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モブの恋  作者: 相川イナホ
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そのギルド職員、優秀につき

「ハイこれ」


水色の髪と藍色の瞳をしたその青年は、わが領主館にやってくると一通の封書を兄に見せた。


「ハイグリーン冒険者ギルド、アマゾン領分室設置許可申請書在中」


封書にはそう書かれてある。


「分室を置く土地は立地をみたいから、領内を勝手に見てまわっていいかな?そっちが場所を貸し出すのか、こっちが借地申請するかによってギルド規定で料金が違うから、気を付けてね?大家店子制だと多分そっちの負担が増えるかな。ああ、とりあえずは受付だけでも営業するけど、こっちは魔物の密度が濃いからすぐに倉庫の場所が必要になると思うんだよね。その分、広さ的に余裕が欲しいかな。でも結局は新しいギルド分室を将来的にはどうしたらいいのかビジョンを決めるのはそっちだからね。僕はあくまで雇われだからそっちでイニシアチブ取ってほしいな。ああ時間ないから早く許可だけでも出してね、何しろたった一人でギルドのすべての業務をしなきゃいけないんだから、ちょっとの時間でもすごく惜しいんだ。」


息もつかずに一気にそいつは話すと初めて自己紹介をした。


「初めまして、冒険者ギルドハイグリーンアマゾン領分室、担当者として派遣されたニコル・バーニーです。よろしく」


すごい肺活量。

 現実逃避気味にそう思っても仕方ないよね?


 それに、どこかで見たことがあると思ったら、ハイグリーンの冒険者ギルドの受付のはじっこに、いつも座っていた青年ではないだろうか。


何度もいうようだが、この青年がアマゾン領に旋風を巻き起こすのだが、彼の登場に気押されて絶句していた私達には知る由もない。







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


  兄からギルド分室開業許可を受け取ると、彼はさっそく動いた。

「じゃ、場所案内して?」

「は、はい」

 私と兄がギルド設置予定地へ案内すると、彼は地面の傾きをポケットから出した定規みたいな物で図りだす。


 何がはじまるんだとワラワラと領民たちも集まってくるが、彼はあくまでマイペース。

 地面の石をどけたり穴を埋めたりしはじめた。


 暫く作業をしていたが、「こんなもんですね」と呟いたあと、背中の背負子をひょいと下ろすと小さな引出のひとつをあける。


 するとどうやって入っていたのか首を捻りたくなるような大きさの掘っ立て小屋が出てくる。

 続けて、違う引出から、さっき出した掘っ立て小屋より大き目のしっかりしたコンテナ状のものが出てくるとそれは家らしき物体になった。


「後から出したのは僕の私物、先に出したのはギルドの備品ですから」


 見守る領民にあっさりと説明するとまた背負子から木の板らしい物を取り立すと、それに何やら文字を書きだした。


 そして書き終わると掘っ立て小屋の屋根に釘を使って打ち付けた。

 板っきれにはこう書いてあった。


「ハイグリーン冒険者ギルドアマゾン領分室」


 領民たちは訳がわからないようで一斉に首を傾けた。


・・・・・・・・


 先に出したのは見た覚えがある。ダンジョンの出入り口なんかでよく見る、ギルドの簡易受付所みたいな作りだ。

 でも後ろのは、はじめて見る。


「こっちにどのくらい居れるかわからないけれど、僕は生活の質を落としたくないんですよ。持ち運びできますから、万が一撤退するような事があっても問題なくすぐ撤去できますからご心配なく」




 あまりの事にわが領民たちは驚愕のため口を開けたまま固まり、私も兄も目を瞬くしかできない。


「さすがに倉庫は備品で持たせてもらえませんでしたからねぇ。そちらで用意してくれると助かるんだけど」


 しゃべりながらも手は休めず、掘っ立て小屋の方へ次々と小物を設置して収納していく。


 ものの半日もしない内に、営業できるまでに準備が出来あがった。



 「・・・よ、用意がいいね」

 兄も呆けたまま中々再起動できなかった。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 館に戻って私はネリーに見てきた事を話した。


「それさぁ。魔法収納だわ」

「でもさ、あんなにおっきなのが出てくるだなんて」

「よほど、いい職人が作ったんだねぇ。収納量は作った人の魔力に左右されるから、よっぽどの業物だよ。あたしも持ってるけど、そこまでは入らないねぇ」


 ネリーは自分の魔法収納の鞄を見せてくれた。

 ついでに中身の整理をするようだ。


「・・・・減っちゃったね。」


 ハイグリーンを出発する時に、溺愛するユリウスのために好物を半年分くらい詰めていたはずなのにほとんど残っていない。


 「こっちがこんな状態とは思わなかったから・・・その」

 

 言いにくそうにもごもご言う。


 「いいの。ネリー。はっきり言って?うちの領は貧乏だから物がなにもないよね」


 心優しいネリーは、領内の子ども達にも鞄の中身をふるまったのだろう。


「正直、香辛料なんかもこっちじゃ手に入らないからねぇ・・・一度ハイグリーンに戻って仕入れてこようか」


 「あ、それじゃ、わたしも一緒に。出来たら王都まで送ってくれるとありがたい。」

 兄が口をはさんだ・


 「王都へ?兄上。何用で?」


 「陳情だよ。今回の被害は王国側の不手際が原因だと訴えて、がっつり領地経営の運営資金をもぎ取ってこようと思う」


 兄上、笑っているけど目が笑ってないよ・・・。


「伝手を頼ってゆかりの貴族から援助してもらえるようにも頼んでくるよ。わたしの最初の外交は『おねだり外交』だな。・・・・フローラがこっちに来てくれたから安心して領地を空けられるよ。助かる」


 兄は言いながらポンポンと私の頭を軽く叩く。

 ・・・・・子ども扱いですね。




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