平伏して恐れろ、これが本当のシスコンだ
「なんだって?」
晩餐会場に戻るとピリピリとした空気が張りつめていた。
「『もう年なんだから大人しくしていたらどうだ』って言ったんだよ。お ば さ ん」
冒険者パーティ『筋肉の饗宴』のリーダー「マッチョのサム」がネリーを挑発していた。
彼らは今、売り出し中の勢いのある冒険者パーティだ。
「かわいい顔していきがっちゃって」というレベルなのだが、ネリーにこの態度はいけない。
ガスパが必死で押さえているが、一触即発な雰囲気だ。
「だいたい、今日はあのいけ好かない気取り屋ヤローはどうしたんだよ」
あ、それ私のことですか?
というか私に対するヘイトですね。ネリーは巻き添えを食った感じですか。
「・・・場所をわきまえろ」
ダンも椅子から腰を浮かせている。
一見細っこいダンなのだが、身体強化魔法を併用した瞬発力を活かしたパンチは相当だ。
いくら筋肉の鎧で武装していている「マッチョのサム」でも食らったらただではすまないだろう。
「年寄りの冷や水って言ってんだよ。そろそろ俺達若手にまかせたらどうだい?お じ さ ん」
「あ゛?」
ガスパが低く威嚇の声をあげる。これはもうめんどくさいと思ってる時の反応だ。
「ふん。弱い犬ほどよく吠える」
そこへ「煌駆のジン」がよけいなひと言を投下。
「なんだ?それは俺達獣人に対する侮辱か?」
ガタガタっと椅子を鳴らして「ケモミーズ」が立ち上がる。
「「ちょっと、こんなところでやめなよ」」
穏健派の「ラフポーチャ」と「カルロスミスと愉快な仲間達」が止めようと声をかける。
これが冒険者ギルド内での出来事なら何てことはない日常的な光景だが、ここは第二王子をまじえた歓迎の晩餐の場だ。
まずい。乱闘になぞになったら非常にまずい。
「その辺にしとけよ」
若い騎士の一人が席を立った。
「騎士様には関係ないだろ」
サムは面白くもなさそうに吐き捨てた。
これから一緒に行動するのに、あまり騎士団と冒険者の仲は良好とは言えないようだ。
アマゾン領までの行程でも、縮まる事がなかったのだ。これからもその距離が近くなることはないだろう。
「ジェイ」
もう一人がその騎士の肩に手を置いて、咎めるように言う。
「彼らの問題だ」
まぁその通り、これは冒険者同士の、いわゆる「メンチ切り」なのだ。
どうせなら晩餐が終わってから、自由時間にでもやってくれたらよかったのに。
・・・原因は私の欠席なので、責任を感じる。
今からでも着替えて、ここに参加するべきだろうか?
「それ以上騒ぎを起こすと・・・査定に響きますよ?」
ニコルがサムに向かって冷たく言い放つ。
事態収拾してくれるつもりのようだが、サムは堪えた風もない。
「脅す気かよ・・・ギルド職員風情が」
「その職員風情が、この領でのギルド責任者なんですよ。
最悪な評価にされたいんですか?」
サムは顔を真っ赤にして、拳をふりあげていたが、パーティの仲間に止められた。
「おい、サム・・・お前、この状況が分からないのか?」
見ればじりじりと我がアマゾン領主家臣団が彼らを取り囲んでいた。
彼らは給仕の恰好をしているが、さりげなく会場の様子に目を配っていたのだ。
「お館様に恥をかかす気ですか?だとしたら相応のもてなしをさせていただきますが」
目が全く笑っていないパスタと爺が「筋肉の饗宴」メンバーに威圧をかける。
「ちっ!」
舌打ちをすると、サムはようやく拳をおろした。
私はネリーと目があったので、ゴメンとアイコンタクトを取っておく。
今回の事みたいな事は、ハイグリーンに居た時からよくあった。
伝説のパーティの再結成、しかもそのメンバーに私という初心者が混じっている。
なよっとしている(男じゃないから)、強そうにも見えない私はよく他の冒険者に見くびられたし、妬まれたりもした。
入っているパーティが凄いので、私も一緒に評価されているんだろうというやっかみも受けた。
たしかに否定できない。
実際その通りだ。
ガスパやネリーは初心者向けの依頼の「薬草採集」から付き合ってくれた。
無理しないように、弱い魔物の討伐からはじめ、商隊の護衛や探し人まで手とり足取り教えてくれた。
その反面、犯罪者の討伐などの汚れ仕事の依頼は決して受けなかった。
結果、私は本当に強いのか?とか甘ちゃんでは?とか疑われている。
綺麗な仕事しかしない私を「気取った奴」とか言って毛嫌いする冒険者もいる。
別に気取っているわけではないが、目立つ事によって余計なプレッシャーを浴びるのは世の常か。
魔物討伐を仕事の主体とする冒険者パーティは他にもいるのだから、言いがかりはいい加減にしてほしいのだが、そこは相手の弱いところをつくのが喧嘩のセオリーというところか。
て、事は喧嘩売られてるんですね。
正直買いたくない喧嘩だけど、どうする?
「移動ばかりで、暴れたりない者もいるようだね。」
その時、兄が静かに立ち上がった。
「・・・・ウチの領のもので良ければいつでも相手になるが」
強風がいきなり吹き込んできたような威圧が兄から放たれた。
同時に家臣達の目が光ったような錯覚が・・・・。




