後悔しかない出会い
ある日、クルー伯爵令嬢のサロンにレイチェルとマリアンと向かっているとき、
友人であるマリアンはこう切り出した。
「ファンクラブを解散させるにはどうしたらいいのかしら」
自身の兄が人気者で、ファンクラブがあるため、マリアン・ローリエ伯爵令嬢は下級生の身でありながら、ファンクラブの運営に口出しをできる立場にいたが、さすがにそこまでの要求は運営側に言えなかったらしい。
「どうかなさったの?何かあったの?」
わたしとレイチェルは驚いてマリアンを見た。
「いきすぎた方がいらっしゃって・・・。風紀的にもどうかと思うの」
マリアンが言うには、一部過激なファンが、兄であるアドニス様の寮の部屋に忍び込み、寝所に潜り込んでいたとのこと。
「他の方のファンクラブでも、そういう事があると聞くし、中には・・・」
マリアンは口の中で後半部分をぼかして言った。
それはわたし達の耳にも届いていた。
眉をひそめるべき行為として。
「憧れの人に何とかして近づきたいという気持ちはわかるけど、そういう行為に出るのは違うと思うわよね」
マリアンの話しを受けて、私たちは信頼する「おねぇさま」であるクルー伯爵令嬢に相談した。
クルー伯爵令嬢は腹黒モノクル、宰相ご子息のフィリペ様の婚約者である。
「フィリペ様に相談してみるわ」
そう請け負ってくれ、何と次のサロンにはフィリペ様ご本人とマリアンの兄であるアドニス様、それに熱血剣士こと、ジェイ・パットン様が姿を現して、わたし達を驚かせた。
「だいたいの手は打ったけど、隠れてそういう事をされたらお手上げだね。
もう当人たちの品位の問題としか言いようがない」
「ボクもフィリペ様と一緒でああいうことをされるのは嫌だな。だけど誰とは言えないけど、ファンクラブの女の子達をそういう風に扱う人もいるって聞いているよ」
「なげかわしい事だよな」
「君たちはファンクラブを抜けた方がいい」
「ボクの妹や親しい君たちがああいった人たちと一緒に見られるのは我慢できないな」
「一部の人の行き過ぎた行動で変なイメージがついてしまったけど、ファンクラブには個人の突出した行動を抑制する働きもある。今回した処置はその部分を強化したから、これからは今までみたいな無軌道な事はないよ」
フィリペ様はそう言ったけれど、わたしたちは結局マリアンと共にファンクラブから抜けた。
そのせいで、チャラ騎士の情報が入ってこなくなり、あんな事になってしまうのだけど。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それからしばらくして、わたしはストーカー被害にあい、サロンにも出入りできなくなっていた。
かいつまんで話すと、サロンに出入りしていた他のご令嬢の婚約者がわたしにつきまとうようになって、そのご令嬢がわたしの事を「泥棒猫」だの「人のものを取った」のだの騒ぐので、事態が収まるまで顔を出さないようにお姉さま方に言われたのだ。
「ごめんなさいね。あなたが悪いんじゃないのはわかっているのだけど」
そうは言われたけれど割り切れるものではなかった。
サロンに出かけるレイチェルとは別行動になって、わたしは単独行動をとることが多くなった。
一人で時間をつぶさなくてはならなくなったわたしは図書室に出入りすることが多くなった。
そんな日の午後、図書室で本を読んでいたわたしにそっけなく声をかける人があった。
「隣、いい?」
チャラ騎士、フリード・ラズリー(敬称略、てか様とかすらつけたくない)との
後悔しかない出会いの始りだった。