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モブの恋  作者: 相川イナホ
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非常識な視察


 沼ワニ、川魚、果物、薬草、きのこ類、まずまずの狩りと採集の成果に、ニコルからのギルドクエストの報酬と、なかなかの成果だった。


 ニコルには悪いが、ギルドへ納品するよりも、得に食糧は領内で消費する方が優先だ。


「こんな時期ですからお気になさらず」


 私に対する態度を別にすれば、ニコルは領内の事情をよく弁えていて。しかも有能だ。

 アマゾン領の発展=ギルドの発展とよくわかっており、進んで協力もしてくれている。


 しかし、私達を含め、家臣も領民もどんなにがんばっても、近づいてくる「破綻」という事態は刻々と近づいてきているようだった。


「種芋を食べてしまったの?・・・」


 一部の領民が、大事な種芋まで食べてしまったらしい。

 今は芋の作付け時期なのに、植える芋がないという。


「まさか種麦まで食べてしまったとか・・・ないよね?」

「それはさすがに、・・・」


 今、領内ではどんな作物を作っているのだろうか、遅まきながら、家臣の案内で調べてまわる。

 痩せた領民達がもくもくと作業をしている。


「ん?」


 見れば、まるまる一個の芋を土に植えているではないか。


 前世での記憶だが、学校の「食育」教育で芋を植えた時には、もっと小さいかけらを植えたような気がするのだが・・・・。


 「我が家に保管してある種芋を出して。芽を含む塊で3個くらいに切りわけ、切り口を灰でまぶし、種芋を食べてしまったという領民に苗として分け与えて。」


 領主館で保管している種芋は、領内の種芋に病気が出た時の備えのものである。

 どのみち作付けが終われば、炊き出しの中身として領民の腹に入るものである。


 食べ物は、また私達が狩ってくるなりすればいい。

 問題の先送りだが、今、芋の作付けができないのは問題だ。

 芋は麦の収穫までの1ケ月位の領民の大事な食糧だからだ。

 次の年も芋の収穫が足らず、飢饉に苦しむのは避けなければならない。



 こんな綱渡りを兄はよく2年も耐えてきたと思う。

 本当に頭が下がる。


 家臣達は半信半疑のようだったが、芋を受け取った領民達は、それでも作付けをしたようだ。


 結果が出るのは来年の秋。

 切った芋からもちゃんと芽から葉がのびてきちんと蔓になるであろう。

 今は私だけが成功を信じているだけだが。


 種芋騒動がひと段階ついたので、私は領主館の庭に、麦の茎部分を使って作られているむしろのような物をひろげ、採ってきた米や粟、稗を干した。

 乾いたら粟や稗は持ち手の短い杵で叩いて脱穀をする。


 園の子ども達が面白がって寄ってくる。

 適当な木の棒を渡せば、一緒になって穂を叩いて手伝ってくれる。

 中には戦いごっこに発展してしまった子供達もいるが、危なくない範囲ならばやらせても問題ない。




 だから、立派な馬車が、領主館にむかってやって来ているのに直前まで気がつかなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 「あっあの紋章は・・・・」


 王家の紋章である。


 「早くホールへ。」


 同じく馬車の来訪に気が付いた家臣の妻達が子ども達を室内へ戻そうと声をあげる。

 子ども達も突然のことで領主館の庭を右往左往する。


 む、これは避難訓練をしないといけませんね。


「そのままの姿が見たいのだ。取り繕ったりせずともよい」


 騎士団を引き連れ、突然アマゾン領の領主館に現れたその青年は馬車から軽々と降りると、そう言った。


 普通、貴族の来訪には「先触れ」があるのだが。


 「で・・・殿下」


 後から一騎の馬に乗った騎士がへろへろになってたどり着いた。

 彼が先触れらしい。

 彼は、我が領の家臣であるようだ。

 見覚えのある顔である。


 先触れよりも本人が先ってどういう事よ。


 一騎で駈ける人馬より馬車の方が早いとは。

 さすが王家、いい馬を持っている・・・とそういう事になる。

 比べて、我が領の馬はひょろひょろのやせ馬だ。

 これは馬の性能差でもある。

 いずれこれも改善せねば。


「ようこそ、我が領へお越しくださいました。突然のことでお出迎えもいたしませんで申し訳ございません」


 じいが驚き、まろびつつ領主館から飛び出てきて、口上を述べる。


「よい、楽にせよ」


 ここに至ってようやく私は呆けていたのだが再起動を果たした。

 私も駆けつけ、その人の前で臣下の礼をする。

 じいと違って、淑女の礼だ。


 「お前は・・・・顔をあげよ」


 学園では王子は上級生で、直接顔を合わせた事がないから私を知っているとは思えない。

 内心ドキドキして顔をあげると、ユリウスとそっくりなロイヤルブルーの瞳が私を見下ろしていた。


 「ふむ。田舎の貴族にしては雅な娘だな。そなた名をなんと言う」

 「領主、レーフェン・アマゾンの妹、フローラと申します」


 家名はあえて言わなかった。王都での粛清騒ぎがまだ続いているとしたら、ダフマン子爵家の名前を出してはいけない気がした。


 義姉のパトリシアも子ども達を連れて姿を現した。


 「領主、レーフェンが妻、パトリシア・アマゾンと申します。殿下におかれましてはご機嫌うるわしく、ご健勝のようでお喜び申し上げます。

 辺鄙なところの上、魔物の氾濫の後でございますので、たいしたおもてなしが出来ず、大変心苦しいのですが、どうぞわが館へご逗留くださいませ。」


 いつもはポワ~ンとした人なのだが、さすが貴族。

 しめるところはちゃんとしめて見せた。


 パトリシア義姉は、甥であるキルシェと姪であるエルシーを連れている。

 ユリウスは・・・?

 はっとして、視線を彷徨わせると義姉のやさしげな瞳とぶつかった。


(大丈夫。ユリウスは隠しています)


 視線で私にそう伝えると、もう一度、淑女の礼をする。

 義姉上、グッジョブ。


 「視察で訪れた。物見遊山で来たわけではない。とはいえ心遣いはありがたく受けるとしよう・・・・」


 ここで、彼は馬車の中に優しい、糖度が高い声をかけた。


 「ララリィ、仕度はできたか?」

 「はい、ただいま」


 王子が降りたあと、馬車の扉は再び閉まっていたのだが、つき従う騎士の中の一人が踏み台を用意して地面に置き、侍従と思われる美男が扉をうやうやしく開けた。


 まず、華奢な靴の先が見えた。

 それが我が領の領主の椅子にも使われていないビロードの美しい布で張られた踏み台におかれると美しいレースとバラ色のドレスが見えた。


 その腕を美男の侍従にとられ・・・すぐにそれは王子の腕と変わったが、馬車から降りたのは、ララリィ元男爵令嬢・・・現ララリィ侯爵令嬢であった。



 女連れで視察とは・・・・



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