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モブの恋  作者: 相川イナホ
ヘルドラ遺跡にむけて
129/132

ヘルドラ遺跡の秘密


「…」

「…」


 私には前世の記憶があるので、まぁ何とか理解できるような気がしないでもない。

 あの水槽の中の紫の髪の人物は「本体」から復元したアンドロイド的な物。

 で、その中身としてインストールされるべきプログラムが目の前のゴーレムに入っていると。

 それを、復元体にインストールする手伝いをして欲しいという事だろうか?

 

 …中世的な文化程度の中にいきなり未来要素が突っ込んできたよ。



 「で、取引と言ったな?」


 フリードは何処まで理解できているのだろうか。

 たぶん、理解できないんじゃないかなと思ったけど意外にも話しについていっている。


 「ここに来て気が付いた事があったでしょう?」


 「…どういう事だ?」


 「ここの空間は清いでしょう?。他の因子によって中の人間が影響を受けないように陣が組まれているからね。研究したんだ。それが一番最初に我々が躓いた問題だったからね。ここではセイレーンの歌声もその力を発揮できない」


ゴーレムはその無機質な見様によっては顔に見える方をこちらに向けた。


「この星に降り立って最初に探索に出た班が『呪い』を付けられて帰ってきてね。我々の概念にすらない物だったから対処に苦労したようだよ。」


 「貴方方は…よその星から来たというの?」


 私は思わず口を挟んでしまった。


 「星?夜になると光る…あの星か?人がすんでいるのか?あれに」


 案の定フリードは混乱している。


 この世界の人々はまだ大地は果てしなく平らで地平線の先まで続いていると考えている。

 学者と言われる人の事はわからないけれど、一般の人の常識ではそうだ。


 「話が脱線したね。視たところ、君にもその『呪い』に類する物がかけられている。はっきり言えば『魅了』だね。君達にお願いを聞いてもらう変わりに、『抵抗の石』をあげるよ。術式は教えてあげられないけど、個人を守るのにつかう程度なら、環境に影響をたいしては与えないだろうしね。君達の世界でも類するものがまったく無い訳でもないようだし」


 余所の星から来ただなんて驚愕情報をあっさりと話してますけど、どういう事?

 私の頭の中は大混乱と興奮のるつぼだ。

 いやいやいや、今までの事が全部ふっとんでしまうんですけど!ワイバーン来襲もゴブリンの奇襲も!


「『魅了?』ここに来るまでに出会って戦闘した魔物の中にその能力を持つものがいたとは思えないが…

いや森に入ってすぐにハーピィと戦ったが…それか?」


 フリードは「余所の星から来た」というののを比喩としてとらえたようだ。

 たとえば王国と離れた限りなく遠くの国から来たという風に。

 うん。まぁそう考えた方が理解できるかもしれないね。


 というか、「魅了」かけられていたのね。

 本人には自覚ないようだけど多分それ、ハーピィにかけられたんじゃないと思う。

 名前にラがつく女性がかけたと思うよ?

 疑いたくないのか、おそらくラのつく人の『魅了』に認識阻害的な効果があるのかも。


 「ひとつ聞きたい。あなた方は神に属する、あるいは神に縁のある存在なのか?」


 まぁお空から来たと言われるとそう考えるかもしれないね?

 それか頭のおかしい人という評になるけど。

 これだけいきなり文明の進んだ物を見せられてしまうと神がかり的なものと感じてしまうだろう。

 それにこれだけ技術格差がある国がこの世界のどこかにあるというのも、王国に忠実な騎士として本能的に怖いものを感じるだろう。


「元始の仲間の名前と一緒の名前の『神』を祭る神殿とかあるようだね。」

 

この世界の宗教は一神教ではなく、「豊穣をつかさどる農業の神」「戦をつかさどる神」などさまざまな神々を祭っていて、国々や地域に根差しているマイナーな神様もいる。つまりは、このゴーレムの仲間達は人が伝承となり神に祭り上げられるほどの時間をここで過ごしているということになる。


「ここにはどんな目的で?」


 思わず入国審査管のような口調になってしまう。


「開拓だよ」


その言葉に身体が固くなる。前世の記憶の中でも開拓と言う名の侵略が行われていたという知識があるからだ。


 「結論を先に言うと、開拓には成功して失敗した。我々が今ここにいるのは撤収のための段取りにつまずいたから。君が手伝ってくれたなら、それも動き出す。ここの設備は廃棄され処分され、君達の文明に影響を与える事もないだろう。それにもう開拓者も来訪者が来る事もない。来ようとしても出来ないんだ」


 ゴーレムの表情に変化はない。

 いや、表情が作れるような作りではないんだけど。


 「言ったよね。みんな死んでしまったんだよ」


 「…それは、ここにいる人って事?」


 「いいや。星ごとね。もう移住先を探したり開拓したりする下地作りする必要さえもなくなった。この星に取り残された仲間もすべて死に絶えた。残っているのは後始末を担当する最後の仲間が残した我々プログラムだけさ」


「もしよければ、俺達の国に来ないか?俺は王族ではないから今は約束できないが、きっと王を説得して…」


 フリードが言うのもわかる。これだけの技術を国に持ち帰ったならば、文明度も大躍進する事だろう。

それは国力が大幅にあがる事にもつながる。

さっき見た修復担当の保安ゴーレム軍団だけでも、例えば建築物の維持などの分野で革新が起きるだろう。


「それは出来ない。君達は君達で技術と文明を積み重ねてたどり着く終着点というものがある。過ぎたる技術は星をも滅ぼす。我々の仲間が滅びたのはちゃんとそれを使いこなす側が成熟していなかった事が原因だったんだ。…この星に関わったものの最後の意思を反映して、同じ轍を踏ませる気はないよ」


 

 たとえば制御できない大魔法。狂った権力者が率いる最強の軍団。アーティファクトによる最凶兵器。

それらが引き起こす悲劇はそら恐ろしいものであるだろう。

 例えそれを引き継ぐものが今は正しい者であっても、その側近、その子孫あるいはその簒奪者が正しい判断が出来る者であるとは限らない。

 ゴーレムが言う事は間違ってはいない。



 「さぁもう時間がないよ。君達の仲間に危機が迫っているようだ。ちなみに君達がこちらの申し出を断った場合は、ここから出してあげる事ができなくなるから」


 そう言われると選択肢はないようだ。


「取引と言ったが、選ぶ余地などないじゃないか」


 フリードは諦めて私の方を見た。

 私も同じ事を思っていたから、苦笑して頷いた。


 ここの技術が失われるのは惜しい気がするけど、どうせきっと使いこなせないどころか手に入れた者によっては害を世にもたらす事になるだろう。

 もともとこの国の、この世界のものではないのだ。

 もともとないものが無くなったとしてもそれを知らねば、世の中に影響はない。

 むしろ影響がない方が望ましいのだろうし、よその星から来た人達がひっそりと魔の森でこの世界を開拓するべく作戦と方法を練っていたのだと知ったとして信じたりする者はいないだろう。


「我々は自分たちを終わらせるためにプログラミングされた存在だ。君達の世界に干渉はもうしない。信じてほしい」


 もうって言うところが気になるが、悩んでいる時間は残っていないようだ。



 「ひとつ確認だが、お前の言うとおりにして、我々に不利な事は起こらないだろうな?」


 「大丈夫。わたしはここを片づけるために作られたんだ。早くしないと。君達にも急ぐ事情があったはずだよ?」


 ゴーレムにせかされて、水槽の前のタッチパネルを操作する。

 パネルに表示される文字はさっぱり読めないが、ゴーレムの指示の通りに入力をしていく。


 やがて、目の前の水槽からみるみる水が抜けていくと、ゴーレムの動きが止まる。

 

 「やっと本来の仕事ができる」


 あれ?ゴーレム、まだしゃべれるの?

 中身あっちにうつったんじゃないの?


 水が抜けきった後、水槽は床に吸い込まれていって、しゃがみこんだ紫の髪の青年が残る。


 その瞼が持ち上がり、美しい紫の瞳が現れる。

 

 「誕生おめでとうレト」

 「ありがとうロハ」


  ゴーレムに声をかけられると、にっこりと笑ってその青年は答えた。

 そして立ち上がった。


 -全裸のままでー


 

 ちょっと待って、前隠そうよ。

 てかそんなモノまで復元しなくても…

 

 

 青年の胸のあたりに何か文字が書いてある。


 「レト21号、通称『レト』」


 ゴーレムが説明してくれる。


 「レトって呼んでね?」


 やさし気な微笑みを浮かべてはいるが、それより前を隠して欲しい。


 「…これを着ろ」


 フリードが自分のマントを脱いでレトに投げる。


 「…レト。本体さん服用意するの忘れてるよ」

 「ロハ。僕は気にしない」

 「レトが気にしなくても、こちらさんは気にすると思う」


 「んー。まぁ本体さんの予定とはだいぶずれちゃったからねぇ。僕が目覚める時にお客さんがいる想定はなかったから」


 レトはフリードのマントで身体を覆った。裸マントである。ある意味変態だ。


「君達とのやりとりはロハの中から見てたからわかるけど、まずはこれね」


 ゴーレムの名前はロハというらしい。こちらには番号はついていないようだ。


 「この石を君にあげよう。きっと役にたってくれるから。そうだね首にかけるように細工でもしていつでも身につけるがいいよ」


 レトが近くのキャビネットのパネルに手を翳すと自然と扉があく。

 どうやら指紋認証とか血管認証に似たような認証のシステムがあるようだ。

 だから本体の身体を復元しなくてはならなかったのかな?

 レトはそこから雫型の石を取り出した。


 「君にもね。この森を出る時にも助けになると思うから」



 もうひとつの石を私にも握らせてくれた。


 「ありがとう。これでようやくここを終わらせてあげる事が出来るよ」


 

 


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