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モブの恋  作者: 相川イナホ
望まぬ邂逅
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最低な再会


 とりあえず、アマゾン領までの道程で野宿も経験していて身体も汚れているはず。

 まずは風呂にでも入ってもらい、そののち王子やそのとりまきを招いての晩餐を計画している。




 鎧を脱ぐために、歓迎の言葉を述べたあと、その場を辞した私の姿を一対の瞳がじっと見つめていたことに私は気が付かなかった。



 このような日のために用意してあったドレスに、はじめて手を通した。

髪を結い、首にはささやかな石のついた飾りをつける。

 おしろいをはたき、アイライン、頬紅と色づけていき、最後に紅を唇に乗せる。

 胸の動悸を押さえ、鏡に映った自分の顔を見る。


 鏡にうつったのは、あれから年齢を重ねた、しかし前世では充分に若いといえる年齢の女。

 瞳はあの日より染みついた憂いの色が浮かび、笑い顔もどこか寂し気に見える。


「陰気な表情・・・」


 天使のように無邪気なララリィ嬢の笑顔に比べたら、なんと華のない顔なのだろう。

 言うなれば、太陽と月、華やかな彼女の前では私はかすむ月。


 無理して微笑めば自分の痛々しさに胸がキュンと鳴く。


 一言だけ聞きたかった。できたら一言だけでも。

 「悪かった」と。

 無視し、それまでの関係を踏みにじった仕打ちを。

 信頼を屑箱に捨てたその行為を謝ってほしかった。


 いや、彼の後ろめたい気持ちを感じられるだけでもよかった。

 そしたら私は思い切りビンタをして・・・・。


 慣れてるはず、私のように諦めの悪い、物わかりの悪い女だってきっといたはず。

 他の人の面前で頬を女に叩かれ、彼ならば、肩をすくめ、それだけで周囲も事情を察して


 それで終わり。


 それで、私はきっと終われる。

 今度こそ、フリードとは関係のない道を歩いていける。

 夢にうなされる事もなくなるだろう。


 紅の色を、いつもよりほんの少し濃く乗せ、私は、気をひきしめた。

 今日を逃したら、フリードと対決する機会はきっとないだろう。


 さぁ出陣だ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ようこそ、アマゾン領へ、」


 モブのセリフそのままに、列席者に挨拶をしてまわる。

 兄による歓迎のあいさつと乾杯のあと、静かに晩餐ははじまった。


 我が領では楽隊なぞないので、義姉のつま弾く弦楽器の調べだけが歓談の場に流れる。


 時々、提供した料理や飲み物について質問がされるので、それに返事を返す。

 席から席へ、主催家の者として、料理や飲み物に過不足がないかさりげなくチェックを入れてまわる。


 フリードも探しているのだが、王子の席の傍に彼の分の席はあるのに姿はない。

 一体、彼はどこにいるのだろうか。



 晩餐の席には人気パーティの冒険者グループも参加している。

 騎士とは明らかに風体の違う人種が混じっているのでそれとわかる。

 どこか見覚えがあるような気がするのは、その姿が描かれたカードを見たことがあるからだろうか。

 何しろこのアマゾン領でも、カード集めがちょっとしたブームになっているくらいなのだから。

 もちろん、ユリウスも兄の子ども達も冒険者カードを集めるのが好きだ。


 ついぼんやりと、彼らの姿を目で追っているとライオネル王子に声をかけられた。


「今日は『フロル』は来ていないのか」


 そう聞かれれば、苦笑いして返す他ない。


「フロルの髪はそなたと同じ銀であったな」


 王子の言葉にギクリとする。

 だが、王子の視線は我が兄、レーフェンに向けられている。


「・・・・アマゾン家ゆかりのものか?」


 肯定も否定もできず、曖昧に微笑んでいると、一人で納得したかのようにライオネル王子は頷く。


「うむ。詮索は無粋であったな、忘れてくれ」


 ・・・・普通はそう思うものだと、改めて認識させられてさらに苦笑が浮かぶ。


 誰も目の前の女が、剣を振り回しているだなんて思わないであろう。

 ふと、王子の横を見れば、ララリィ嬢が兄を見つめる目が、なんというか胸騒ぎのするような目つきだ。

 わが兄は既婚者であるし、アマゾン領の大事な領主なので、どうかそのとりまきに加えたいだとか思ってくれないように祈る。


 ララリィ嬢の視線を追って、兄のレーフェンを見る。

 改めて見比べてみても、兄は美丈夫であり、他の側近と見比べてみても見劣りがしない。

 それどころか、一家いや一領を支える大黒柱としての責任を全うしているという自信から、彼らより頼もしく見える。


 ふと誇らしげな気持ちが浮かび笑みがもれる。



「殿下、遅れました」


 その時、背後から忘れてたくても忘れらない、あの声がかけられた。

 さっと緊張し、背筋がのびる。


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