園を去ってしばらくしての事だった。
そのことで友人が、慈しんでいた妹と争いになり、そのことで心を病み、倒れたと聞いて目が醒めた。
・・・そこまでして、彼女を守らなければならないのか?
自分の大切な人達を犠牲にしてまで、自分の思いは貫かなければならないほどのものなのかと。
彼女の事は好きだった。僕に必要な言葉をくれたし、僕のためらいや躊躇する気持ちに寄り添ってくれた。
彼女の言葉は甘美で僕は溺れた。
彼女だけが僕を見ていてくれたのか?答えはNOだ。
いろんな人が僕を支えてくれていたし、見守ってくれていたのに、僕は気が付かなかっただけなんだ。
自分で出さなければいけない答えを彼女に、ただねだっていただけの、幼稚で幼い僕。
今でも思う、後悔と共に、ただ僕のすべては幼く、未熟だったと。
彼女かそうではない人たちか、ではなく、彼女もそうでない周囲の人たちもと、そういう気持ちに何故ならなかったのか、と。




