突きつけられた現実
私の背後に立っている彼の体温がすぐ背中に感じられる。
首のあたりに彼の呼吸する息があたっているかのよう。
私の全身はかぁっと熱くなり頬が赤くなる。
耳元で、心臓が踊っている音がする。
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン・・・
うるさいほど、胸が騒いで動悸がする。
「あ、」
どんな反応すれば?
私に向こうが気がついて、気まずげな表情を浮かべる、そう根拠なく思い込んでいたのでどうすればいいのかわからない。
「ご苦労だった。席について、アマゾン男爵の心づくしの食事をとるとよい。」
ためらっている内に、ライオネル王子の言葉が私の逡巡を遮った。
「視察に来た時も馳走になったが、うまかったぞ」
「な?」といった風に、ライオネル王子は甘い空気を漂わせララリィ嬢を見つめる。
ララリィ嬢は小首を傾げて微笑み、甘えたようにそれに応える。
「あの時のデザート、とても美味しかったわ」
背後のフリードの身体が強張ったようにかんじた。
思い切って振り返れば、ララリィ嬢の方を見て、痛みを我慢しているかのような表情を浮かべている。
それは、ほんの一瞬の事で、彼はいつもの飄々とした表情を浮かべ取り繕った。
そしてあろうことか私を見てこう言ったのだ。
「君、かわいいね。いくつ?結婚はしているの?」
時間が止まった。
頭を殴られたかのような衝撃の中、ララリィ嬢が鼻にかかったような甘えた声でそれにかぶせて言うのが聞こえた。
「もう!フリードったら、そういう不誠実に見える態度は良くないって言っているでしょ?」
「遠征先だ、問題を起こさないでくれよ、フリード」
いつものやりとりといった風に王子も楽しそうにまぜっかえす。
私に気が付かないの?
あの二人の時間は、フリードにはなかったことと同じなの?
言葉をなくし、茫然自失とする私に、フリードはおどけながら礼をして言った。
「驚かせたようで、すみません。レディ」
苦しい。
胸が張り裂けそう。
「何か・・飲み物を・・」
それだけを絞りだすように言うと私はその場から逃げだした。
「ほら、逃げちゃった。フリードのせいよ?」
背後から、かわいらしく頬を膨らませているだろう、ララリィ嬢の声が聞こえた。
ついでフリードが何か言って3人で楽しそうに笑っている声も聞こえた。
枯れ果てたと思った涙があふれてきた。
情けない、「殴ってやる」とか大きなことを言っておいて、この体たらくか。
人の出入りのないパンドリーに走り込み、みっともなくしゃくりあげて、泣いた。
いつまでも忘れられないのは私だけだった。
彼も後味の悪い思いをしているに違いないと思いたいのも私だけだった。
彼には記憶にも残らない事だったのだ。
そこまで・・・
そこまで人の気持ちを踏みにじる事ができるの?
どうして平気なままいられるの?
この世界ではよくある話。
平民の子が貴族に弄ばれて、無残に捨てられる話。
見捨てた方の彼らは後悔する?
するわけがない。彼らにとって平民はそういう存在。
私も、同じだっただけ。
バカな子。
バカな子
何を期待していたの?




