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モブの恋  作者: 相川イナホ
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美男の侍従は好きですか?


「・・・・・・・・・・・・・・雑草の実ですら食べているのか」


 俺様王子のライオネルは、私が干していた粟や稗を見て呟いた。


「お、お恥ずかしいものをお見せして・・」


 慌てて片づけようとするのを止められる。


「話に聞いて想像していたより、だいぶ困窮しているようだな。父上にはこの事をちゃんと報告するつもりだ。大臣達にも嘘や誇張ではないという事を強調しておこう」


 ・・・・元々、ここまで酷い状態に領が陥ったのは、貴男達の恋の鞘当てのせいなんですが。

 半眼の仏頂面になりそうなのを気力で押し留め、礼を述べる。


「ありがたき幸せに存じます」


「我が王家の臣下とその臣民とをここまで追い詰めてしまっていたのかと思うと忸怩たる思いがある。安心しろ、俺が何とかする」


 肩に手を置き、いかにも親身になっている態を装っているが、このところの兄弟喧嘩によって、臣下からの求心力が低下している事を憂慮してのパフォーマンスの一種に違いない。

 でなけりゃ、こんな僻地までくるものか。


 しかも女連れ。

 見舞いにきたという気があるのかどうか。


 第二王子のライオネルとララリィ侯爵令嬢は婚約が調ったとの話だ。

 視察のついでに婚約旅行なのか、としか思えない、呆れて物も言えない。


「狭いところですが、どうぞ・・・中へ」


 舌打ちをしたいところだが、淑女たるもの我慢の見せどころだ。

 作り笑顔を浮かべ視察団という名のお気楽男達を館へ案内する。





 ああ、アグリーベア、フルボッコにしたい。沼ワニも可。




 (我慢ですよ、フローラさん!笑顔、笑顔です!)


 義姉の声なき応援を感じつつ、私はがんばった!



 園の子ども達を急いで保護者達に引き取ってもらって、孤児達は宿舎へ戻し、  ホールを家臣含むアマゾン家総動員して掃除して、騎士達全員を収容できる場所を空けた。


 子ども達が普段昼寝に使っている布団がこういう時に役にたつとは・・・。

 ペラッペラだけどないよりマシという程度だが。

 わが領民のほとんどは未だ、麦わらベットで寝ているけどね・・・。


 王子御一行はゲストルームへお通しした。


 旅装を解き、すっきりしてもらおうと湯を家臣に運んでもらうが・・・。


「あの、フローラお嬢様」


「どうかした?何か粗相でもあったかしら?」


 実際問題、貧乏騎士爵家の最上級のもてなしでも、王族相手ではそつだらけの粗相だらけなのであろうが。


「はっきり申されは、なさらないのですが・・・」


 どうもララリィ侯爵令嬢がお風呂を所望しているらしい。




 ・・・・・こんな田舎に風呂なんかあるか!


 みんなタライに水汲んで拭いてるんだよ!


 私は自分の目がはっきりと半眼になったのを自覚した。


 「私が聞いてまいりましょう。・・・・義姉上、メインディッシュは川魚でよろしいですよね。幸い、今日たくさん採れましたし」


 沼ワニは革を売るためにニコルのギルドで査定中だ。

 その肉は日を置いて熟成した方が美味しいので、すぐには食用にする気はもともとなかった。


 先触れはこんな時に得に必要なのだ。

 来客を受け入れる方にも準備というのは必要なものなのに。


「そうね。領のありままの姿を見にいらしたのですものね」


 あの兄の妻をやっているということはなかなか通じるものがあるらしい。

 義姉の中に兄と同じ種類の黒いものを見た気がする。


 とはいえ、川魚だって泥くさいが領民にはごちそうなのだ。


 昼には遅い時間なのだが、騎士達の様子を見ても昼を取ってきた様子もない、とりあえず昼食を出そうと、館では義姉を含め、家臣団の妻たちが厨房を準備のため右往左往している。



 私は掛けていたエプロンをはずすと、サっと髪をなでつけ、客室の前に立った。


 ノックをする。


 客室の前室には、あの美男の侍従が立っていて、私の来訪を主人に伝えに入っていった。


 待たされる事10分くらい。

 入室を赦された。


「失礼いたします。フローラでございます」


 礼をとって顔をあげると、何故だか頬を赤く染めているララリィ嬢。

 さっと視線を走らせれば、ズボンの下の王子のあらぬところが・・・。


 

 あらやだ、スタンディングフォーメーションじゃないですか。




 ああ、お察し。


 伏し目がちに、気が付かなかったフリを装いつつ、尋ねる。


「何か、ご要望のものがあったら何なりとおっしゃって下さいませ。できる限り用意させていただきますので・・」


「あの、あのね。こんな大変な時に、こんな事を頼むのはどうかと思うのだけれども・・・お湯なら沸かすだけだから、そんなに迷惑をかけないと思うの。だからもう少し、お湯の量が欲しいのだけれども、出来たら身体を浸すぐらいに・・・」



(お風呂に入りたいなぁ。チラッチラッ)



 ララリィ嬢の態度はわかりやすかった。


「・・・・ご用意させていただきます。暫くお時間を下さいませ。」


 毒を吐きたくなるのを必死でこらえ、なんとか表情を変えずに部屋を下がった。


 あんの、お気楽馬鹿共がっ!そのお湯をわかすのも水を汲んでくるのも、こんな田舎じゃ大変なんだよっ!人手がないのもそうだけど、だったら先触れを出しておきなさいよ・・・。







「ニコルに頼んで、簡易式の浴槽を借りてきて」


 私は疲れた表情で家臣に頼んだのだった。






 「あなたに望まれたのなら、たとえ火の中、水の中・・」

 「ニコル、浴槽を借りただけだから。ありがとう、助かったわ。」


 ニコルは沼ワニの革と身をはがす作業の途中だったようだが、話を聞いてすぐにかけつけてくれた。例の魔法収納の背負子を持って。


 「どちらに設置しましょうか?」

 「義姉上にお聞きして?お湯を抜く時のことも考えなくてはいけないから」


 やたらの場所に設置して、お湯がこぼれたりしたら床が腐る。


「将来お金がたまったら、お風呂場にしようと思っていた部屋があるわ。はぁ作っておいてよかったわ。ゲストルームも、お風呂場も」


 普通のところの領主館にはあって当然のものなのだが・・・。


「では、そこにいたしましょう。義姉上、そこは排水もできるところなのですか?」

「ええ、バスタブが買えなくて使っていなかっただけだから。排水までは設計通り、利用できるはずよ」


 私達は、あたふたと来客をもてなそうとして、動き回っていたが、私はあることに気がついた。


「ねぇ、普通は被災地に視察に行くときって自前で食糧ぐらいは用意してくるものじゃない?」


 これでは、単なる旅行ではないか。


「おそらく後からくるダンナがそれを積んでくると思うんだけど」


 兄が先行させた家臣によると「ディナーはまかせろ。昼は頼んだ」

との伝言があったとのこと。


 もしかして、交渉がうまくいって荷をたくさんを乗せているので、兄は遅くなっているのだろうか。

 馬だけの問題ではなくて。


 期待で胸がはずむ。


 早く帰ってきて、荷物・・・と兄上。

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