二人の義兄
「・・・セオドア、頬、どうしたんだ?」
黒髪の侍従は、本来いるべき控えの間に戻る途中、そう騎士の一人に声をかけられた。
あわてて頬に手をやれば、相手はからかったように続ける。
「よほど激しい女なんだな。名誉の勲章か?」
「あなたと一緒にしないでください。これは、・・・そんなんじゃないんです。」
ムっとした顔で言えば、相手は面白そうに笑う。
「女から誘ってきたのか?それともお前から?だとしたら、「義妹、命」のお前にしたら珍しい事だな。」
「同じ『義兄』でも義妹に邪な気持ちを抱いているあなたに、変な勘繰りを入れられたくはないですから言いますが、そんな女性じゃありませんよ。僕が・・・ちょっと」
「ちょっと?」
セオドア、と呼ばれた侍従は少し考えこむ。
「押し付けがましかったかも・・」
義妹は同性と、よくトラブルになる。
観察をしていてわかったが、大抵、相手の何かしらの虎の尾を踏んでいるせいではないかと思われた。
さっきも、彼女が義妹を警戒したような視線で見ていたのに気が付いて、思わず追いかけてしまった。
誤解を解きたくて、彼女に義妹を嫌ってほしくなくって、夢中で声をかけた。
一般的な作法を無視もしてしまっていたし、何よりも相手の都合を考えない行動だった。
そう、今思えば、彼女の目は腫れていたし、赤かった。
彼女は泣いていたのだろうか?
化粧を直したいと言っていたのだから、その可能性が高い。
「タイミングが悪かったみたいだ」
「せまって殴られた?」
「僕はただ慰めたくって・・・・彼女、泣いていたから」
気が付いていたら抱きしめようと腕を伸ばしていた。
目の前の彼女が、何故だか小さな頃の義妹の姿と重なって、その背を包んであげたくなってしまった。
「お前のソレはもう病的だよ」
「僕は、誰も彼をも慰めたいと思うわけじゃない。あなたの女好きほど病気ではないと思います」
騎士は声をたてずに笑った。
「俺は、自分のことを少しはわかっているよ。どうしようもないロクデナシだって事も。でも、自分の事を誰かを救える人間だなんて奢ってはいないつもりさ」
セオドアの顔に、険があらわになる。
「それは僕に対するあてこすりですか?フリード」
フリードは目をそらし、一瞬おいてから再びセオドアの顔を見た。
「ララリィは、もう小さかった君の義妹じゃない。自分のしている事の意味を充分自覚できているはずだ。君がしようとしている事は、彼女にとっては大きなお世話だし、鬱陶しく思ってるはずだよ。心あたりあるだろう?」
「呼び捨てにするな。妃殿下になる方だぞ」
「ララリィは、それでいいと言っていたし、俺は2人きりの時はそう呼んでいる。
なぁ、彼女はもう大人なんだ。保護者面をした奴の出る幕はないんだよ」
「フリード。それ以上は・・・いくらお前でも」
セオドアの顔色は青ざめ、拳は固く握られている。
「あんまり過保護にするのはどうかと思うぜ。『お兄さん』」
フリードは挑戦的にそう言い捨てると、去って行く。
握られた拳の行き場所を失くして、セオドアは思い切り壁に拳を叩き付けた。
「くそっ」
「当方になにかご不満な点でも?」
「す、すみませんっ」
アマゾン家の執事にそれを見咎められ、セオドアは慌てて取り繕うのであった。




