君にロックオン
すったもんだの上、どうにか川魚尽くしの料理を配膳し、やんごとなき身分の方の侍従に押し付け、騎士達にはバイキング方式でふるまい、乗り切った。
意外なことに王都以外の出身の騎士達には川魚料理は人気だった。
「おふくろの味だぁ。なつかしい」
とか言うのを聞くと、どこの辺鄙な領地も食生活は案外似ているものかもしれない。
「まずいけど、うまい」
スプーンを片手にかきこむ姿は何とも言えない。
対して、王都出身の騎士達には総じて川魚は不人気で、辛うじて川魚の素揚げと苗として領民に配った残りの芋のチップスだけは売れた。
油も貴重品だけどいたしかたない。
兄が仕入れてくるのを信じながら断腸の思いで使った。
喜ばれたのはニコルが取ってきた旨茸と少量の沼ワニの肉を使って出汁をとった雑穀粥である。
これは王子が
「野趣あふれる味だ」
と絶賛していたとか。
「・・・これだけあれば一回分の炊き出しに・・・」
炊き出し担当の義姉は相当に悔しがっていた。
ララリィ嬢はデザートをおかわりしていた。
例の熟した柿の実を餡にしていれたクレープモドキである。
案の定、川魚料理は残してあった。
これすら食べることができない日だってわが領では頻繁にあるのに。
「久しぶりに暖かな火の通ったものを食した。うまかったぞ」
「お口にあいましたかどうか・・・」
「乏しい材料でよくこれだけの心づくしを用意してくれた。礼をいう」
家臣もアマゾン家の者も、いつもの倍に薄めた粥しか口にいれてませんがね・・。
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けっきょく兄と我がアマゾン家臣団は王子一行の到着から半日ほど遅れて領主館についた。
出かける時より馬車が5台ほど増えている。
さらに見覚えのある人間が乗った馬車がもう1台。
「ミューズ!」
ああ、あの商人か。
私の絵姿と楽譜と歌詞を勝手に売りさばいていたハイグリーンの商人であった。
「どうしてもと頼まれて連れてきてしまった」
ネリーが申し訳なさそうに言うが、様子から見ると、新しい曲のネタが欲しいのであろう。
「見てわかるように、ちょっとやんごとなき方々がお泊りになるので、この騒ぎが落ち着いたら話を聞くわ」
宿屋を世話して・・・と思ったが、わが領には宿屋などない事に思い立った。
いや、魔物の氾濫まではあったのだが、現在はしめている。
客に出すような食糧が用意できないのと、魔物の氾濫以降の困窮ぶりから旅の商人すら寄り付かなくなっていたからだ。
ふと傍らを見るとニコルがいるのに気が付いた。
「ギルドに泊められる?」
「ギルド内は無理ですが、僕の家なら。・・・この人数なら大丈夫でしょう」
「・・・ありがたい。馬車内で寝るのは、もうこりごりだと思っていたのだ。助かる」
「そのかわり、沼ワニの革をはぐの、手伝ってもらいますよ」
商人は苦笑していたが、こころよく応じた。
「なんなら、買い取るが?」
「適性な価格でお願いしますよ」
「・・・しっかりしてるなぁ」
暗に負けませんよ。とニコルが言う。
アマゾン領ではニコルが来るまで、言い値で買いたたかれていたのだ。
「では私達も、失礼するよ。さすがに今回の旅は疲れた」
ネリーもガスパも孤児達が暮らす宿舎の近くに家を与えられている。
「あ、ネリーさん。お風呂入るなら、家に寄っていきます?」
領主館にもお風呂はないのだが、一介のギルド職員であるニコルの家には、何故かお風呂があるのだ。
「赤の牙団」はしばしば、そのお世話になっている。私以外は。
身の危険を感じるので私は利用したことがない。
簡易式の浴槽をニコルがもっているのを知っているのはそういう理由だからだ。
「王都で仕入れた酒がある。久しぶりに飲もうか」
ガスパが言い、ネリーが頷く。
「そういう事なら、ダンとジルベールにも言付けを頼もうか」
「いいなぁ。私もそっちに混じりたい」
あのお気楽王子御一行のお世話はガリガリと精神を削っていく。
ハイグリーンでの馴染みとしゃべっていた方がきっと楽しいだろう。
ネリーは苦笑し「気持ちはわかる。終わったら慰労会やろうね」
と励ましてくれた。
ふと去りかけて、ふとガスパが振り向く。
「なぁ、フローラは何も感じないか?あの侯爵令嬢?だっけ?、近くにいくと、こう背筋がブルっとするんだが・・・。こんな事を言うと不敬罪だろうが・・・どうにも気配がな」
ウンそれロックオンされてるせいだと思う。




