家内制手統治
「兄上、私は内政することに決めました」
果たして私のうろ覚えの知識で、どれだけやれるだろうか?
「わが領の夜明けも近いぜよ」
怪訝な表情で私を見る兄に、いい笑顔で言ってみた。
・・・・・今は夕方で夕陽が私達を照らしているが。
「無理すんな。」
兄が微妙な笑顔を浮かべて私の頭を撫でにきました。
これは本気にされてませんね。
「書類整理や計算を手伝ってくれるだけでもいいから」
・・・・そこからですか。
我がアマゾン領は、魔力だまりのある「魔の森」近くに位置している。
基本自給自足、主要産業は魔物討伐による素材の売買のみ。
領民のほとんどは、魔物との戦いで脳筋寄り、識字率はかなり低い。
我が家は一家総出で領地経営をしてきた。
その殆どが前回の魔物との戦いで亡くなっている。
足りないのだ、何もかも。
お金も物資も人ですら。
ライフラインの整備、食糧自給率の向上、教育の充実、領土防衛に産業改革
やりたい事はいっぱいある。
経済を立て直し、人口を増やし、税収をあげて領民、領主ともwinwinな関係の未来を目指したい。
幸福なのは領民の義務ですよっと。
「・・・・とりあえず、魔物討伐系の仕事はまかせとけ」
「こっちに冒険者ギルドを誘致できないかハイグリーンのギルマスに頼んでみる」
「赤の牙団」の仲間が何故だか視線をあわせてくれません。
くそう・・・誰もやれると信じてくれなくてもやってやる。
千里の道も一歩からなのだよ。明智くん。
「債務、債務、債務・・・」
「借金、借金、借金・・・」
ダンと私は頭を突きあわせて、書類整理をしながら呻いていた。
城というか領主の家の再建(木造の突貫工事で建ててあるが)に魔物との戦いで亡くなった領民への見舞金、荒れた農地復興のための支援金、次兄レーフェンのホワイトランド遠征のために使った支度金。
よくもまあ、こんなにマイナスを増やしたもんだ。
収入欄は0に近い。どうすんだよコレ。
「それもこれも、あの恋愛脳の馬鹿連中のせいだっ!」
原因を突き詰めれば突き詰めて考える程、ララリィ元男爵令嬢とその取り巻きたる男連中のせいとしか思えない。
「責任者出てこい!」
さっきっから乱暴な言葉が留まることなく飛び出す私の口。もう自分の事を貴族令嬢とか言えません。てか言いません。
「くっそぉ恨んでやる。」
「口を動かすより手を動かす」
レーフェン兄上からついに注意をされてしまいました。
この絶望的な状況の中でも兄上だけは淡々と仕事を続けています。
「慣れっこになっちゃったからね。もう2年もこんなことをやってるし」
兄上は乾いた笑いを浮かべました。いけない、目がうつろだ。
SAN値が実はかなりやばいところまで行っているのかもしれない。
私はため息をついて書類の山から視線を窓の外へうつした。
ガラスなんてものがはまっていないので、外と室内の温度は一緒だ。
灯火燃料の節約のため、昼間はできるだけ窓を開けているので、何枚も着ていても寒い。
そんな気温なのに、ユリウスは従兄弟のキルシェとエルシーと共に外を駆け回って遊んでいる。
レーフェン兄上の子ども達だ。ここに来てよかったのはユリウスに子どもの遊び仲間が出来たことぐらいだろうか。
見れば家臣達の子ども達も加わって、なかなかと楽しそうだ。
魔物の反乱で怪我をして働けなくなって飢える者や孤児も多い。
そういった者達に一日一食は炊き出しも行う。
そちらは兄嫁であるパトリシアが担当している。
これでも、そういった者達の数は減ったらしいがゼロにはならない。
アマゾン家では領民は家族と一緒なのだ。飢えさせて死なせはしない。
少量の穀物を湯でのばした粥状のものを配給していたのだが「赤の牙団」が狩ってくる魔物の肉のおかげで少しだけ豪華になった。
魔物の肉を食する事は別にタブーではない。ただ、種類によって美味なのとまずい物がある。
「赤の牙団」は美味しい肉の魔獣を選択的に狩って来てくれるのでとても評判がいい。
おまけに無償で提供してくれている。とても足をむけて寝られない。
「何とかしてお金を稼がなければ」
私の頭の中はお金、お金でいっぱいだ。
そんな中、ハイグリーンの町から薬売りのような木制の背負子を背負った一人の若者がやってきた。
その若者が、わがアマゾン領を変えるきっかけになるのだが、今は誰もそのことに気が付いていなかった。
日間ランキングに入っててびっくりしてびびった。
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