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モブの恋  作者: 相川イナホ
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狩り


聞こえない、聞こえない。誰が「僕のミューズ」だって?


ニヤニヤしながら顔を見てくる、ドラゴニュートのジルベールをジロリと睨む。

一見、表情に変化のないように見える彼だが、私達「赤の牙団」のメンバーならわかる、今のジルベールの表情は大変腹のたつソレだ。


「面白がってるんじゃないの」

抗議しながら軽く肘で突けば、歯をむき出して笑う。

一見凶悪なソレだが、彼らの種族にすればいい笑顔と言われるやつだ。

サムズアップまでしていやがる。


「だいたい、私はイケメンと相性が悪いんだから。ムリ!」


気をつけよう、暗い夜道とイケメンの甘い囁き。


イケメン怖いイケメン怖い


というか、私はユリウスのために生きるのだ。恋愛なんて恋愛なんて。

うらやましくなんかないんだからね。



今も、時折、胸をチクリと刺す痛み。


彼を忘れたい、浅はかだった自分を赦したい、でも想いは昇華されることもなくいつまでも胸の奥でその痛みを訴えてくる。


「好きだよ」

言葉にされたそれのなんと薄っぺらかった事か。


「好意を打ち明けられて、何故そんな風に落ち込む?」

「ジルベールは知らなくていいよ」


誰も知らなくていい、私の苦しみは私だけのもの。


「・・・たくさん狩って帰ろう。」

だから私は微笑む。

痛みに蓋をして。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


飛竜に乗った私達は上空から狩場を目指す。


 眼下を針葉樹の緑、絡まるように枝を伸ばした広葉樹の黒、草原の枯草色が凄いスピードで通りすぎる。


 騎乗できる獣の中で竜は上級種だ。

 気位の高い彼らは、自分達が仕えるに値すると判断した者しかその背に乗せたがらない。

 今も、ギルド職員ニコルを乗せたため、不機嫌なのを隠そうともしていない。

 どうみても振り落としてやろうとしているとしか思えない飛行の仕方だ。


 「荒ぶるな。」

 ジルベールがなだめるが、拗ねたように一吠え「グアッ」とないただけで改めようとはしない。

 どんなに乱暴に飛ばれてもジルベールは安定して騎乗している。

 ただ、ニコルはそうはいかず、右へ左へ、上へ下へと身体を振り回されている。


 「普通は酔う、よく平気だな」

 ジルベールが感嘆したように言うのも無理もない。

 ニコルは片手にもった紙に、領内の地図に眼下の情報を目を輝かせながら描きつけている。

「担当する地域を把握するのもギルド職員の勤めですから」

「しゃべると舌をかむ」

「う、はい」






 葉を落とした広葉樹の森は、空から見れば丸見えだ。

 陽が射して、風のあたらない、わずかな暖かな場所に生えるまだ枯れていない青い草を求めて移動する獣の群れ。


「いたぞ、ホーンガゼル、群れでいる」

「あのがけ下に追い詰めよう」


 森から北には大地が切り立っており、ホーンガゼルは登って逃げられない。

西には沼地。

 沼地にはガゼル達の天敵の沼ワニがいる。南と東から追い立てれば、群れを群れのまま追い詰めることができそうだ。


 私達は二手に別れ、ガゼルの群れを追いこんでいく。


 ところが近くに来て、崖の上に黒い岩のような塊があり、それが動いているのに気がついた。


「崖の上に何かいる」

「・・・アグリーベア。やっかいな相手だ」

「どうやら獲物を横取りする気のようね」

「飛び降りた!」


 アグリーベアは追い込まれて崖の下を右往左往するガゼルの真ん中に飛び降りた。

 

 そしてすぐその太い前足でホーンガゼルを薙ぎ払い、倒れたところに食いつく。

「おい・・・横取りはナシだ」


 舌打ちをして竜を着地させるとジルベールはその背中から飛び降りた。


「お前はそこでじっとしていろ!」


 飛竜に喧嘩を売るような魔物はそんなにいない。

 ニコルが飛竜に乗っている限りは、彼の身は安全だろう。


 「あとでニンジン、サービスしてやる、その兄ちゃんを振り落とすな」


 「グオォ」


 ちょっと鼻にかかった甘えた声をあげ、飛竜はニコルをのせ空に飛び立つ。


「わわわ、僕も、・・・」


 闘いますと続けるつもりだったらしいが舌を噛んだとみえて蹲る。


 上空を旋回していた私と私の飛龍は上空より、魔法を打つ。


 アグリーベアの属性はノーマル、だが、バーサーク状態になると魔法も物理も効果半減になる。


「やっかいな相手。だけど・・」


 炎も氷も厚い毛皮に阻まれて届いていないかのようだ。


「お腹を空かせて、待っている子ども達がいるのよっ!勝つ!」


「そういう事だ、な」

 ジルベールもハルバートをふるう。

「ヌンッ!」


 角で突っかかってくるホーンガゼルの相手を突く、斬りつける。ひっかけて倒すと大あばれしている。


「ガゼル(肉)はまかせたわよ」


 ニヤリとジルベールが凶悪な微笑みを浮かべるのを見届け、飛竜から飛びおりる。


 飛竜の吐く炎に目を庇った熊に抜き放った剣を手に斬りかかる。


 ところが奴は気配を感じ取ったのか、立ち上がってその丸太のような腕をいきなりふりまわした。


「うは!あぶなっ」


 間一髪で避け、剣を返しながら、魔法をはなつ。

 足元を凍らせ、足止めしてくれる。


「そう簡単にやらせてはくれないか」


 体勢を整え、間合いをはかる。

 熊が足止めをくらった一瞬の隙を狙って、飛竜が頭上の背後からその尾で攻撃をくらわす。


「ナイスタイミング。あとでお前にもニンジンあげるね」


 私は地面を蹴って、飛び上がる。

 目指すは両腕をついた熊の背中・・・首根っこだ。


 グルルルアアアアアアア!


 弱点の首の後ろを私の剣で貫かれ、熊は咆哮をあげた。


「さてと!くるかな。ここからが正念場・・」


 ガァァァァァアアアアッ!


 さらにひと際大きな咆哮を熊があげる。


 口からは涎をたらし、その目は真っ赤だ。


 「バーサークに入った、ジルベール!くるわよ」


 私の掛け声で、ジルベールが自分の飛龍に合図する。

 降下してきた飛竜に飛び乗ると地面から離れた。


 その間に、剣をその首に生やしたまま、熊が立ち上がった。


「ここからは持久勝負」


 私も自分の飛竜に合図をして、その背中に飛び乗る。

後ろ足で立ち上がった熊は氷によって縫い付けられていた足を地面から引き離し、前足で自分の胸を叩いた。


「ゴリラかよ・・・熊なのに」


 つい前世の知識が出てしまうのは仕方ない。ゴリラはこの世界にはいない。


 熊は咆哮をあげつつ地団駄をふむ。こいつをくらうと地面に転がることになる。

 今も地面が揺れ、生き残っていたガゼル達がバランスをくずしてたたらを踏んだり転んだりしている。


 地面から離れてしまえば、それは関係ないが、違う脅威に備えなければならない。


 熊は、私達が宙にいることに腹をたて、そのへんの木をその逞しい腕で抱きかかえる。


 メリメリメリ


「・・・・馬鹿力」

 抜いた木を両手で抱えてフルスイングしてくる。

 枝や石が飛び散り、飛竜で飛んでいる上空まで届く。


 グアァァァォォォォ


 また咆哮する。

 そしてめったやたらに腕をふりまわし、足で踏みつけ、爪をたて、牙をむき出し、暴れまわる。その間も、わたし達は休みなく攻撃をつづけ、熊の体力をそぎ落としていく。


「切れてるな」

「切れてるね」

「めっちゃ怒ってますね」

ガゼルがミンチになりそう」

「・・・・もったいない」


 「そろそろ引導を渡すか」

 ジルベールがそう言い、魔法収納にハルバートを収納する。

 そして代わりに取りだしたのは投擲用の柄の短い槍だ。


「フンッ」

 騎竜の上に立ち上がり、大きく振りかぶり、投てきした。

 槍は暴れまわる熊の背中に刺さる。


「内部から、凍りなさい」


 私も魔法を放つ。狙いは刺さったままの剣とジルベールが投てきした槍。

 魔法の出力をあげていくと刺さった刃先から、熊の身体の体温を奪っていく。やがて、そこから内部が凍り始める。


 熊の動きが目に見えて緩慢になってゆき、やがて完全に氷りついてドウ、という音とともに大地にその身を横たえる。


「被害甚大・・」


 その辺りは地形が変わってしまっていた。

 アグリーベア恐るべし。


「あ、アレは僕の魔法袋に入りますから、まかせてください」


 ニコルがそう言ってアグリーベアを引き受けてくれてくれたので、私達はホーンガゼルの残骸を拾い集める。

 昔は気分が悪くなったりしたが、今では慣れた作業だ。


「せっかくのガゼルの角が・・・バラバラ」

「値は下がりますが、この状態でも使用方法はありますから」


 ガゼルの角もニコルにまかせ、私達は目的の肉を大量に手に入れ、領主館に戻った。


「あらあら、解体しなくていいから楽だけど、これはどこの部分のお肉かしら?」

パトリシア義姉さんを悩ませることになってしまった、申し訳ない。


「天敵も狩っておかないと、バランス悪くなるかな」


 私達は沼ワニ狩りを次回に計画した。


「ホーンガゼルは暫く、狩りからはずそうか?」


 痛恨の出来事であった。


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