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モブの恋  作者: 相川イナホ
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胃袋もつかまれています


「美味しい~~」


久しぶりのガスパの料理だ。

味わって堪能していると、


「おかわりっ!」


周囲はすでに2杯目に突入していた。


「ゆっくり食べればいいのに」


熟成させた沼ワニの肉は、軽く焦げ目をつけて炙られただけなのに淡泊なようで深みのある旨みが舌を楽しませ、館の女衆がどんなに頑張っても泥くさくなってしまった川魚も、たくさんの野菜や香草と一緒にとろみをつけられた餡と一緒に口に入れた瞬間に、野性味ある力強いパンチのある味となって立ち上がる。


またスープが絶品で、飲めば飲むほど食欲を刺激されるというか。


料理のできる男子っていいよねぇ~。

私はガスパが料理をする姿も好きだ。


冒険者として活動する時、仲間を守るために揮われるその腕が、鍋やフライパンを持っても逞しく動き、五感をすべて使って調理する様は真剣で凛々しくうっとりするくらい。


調味料の量を見切ったり、食材の温度や火の通り具合のどんなささいな変化も見逃さない真剣なまなざし、すまされた耳。


盛り付け時に添えられた繊細な手の動きはもう悶絶ものだ・・・と私だけが思っている。


「もう少しだ。待て」


ガスパは私の視線に気が付いて言った。


彼が今作っているのはカスタードクリームだ。

 王都で購入してきた牛乳や卵、それに砂糖を惜しみなく使う。


 鍋の中のそれを確かめるように、ひと混ぜしてから火からおろすと魔力で冷やす。

 今度は焼いてあったワッフルを手にとって果物のジャムを塗る。

 それをいくつか用意すると今度は、真ん中にさきほどのカスタードクリームを挟んで皿に並べた。


 飾りに上から、色のきれいな果物のソースを垂らし、粉砂糖をふるって香りのよい葉を飾って盛り付け終わる。


 彼はそれを私の前に置いた。


 「そんなに待ち遠しかったか?」


 笑顔が私のハートを打ち抜きます。


 いえ、実はあなたに見とれていたんです。

 恰好よすぎます、ガスパ。


「いただきます」


 目にはガスパ、口にはワッフル。



 ん~~~~~幸せ。



 あ、ユリウスの分、残しておいてあげなきゃ。

 と思ったら、すでに用意してありました。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「・・・・・と、言うことがあったのよ」


 商人とニコルは帰り、ジルベールは見た目がアレなドラゴニュートだけどお子ちゃまなのでユリウスの隣で寝始め、ダンは大人だけれど、酔って眠ってしまったので、私はネリーとガスパ相手に、第二王子ライオネルとララリィ嬢の視察という名の旅行について話しというか愚痴を言っていた。


「館中に残っている食材をかき集めて何とか対応したんだけど、先触れはないし・・本当にもう」


「それは・・・あたしもちょっとどうかと思うわ。こっちが大変なのは知っているでしょうにね」


 ネリーはいつでも私の味方だ。


「そうだな。だが、王子は苦労を分け合う・・・、そうだな「同じ釜の飯を食う」気持ちだったかもしれないな。戦場ではよくやるやり方だ。気持ちをひとつにして奮起するようにな。王子のは、拙いやり方だとしか言えないが」


 ガスパに言われてみて気が付いた。

 たしかに薄い粥をすするわが領の人民の横で王都より持ち運んできたご馳走を食べられていたら、なんかモヤっとしたかもしれない。


「それにしても、もう少しやり方があったと思うが。第二王子はそういう「味方」に恵まれていないようだな。」


本来、王子を助ける力になるべき友人達が皆「恋のライバル」になってしまったのである。

足を引っ張る事はしないまでも、積極的に盛り立てていこうという気持ちにはなりにくいかもしれない。


「王都での噂によると、まだ第二王子の方が第一王子より、話しがわかる「庶民派」だそうだぞ」


まぁ、それは、元は市井の娘であったララリィ嬢とお付き合いしているから、かな。


「王子自身がまだ若くて、いろいろ未熟なのはわかるが。こういう時に王子の行動を咎めたり、修正したりする補佐役がいないのはまずいな」


「一人、腹がたつ侍従がついていたけどね。美男の」


「何か、されたのか?」


 ガスパの表情が心配そうになる。


「殴りにいこうか?」


 ネリーは気が早すぎである。


「ちょっと態度が散漫そうな人でね、女はすべて俺に惚れてるだろ?って思ってそうな嫌な奴。・・・ちょっと言い過ぎかな。自分の美貌が武器になるって知っていてそれを使うのを躊躇わないような嫌味な男・・・ああ、両方ともヒドイ言い方ね。私ったら」


 言っていて、自分の評価のひどさに笑えた。


 くすくす笑っているとネリーが私の髪を撫でた。


「あなたらしいけど。ねぇフローラ、恋をしなさい。まだあなたの人生、枯れるほどいってないわ。男ってねぇ、女に比べりゃ単純でバカな生き物なのよ。」


 ネリーの言っている意味もわかる。

 どっかで折り合わなきゃ、いつまでも私の異性に対する評価は厳しいだけのものだ。


 でもね、あの時、今の私じゃない”フローラ”は死んでしまったの。


 私は赦せない、まだ疑う事も知らない幼い魂を悲しみで粉々に砕いて殺した

あの男を。

 


 黙ってしまった私の頭をネリーは優しくなで続ける。


 「もっと自分の幸せを考えていいんだよ」


 まだそんな気にならない。私の恋はキチンと終わりを迎えていないのだ。


 「今は、ユリウスやここの領のことを考えたり、みんなといることが幸せ。」


 それは本心だ。

 成長していくユリウスや、だんだんと立ち直っていく領の様子の事を考えると心が満たされる。


 それに私には「赤の牙団」という大切な仲間もいる。

 館には、ちょっと腹黒いけど尊敬できる兄やおおらかな義姉、頼りになる爺、

たくましい家臣達がいる。


 それに何よりも愛しい私の天使という存在。

 

 私の幸せはここにある。

 


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「フローラも、これからもっと大変になるねぇ。新しい領の事もそうだけど。

それから・・・・ねぇ・・・あの子達どうなるの?」


 ネリーが言うのは、今回奴隷として連れてこられた元野盗たちの中に混ざっていた少年達である。


 かれらこそ真に「幸せ」から取り残されてしまった人々ではないだろうか。


 男に捨てられたぐらい何よ・・・・とは思えない自分の気持ちの思うようにならない様に、内心ため息をつきつつ、私ができる事で彼らのためになる事は何だろうかと、思考をめぐらせた。




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