吾輩に勝てると思うなよ
「というわけで、兄上が祭司長を務めておられる神殿の許可をいただきたいのです」
ある日の午後、弟はとりまきを連れて、わが父と吾輩の前に現れた。
ふむ、あの連れているピンクの髪の娘が噂の・・・。
なんというか未熟だ。頭の中にも砂糖が入っているかのように考えが甘い。
なんだ、その皆でがんばればきっと出来る!みたいな能天気な発言は。
吾輩、不快指数がただあがり、自然と眉間にしわがよる。
(そのバカっぽいのに本当に神託がおりたのか?)
吾輩の言葉に耳を傾けていた侍従が、吾輩の言葉を代わりに発言する。
「『神託は本当であったのであろうか?神殿からは何も報告があがってないが』とフェルナンド様はおっしゃっています。」
人を通して、吾輩の言葉を中継してもらうのには訳がある。
吾輩の「声」には魅了が含まれている。生まれつきなものなので耐性のあるものにしか「声」を聴かせられない。
おかげで吾輩の二つ名というか仇名は「ムッツリ」だ。
解せぬ。
「神殿は『石』の存在を秘匿してきました。聖遺物として信仰を集める手段としての『石』を手放す気はありません」
弟のライオネルが言っているのは、例の負の魔力を浄化したという、王家の先祖が持ち込んだ石のことだ。
ライオネルが言うにはその「石」は元々貸し出された物であり、元の場所に返されていないことによって、世界のつなぎ目である場所の封印に問題が生じ続けていて、それが限界に達して、このところの魔物の氾濫が起きているのだという。
先祖様何やってんだよ。
借りたもん返せよ。
借りパクってんだよ、それ。
まぁ、今は吾輩が祭司長なのである。
改革を昨年行ったので、だいぶ教会内も風通しがよい。
これはチャンスかもしれない。
やっかいものを外へ放り出すのだ。
ありがたいことに自分から石を使っての封印を執り行うために旅に出る気だ。
(さっさと行ってこい、バカどもが。まずは先祖の不始末のケツを王家代表としてふいてこい。できたらお前達のやらかした後始末もしてほしいところだがな)
「『フェルナンド様は、『祭司長として教会側と話合う用意がある』とおっしゃっております。『結果、石の返却には問題をきたさないであろう』との事です。
弟は満足げに笑った。
ふん。去年の改革で吾輩が教会を掌握していることは折りこみ済みだろうに。
「ありがとうございます。お兄様!」
横の侯爵令嬢が口をはさんだ。
弟と婚約が整ったとは聞いたが、まだこのような場で発言を赦されるような身分ではない。
調子に乗りくさって。
吾輩はゆっくりと立ち上がって、令嬢の傍までゆっくり歩いた。
顔をのぞきこみつつその耳に囁いてやる。
「ララリィ侯爵令嬢であったな。弟を助け、必ず目的を達せよ」
(弟がバカしないようにきちんと見張れ、お前の役割はそれ以上でもそれ以下でもない、奢るなよ)
ふん、吾輩の本意が読み取れるか?
勘違い女が。
近くに行ってわかった。
この令嬢も「魅了体質だ」
自分の体質を利用してバカな男どもをふりまわすのは、さぞ楽しかっただろうよ。
だが、吾輩の魅了には勝てないようだがな。
「はい・・・かならず」
腰をくねらせて令嬢は赤くなった。
ふっふっふっふふ
吾輩の声は腰にくるだろう?
吾輩に勝てると思うな。
王家をなめるなよ。




