手紙
「こんなところで注目を集めるのもなんだ。わたしの執務室にいこうか」
兄がそういうと、ジェイ・パットンの身体の両側にペンネとパスタが貼りつき両腕を抱え込んで連れていく。
「え?ええええ?」
疑問符を10個くらい浮かべた顔で彼は執務室へ連行されていった。
「手紙を預かってきました。これはフローラさんへ」
ジェイから差し出された手紙を受け取ってみれば、懐かしい友人からだった。
「読んでも?」
私は断りを入れると、その場で封を切った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・知っていたんだ」
手紙等も検閲が入るので、私に迷惑がかかるかもしれなくて、今まで連絡が取れなかった事のお詫びと、私への気遣い。それとまた会いたいという内容と、私の身に起こったことへの心配だった。
「この前、王都に行った時にダフマン子爵に呼びつけられて、話さざるをえなかった」
ダフマン家はアマゾン家にとって主家である。
わが兄が陞爵して男爵になったとはいえ、主家との関係は崩せない。
しかも私は主家であるダフマン家に養女に入っているのだ。
ダフマン家が私を気にするのは当然だ。
「・・・・兄様、いやな役目をまかせてしまってごめんなさい。」
「隠せるものなら、隠し続けてやりたかったが・・」
「・・・・いつかは分かってしまったでしょう」
むしろよく今までバレなかったと言える。
私は手紙を読み返した。
友情をいきなり断ち切る形で学園を去り、ダフマン家を出奔した私をまだ家族だと、友人だと思ってくれている内容に涙が出た。
フリードの事ばかりを悪く言えない。
私のした事は形は違っても彼と同じなのだと、遅まきながら気が付いた。
「レイチェル・・・・・マリアン」
彼女達にどう償ったらいいのだろう。
「会いたい・・・」
手紙をぎゅっと抱きしめた。
彼女達に会って謝りたい。
離れていた時間を埋め合わせたい。
「手紙の内容を知っているか?」
兄がジェイ・パットンに聞く。
「とんでもない、読んでいないし、聞いてもいないよ」
「そうか」
兄は窓辺に立って庭を見ていた。
窓の外は暗闇が拡がっていて何も見えない。
「フローラ」
「はい?」
「明日は手加減しないつもりだ。いいな?」
「御存分に」
私は即答した。
彼らに心底呆れていた。
同情する気などまるでわいてこない。
「最前をつくす、どちらにもな」
兄は自分に言い聞かせるように言葉をつづけた。
「彼らには、自分達のしでかした事の後始末をしてもらう。それが地位あるものならば特にその責任は重い」
「ごめんなさい。僕らがちゃんと周りが見えていなかったために」
ジェイ・パットンは項垂れた。
「この身に替えても魔の森の氾濫の原因を元から断ってみせます」
「それは違うぞ」
兄はジェイの言葉を遮った。
「貴様が死んでも逝った者は帰ってこない。本当に悪かったと思うのなら、生きて償い続ける事だ。贖罪は禊を受ければ終わりという物ではない、イバラの道だぞ」
ホワイトランドとの争いは、ライオネル王子と同盟国王子アレキサンダーとの確執が原因だった。
だからジェイ・パットン達には直接関係はないが、遠因はある。
「この領でも、魔物の氾濫で多くの犠牲が出た。しかし王子には覚悟があってここに来ているようには見えない」
兄の背中からはその表情が伺えない。
「甘いのだよ。失くした物を取り戻す事がどんなに困難なものか、まるでわかっていない」




