かみ合わぬ
「…フローラ」
誰これ誰これ誰これ
あの頃みたいな表情で私を見つめる貴方は誰?
「妬いて…いたのか?」
私が好きになった人は、恋人の前で別の女性といちゃついて見せて、嫉妬させて愛情を確かめるという残念な人のようでした。
「俺の事…本当に…好きなんだな…?」
脳みそがとろけそうな甘々な声でささやかれて私は…
ウップ
のっけから失礼いたしました。冒険者のフロルです。
魔力酔いで眩暈がしているところを無理矢理のマウント取り合いでゴロゴロ転がれば当然こうなりますよね。
今日は、竜の下敷きになったり、同行者にのしかかったり、のしかかられたりで忙しかったです。
で、フリードが上になった時に、なんか脳が全力拒否しているので思い出せない何かを囁かれたようです。
名状し難い気分と共に吐き気がこみあげてきました。
奴も驚いてとりあえずの休戦協定を結び、一応背中なぞさすってくれたりしております。
とりあえず、学園時代の彼がララリィ嬢に夢中になる前は、という前置きつきですけれども、
ー俺が好きなら、俺を簡単にあきらめるな。俺は他の女とも遊ぶけどなー
という腹の立つ、理不尽な、大変身勝手なわけのわからない心理状態であったのだろうと理解できました。
わかるか!
恋愛の駆け引きに長けた人でなきゃ、そんなのわかんないよ。
あなたは色んなおねぇ様達とも散々と、押してーひいてーの諸々が普通だったとしても!
私は成人前のピチピチの14歳で、恋愛偏差値は初心者のステータスしかなくて、
あちこちのお花を渡り歩いて培われた恋愛偏差値達人級の本心なんてわかりません事よ。
お鍋の蓋とひのきの棒的な初心者装備じゃ魔王配下の四天王とやりあえません事よ!
恋って相手の事が好きなだけじゃダメなの?
ごめんね!猪突猛進で!
変化球とか、牽制だとか、フェイントだとか、猫だましとか対応できませんわよ!
「とりあえず、まず外に出る事を考えましょう?」
でなきゃ気持ち悪さと吐き気でギブアップしそう。
「ライト」
魔法でふよふよと浮く光源を作りだします。ポーチより鏡を取り出して覗き込むと、ああ、けっこう派手な事になってますね。
「ヒール」
直し損ねていた顎の打ち身にも治癒の魔法をかけておきます。
これで痕が残るような事はないはず。
背中をさすってくれていたはずのフリードが、いつの間にか背中から私を抱きしめる形を取ってきていて
焦る。
今、そんな気分じゃないのに。
「お前に贈った髪飾りを知らない女がしていて落ち込んだんだ。」
ハイ? それこそ何のこと?
「無理やりだったのもあるし、俺が下手すぎて嫌われたかと思ってた」
まだその話続ける?
でも思い出してみると…
「当時、学園内の女子寮で窃盗騒ぎがあったわね。たしかララリィ嬢が大切にしていたブローチが無くなったとかで、何故かフィリペ様の婚約者のダイアン様の名前が犯人として挙がっていたけど、その頃、ブローチだけじゃなくて他の人の物も色々なくなっていたみたいで…犯人はダイアン様じゃあないってもっぱら女子の間では囁かれていたんだけど。…その、髪飾りをしていた人って誰?」
「わからない。知らない女だ。貴族誌にも記載がないような…」
そうだなと、フリードは考え込む。
「髪は茶色、だったかな。アマンダ嬢と同じ柄の扇子を持っていたのであれ?って思ってみたら髪に俺の贈ったお前の髪飾りが…」
「…アマンダ様の扇子も盗まれたのよ。やっぱりダイアン様の件も違うんじゃない?」
しかしよく覚えていたわね。
「悔しくて、よく覚えてる。お前の目の色に合わせて作らせたものだったから」
「私…受け取ってないわ」
「お前と連絡が取れなくて、図書室に行ってもすれ違ってばかりで、使いの者にもたせてお前の部屋に届けさせたのだ。…驚かせようと思って」
えーとそれ冷たくしといて、サプライズの贈り物で気をひくっていう駆け引きですか?
「知らないわ。…私とコンタクトとろうとしてたの?」
「言ったろ?お前は特別だったって。なんで無視したんだ?」
おかしい、何かがおかしい。