砂上の城
ファンファーレが鳴り響き、城門が開けられた。
バルコニーに父王と出れば、城下が一望できる。
城門から続く沿道に並ぶ人・・人、人。
(・・・・何だ、この騒ぎは)
旅立ちはひっそりと行われるはずだった。
何しろ王家が借りっぱなしだった石を返しにいくのだ。
派手な演出は恥ずかしすぎるというものだ。
だが当日になって見れば、このバカげた騒ぎは何だ。
先の戦争の出陣の時だってこんなに派手じゃなかったぞ。
まるで魔王討伐に出る勇者一行を見送る図じゃないか。
城門のところに派手な女性が出てきて、わが弟ライオネルと抱擁をかわす。
わが麗しき父王の側室殿だ。
(上記表現は吾輩流の皮肉だ。)
権力志向の欲望まみれババア、と本当は罵りたい。
吾輩を廃嫡し、ライオネルを次代王にしたいとの野望がスケスケであざといババ・・
失礼、女性だ。
ピンクの髪の女性とも抱擁し、別れを惜しむ。
おいおいおい・・・旅に出る恰好じゃないだろ・・・・ピンクの。
思わず心のうちで突っ込む。
ライオネルが合図をし、城にむけてその配下の兵士が騎士の礼をとると、 わぁぁぁっと歓声があがって、花びらがまかれた。
くそう、やられた。
夕べのうちに吾輩や臣下と父の間で交わされた決め事は違えられたのだ。
じろりと我が父を見やれば、どこか目が泳いでいて落ち着きがない。
「どういう事でしょうか?」
口元がひきつったのがわかる。
「どういうことも何もアレの母が泣いて頼むのだ。無碍にはできまい。それにライオネルには、王位の継承をおりてもらうかもしれぬのだ。代わりの褒美ぐらいはよいではないか?」
父は吾輩の声に耐性があるので平気だが、後ろに控える侍女のうち何人かが吾輩の声を直に聞いてしまい、腰くだけになって座り込んだ。すまぬ。
侍女の事はいい。今は父王の事だ
父王は耄碌してきたのではあるまいか?
政事でも、前言を簡単に撤回したり、臣下の言うことを鵜呑みにしたり、失策が続いている。
止められなかった吾輩も力不足だったのだが、先の粛清は酷いものだった。
いくらピンク髪の女に盛られた毒が、我が母に盛られた毒と同じだったとはいえ、ろくな調査もしないで、クルー伯爵家とフィレンチェ伯爵家に引導を渡し、役職をとりあげたのだ。
咎は親類縁者にもおよび、おかげで宮廷での勢力図が大きく塗り替わった。
急な交代劇で、政事の現場は混乱し、諸外国に付け入る隙を与えてしまった。
「国民には娯楽も必要であろう?集まった民の顔を見てみろ。長き混迷の時代の終わりを喜んでいるかのようではないか。」
いや、その混迷をもたらしたのは、今、馬上で人々の歓声を浴びている我が弟とそのとりまき達本人ではないか?
言うなれば、これは自作自演・・・。
正気の沙汰とはいえぬ。
いくら、良き政策をたてても、父王は簡単に決定をひっくりかえしてくれる。
吾輩が押さえているが、不平不満がくすぶっている。
この国、大丈夫か?
問題を起こす息子と、その息子の尻を喜んで拭いてまわる父親。
世間ではよく聞く話かもしれないが、王族内ではしゃれにならぬ。
まだ、父親である王が拭けるうちはいい・・・だが、その境界線はすでに過ぎているのではないか?
今この場で、一番生国を見捨てて逃げ出したい気持ちになっているのが、現王の嫡男たる吾輩かもしれないとは、とんだ笑えぬジョークではないか。
暗澹たる気持ちを隠し、民の声援に応えるために、バルコニーから手を振った。




