再会
「そ、そうだな。親善試合をしてみるのもいいかもしれない。」
王子が、場をとりなそうと気を使って発言した。
兄は立ったままだった。
その瞳が炯々と光り一人の騎士をねめつけている。
「冒険者グループを別にして、殿下の兵は魔物との戦いに慣れていない。
何班かにわけて、これからアマゾン領に隣接している魔の森へ肩慣らしに行って もらうわけだが、それについては事前に実力を図らせていただきたい。それには剣を交えるのが一番。」
「アマゾン男爵自らが剣の指南をしてくれるのか?そうだな、騎士の中でも一、二の実力というと、ジェイ『フリード殿をお願いしたい』」
兄は、王子の言葉を遮って言った。
「しかし、一番強いのは、ジェイ『フリード殿をお願いしたい』」
二度も言葉を遮られた上、フリードを名指しされて、王子は折れた。
「では、こちらからは第二王子付き近衛部隊のフリードを、先鋒としてだそう」
名指し指名に、フリードは王子に「俺なんかした?」と聞いている。
そこで小声で王子に「バカ、妹さんをナンパしたろ!」と怒られる。
まる聞こえなんですが。
実際ナンパどころじゃなく孕まされたんですけどね。
「では、明日、親善・・・というか交流試合だな、を行う。その方もそれでよいな?」
王子は冒険者達にもそう伝える。
雇い主《王子》からの案に、しぶしぶ揉めていた冒険者達も従う。
主に「筋肉の饗宴」だが。
「明日はフロルも出るんだろうな」
そんなに私が気になりますか(悪い意味で)。
結局、晩餐会は、盛り上がらないまま閉会になった。
いくら男装していたとしても、近くで見られれば、女性だとばれる。
喉仏はないし、身体の筋量は少ないし、髭もない。
「つけ髭って作れるかしら?」
「いやいや、試合の最中に落ちたりずれたりする方が問題じゃ?」
独り言にペンネが答えてくれた。
普通に私がフロルだっていうのもバレてるし。
いいのか・・・実家だし、家臣団は身内中の身内だし、その中でペンネもパスタも側近中の側近だし。
腑に落ちない思いを無理に納得させつつ首を傾げていると、騎士の一人が話しかけてきた。
「ちょっと失礼いたします。アマゾン家の方ですよね?」
さっき冒険者を嗜めてくれた騎士だ。
「こちらにダフマン家の養女になられたフローラさんという方がいると思うのだが」
・・・・本人ですが?
「えっ?ええええ?」
驚きすぎである。
「だって、前会った時は、こんなに小さくて」
って、それじゃユリウスの背丈並みじゃないですか。どういう認識してるんですか、ジェイ・パットンさん
「大きくなったね・・・」
身長の事を言われているのだろうとは思うが、男性の性なのか彼の視線は胸のあたりに。
「!」
自分の視線が、どこに向いていたのか気が付いたのか、顔を真っ赤にしている。
「そ、そのすまない。あまりにも記憶と違ってたのでびっくりして、ぶしつけに見てしまった。申しわけない」
素直に謝るあたり、彼らしい。
「あの、僕のこと覚えてる?前、フィリペとアドニスと・・・あのサロンで会った事あるんだけど」
懐かしい名前を聞いた。
私がまだ王都の学生だったころ、ダフマン家のレイチェルとローリエ家のマリアンと3人でよく一緒に居たっけ。
放逐された伯爵令嬢のアマンダ様のサロンで、マリアンの兄のアドニス伯爵子息への行き過ぎなファンについて相談に乗ってもらった事はいつだったか。
ああ、あの頃に戻りたい。
「あの頃はまるで僕自身も嵐の中にいたようだった。今は・・・」
言いかけて目を伏せる。
「今はまた、フィリペとアドニスと一緒に行動しているよ。起きてしまった事は償えないけど、僕ができることで少しでも役に立てる事があればと思って今回の遠征に参加したんだ」
ジェイ・パットンは騎士科の生徒だった。
最後に見た時は、ララリィ嬢の取り巻き化していたはずだが・・・。
疑わしい思いで彼を見ていたのかバレたのか、彼は慌てて私の手をとった。
「ごめん、そう思うよね?今更なんでって。でも僕たちにもいろいろあったんだよ」
「妹の手を離してくれないかな」
目どころか口元も笑っていない兄が腕を組んで、彼のうしろで仁王立ちをしていた。




