アマゾン城
気を取り直し、その集団の前に進み出る。
ウチの領だって負けてないんだから。
「お迎えにまいりました。」
短くそれだけ告げると、兜を脱いで優雅に見えるように礼をする。
フリードは気がついただろうか。
胸をそらしツンとした表情を取り繕って、目的の男を目の端で見るが、反応がない。
鎧を着ているからだろうか、だからわからないのか?
「アマゾン男爵の妹であったな。」
代わりにというか当然というか、さぁっと騎士達が左右に割れて、第二王子のライオネルが進み出た。
今回は馬車に乗らず、騎乗しての行軍だったようだ。
「馬上のまま、失礼いたします」
「問題ない。このような場合では常である。出迎えご苦労」
いささか拍子抜けをしたが、兜をかぶりなおし、誘導のため馬の首のきびすを返す。
心の内は不安でいっぱいだった。
(まさか、本当に忘れているとか・・・ないよね)
その、まさかであったとは、その時の私には思いもつかなかった。
兄が控えている場所まで案内するのが私の役目だ。
兄は王子達が近づくと領軍から進み出て、ライオネル王子の横に馬を並べた。
馬上で情報交換をしながら進むのである。
私はペンネとパスタと共に領軍を率いて、アマゾン城に向かった。
そう!アマゾン城!
この世界の築城のノウハウと私の前世の知識を合体させた渾身の作!
石垣に基礎に、城の周囲は堀で3重に囲い、ねずみ返しや天守閣を備えた和洋折衷の外観の荘厳な建築になった。
何のための前世知識か?である。
「開城!」
パスタの声に応じて、城門が開かれる。
その声はどこかほこらしげですらある。
門はその表面を固い素材の木材で美しく彩色され、装飾を施されている普通のものに見えるが、その内側は鉄筋を格子状に張り巡らせてあり、ちょっとやそっとじゃ破れない。
開閉は引き戸式で、試行錯誤の上キャスターをつけたのでスムーズだ。
開けられた城門より、城壁で隠されていた外観があらわになり、ため息がもれた。
「どこの様式か?」
「妹のアイデアでして。さぁどこの物なのでしょうか、ウチとすれば使えればいいかなと」
「興味深い」
そんな会話がされているのを耳で拾い、ほくそえむ。
二の門が開けられれば、ずらっとならぶ我が領の家臣団。
目立つのは旧ソルドレイン領から徴用した獣人の騎士であろう。
熊などの獣人は2メートルを優に超す背丈で体格もよく、そろいの胸当てにそろいの兜で迫力がある。
羊や山羊の獣人も熊ほどではないにしろ立派な角も凛々しくほこらしげに立っている。
この場では見えないが、空にはドラゴンを操るドラゴニュート達も旋回しつつ待機している。
「どうぞこちらへ」
義姉と家臣団と共に出迎えたのは絶世の美女の狐や狸の獣人である。
彼女達に私は、そろって唐風のゆったりとした上衣とズボンの色鮮やかなそろいのおしきせを着せ、城の使用人をやってもらっている。
これは城下でも流行りつつあって、アマゾン領では女性でもズボンをはく。
上にゆったりとした唐風の上衣を羽織って、きれいな布帯で結んだり、チュニック風の上衣を着たりする。
これは動きやすいと評判だ。
ズボンを履いていると、用を足す時不便だが、アマゾン城下では上下水道が整っている。
女性が安心して用を足せる作りになっているのだ。
「国内にいるのに、外国にいるかのようだ」
王子も喜んでくれたようだ。
いや別にアマゾン城を観光名所にしたいわけではないのだけれども。
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今回は王子のとりまきの貴族が参加しているため、彼らが連れてきた兵もあって人数が多い。
城内には王子直属の親衛隊と貴族のみ留め、残りは城外の宿を手配してある。
どの宿も、建築されたばかりで新しいので、きっと満足してもらえるだろう。
そして前回の反省を含め、城内に泊まる騎士達の場所は、普段は鍛錬施設として使用している場所に、木の床に畳を引きつめ、仮の宿泊施設としてある。
前は、保育室に使っていたホールの床に、かき集めたラグを引き、薄っぺらい布団を敷いただけだったため寝心地は悪かったろうが、今回は違う。
気持ちよく休めるだろうと思う。
もちろん有事の際には、ここで兵が寝起きしたり、救護所になったりするそんな仕掛けもしてある。
前回はララリィ侯爵令嬢だけが入浴できたお風呂だが、連れてきた騎士も順番に入れば全員が入れる浴場も作った。
もちろん貴人用のお風呂は別にあるので、アマゾン家の人々と王族、貴族が一緒のお風呂に入るわけではない。
「たった、2年でこんなにも・・・」
王子は驚いていたが、これは併合した旧ソルドレイン領から引き抜いた、役人や技術者や獣人の働きが大きい。
王直轄領だったため人材も質がよく多岐にわたり、獣人の身体能力の高さも建築分野で多いに助けになった。
もちろん、旧アマゾン領家臣団の滅私奉公ぶりもすごかった。
社畜ならぬ領畜だ。




