大人の時間?
「母上っ」
ユリウスとは2日ぶりである。ずっとダンが家でかくまっていてくれたのだ。
「ユリウスっ」
抱きついてくる我が子をヒシッと抱きしめる。
「よい子にしていましたか?」
「ドラゴンに乗せてもらった!」
「それは良かったですね。ちゃんとジルベールの言うことを守れましたか?」
「うんっ」
満面の笑顔でそう答えるユリウス。
離れていた分、よけい愛しい。
「ネリーとガスパに王都土産もらったよ!」
ほらこれ!と見せてくれたのはアマゾン領では食べることのできない飴、
絵本、人形。ネリーもガスパもユリウスに甘い。
「ほら、ママにも!」
なんとネリーとガスパは私にもお土産を用意してくれていた。
「こんな立派な剣・・・」
「時間があったんで王都近くのダンジョンに潜ってきたら、宝箱からドロップしたんだ。軽くて、女性用みたいだから、フローラが使うのにちょうどいいと思って」
剣はドロップ品だろうが、鞘は作ってくれたのだろう、王都にある有名処の店の印がある。
よく見れば、状態復帰の刻印もある。
「なぁに、こちらで狩っていった魔物の素材が高く売れたんでな。気にするな」
鞘から抜いてみる。
青い光りが周囲に溢れだす。
「・・・・・・・・・・・・」
あれ、これ聖剣ぽくない?
属性、聖だよ?
聖剣だよね?
「鞘がないと眩しいな」
・・・・・・そういう問題だろうか。
「あ、ありがとう・・・大切に使うね」
巷に聖属性のものがないわけではない。でも珍しいものはたしかなのだ。
これ何かのフラグじゃないよね?
ちょっと不安を覚えたが、私はユリウスを抱きしめる事で気をとりなおした。
ふんふんと額のあたりの幼児独特な香りを堪能する。
はぁ、ユリウスは天使だわ~
「母上、くすぐったいです」
「ユリウスはいい匂いがするね~。母も寂しかったよ~。ずっと会いたかった」
デレッデレのこの姿は、ちょっと家臣団や兄にも見せられない。
「じゃぁ、あのお話して?」
ユリウスにせかされる。
「何のお話かな?人魚姫?ラプンツェル?鶴の恩返し?それとも桃太郎かな?」
私のお話とは前世で親しみのある和洋の民話や童話だ。
これが、ユリウスを含め、領の子ども達にウケがいい。
「垢太郎がいい!」
「渋いとこくるね~。いいこと?これは人間の垢、つまりは人間の皮膚からクローンが作れると古の日本人が後世のために示唆した話なのよ」
「なんか恰好いい!」
実際問題、はがれた垢、つまり剥離した皮膚から使えるDNAが取り出せるか?なのだが、まあいいじゃないか。夢なのだ。ロマンなのだ。
垢太郎が普通に人の親から生まれたはずである力自慢の御堂っこ太郎や石っこ太郎を凌駕する程の力持ちっていうのも、なんだか強化人間みたいじゃないか。
「・・・・・・・・・・・・・・・こうして3人の若者は長者の一番上の娘、二番目の娘、三番目の娘を嫁にもらい、両親を呼び寄せ、幸せにくらしました・・・・あら?」
身振り手振りを加えて話を終えると、ユリウスはもうすでに、コクリコクリと船を漕いでいる。
昼間、ドラゴンに乗せてもらったと言っていたし、疲れたのかな?
「眠っちゃったかい?そこに布団を敷いたから、寝かすといいよ」
「赤の牙団」の家には、ユリウス用のベットがある。もちろん私の部屋も用意されている。
普段は兄を助けるために領主館にいるが、ここに来ると素のままでいられてのびのびと過ごせる。貴重な私のオアシスだ。
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「さて、子どもは寝たし、大人の話しをしましょうか」
「近いから、ニコル。人には適度な距離が必要だと何度も言っているでしょう?」
何故かニコルと例の商人もいる。
二人とも、近い。何故か近い。
「ニコル・・・。ハイグリーンに戻されたいのかい?」
ネリーが軽く睨んで言う。
「すみませんでした。」
しゅんとするニコル。
「・・・フローラ、ガスパが腕をふるってくれたよ。食べてくだろ?」
「うれしい。もちろん」
兄の持ち帰った食材は、領民へと配給がはじまっている。
未だ手元に届いていない領民もいるだろうが、これでここでの食事のたびに罪悪感を感じることは少なくなりそうだ。
「それで、ご相談があるのですが、フローラ様」
商人が揉み手をしながら言った。
「ハイグリーンの女神の歌の第二段でも出そうっていうの?」
険のある言い方になってしまうのは仕方ないだろう?
この商人が勝手に出した歌集と私の姿絵のせいで、ハイグリーンにいるときはさんざん迷惑を被ったのだ。
ストーカー予備軍から、誘拐の危機まで一通り経験するするハメになったのだから。
「いえ、そちらもお願いしたいのですが・・・」
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「カード?」
「冒険者達に親しみを持ってもらうためにカード集を出してみたいのです。」
「過去の伝説的な冒険者、今売り出し中の実力派、など、本人を特定されない程度にぼかした絵姿をカードにして、売りたいのです」
なんだかこれにはニコルの思惑が乗っかっているような気がする。
「ぼかしたって、見る人が見ればわかるんじゃない?」
「まぁ、宣伝用にもなるものですから。もちろん現役の方には許可をとりますよ?」
たぶん「赤の騎士団のフロル」もその中に入れたいのであろう。
「ネリー達がその気ならいいけど、絶対、私の個人情報なんかのせないでよ?」
条件付きで許可をだす。
冒険者として名前が売れれば指名も取りやすくなるし、仕事も選べるようになる。
「僕はその売上げの一部を冒険者支援基金にしようと思っているんです」
ニコラが口を挟んだ。
やっぱり君が絡んでいたか。
「そうです。我々も儲けさせてもらう代わりに、冒険者の方々にお礼をしたい・・というわけでして・・・。女神の絵も、さらに儚げにしますから」
・・・・・・・・今の私は逞しいってか?
思わず眉間に皺が寄った。
まだ商売をはじめていないうちから、儲けるつもりのようだが大丈夫だろうか?
「ところで、ミューズ。さきほどのお話、本にしてもようございますか?」
子どものための絵本も売る気らしい。
なかなかと、精力的だ。
「垢太郎は好き嫌いが別れると思うけど」
「他にもいくつかお話をお持ちなのでしょう?」
うーん
ちゃっかりしている・・・・・。
まぁ私の方も私で、報酬はもらう気でいるけど。
垢太郎=こんび太郎




